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第32話“復活”の概念

「玲子さんはどこか別の場所に寄られるのですか?」

 

 颯爽と走っていく玲姉の後姿を見ながら北条が言った。


「いや、玲姉の弱点はほとんど無いと言っていいんだが、唯一乗り物酔いが凄いんだ……。

大抵僕が絞殺されかけることで何とかストレスを軽減していることが多いんだよね。というか、改めて思い出しても酷いストレス解消方法だ(笑)。

 というわけで、僕のことも考えて歩いて帰っているんだよね。でも、凄いのが玲姉の脚力が尋常じゃないからそんなに変わらないんだよ。帰宅する時間が(笑)」


「え……そうなのですか……」

 

 北条は絶句している。そりゃそうだろう、僕も信じられないんだから(笑)。


「そういや、まどかは別に車酔いしないよな? むしろ遊園地のアトラクションとか好んで乗るタイプだし。何で玲姉だけそんなに乗り物が苦手なんだろうな?」


 まどかとは遊園地絶叫マシーン耐久力勝負で僕と互角だからな……。


「お姉ちゃんは確か虻利家に来るときにトラックに乗せられてきて、その時の境遇と揺れが酷すぎたのがトラウマになったみたいなことを言ってた気がするなぁ」


「へー、そうだったんだ。それは僕も知らない情報だった」


「あんまり、その時のことは思い出したくないみたいだからね。自分からは話さないんじゃないの?」


「ま、そうだよな……」


 玲姉10歳、まどか0歳の時に獄門会から虻利家にやって来たわけだがその際にほとんど“追放”という形だったのだ。

 今の飛行自動車だと揺れが少ないから気にしなくてもいいのにと思うけど悪い思い出が蘇るのだろうな……。しかし、10歳にしてあの獄門会が手に負えないって改めて考えてもヤバすぎるだろ……。


「そういや、お兄ちゃん小早川に連絡とったの?」


「あ、結局完全に忘却していた……」


「もぉ、お兄ちゃんったら本当にしょうがないんだから!」


「はははは……最短で会話終了直後に忘れる」


「威張る所じゃないでしょ……」


「お前は分かってないなぁ。その瞬間、瞬間で今に集中しているんだよ。知ってるか? 

それをマインドフルネスって言うんだ。僕は過去を振り返らないんだよ。例え数秒前の僕でも今の僕とは違うのさ。まぁ、お子様には分からないかもしれないがねぇ~」


「お子様じゃないしっ! それに、カッコいいこと言ってるように見えて実際はただすぐに忘れているだけでカッコ悪いよね?」


「うっさい!」


 北条が声を出さないように必死に口をふさいで笑いを堪えているのが目の端で捉えられた。これだから僕たちのやり取りは“コント“と烏丸に揶揄されるのだろう。そんなつもりは無いというのに……。

 車に乗り込むと今度こそ為継に先ほど話し合ったことを連絡で共有しながら帰ることにした。


「なるほど、不気味な笑いの男は気になりますな。霊能力者というのは一部では科学的に解明されてきてはいますが、その者に関しては全容が分からないとその能力の特異性も分かりません」


 大まかな内容を僕が話すと為継はそう言ってきた。最新の研究では交霊術や残留思念というのが確かにあるというのが証明されつつあるというのだから驚きだ。


「だろ? 伊勢も後遺症があるかどうか推移は見守っておく必要はある。いつ目覚めるかがまず焦点だな」


「しかし、景親は保護できる可能性はこれで上がるわけですから悪いことばかりではありませんな。命には代えられませんから」


「だよな。生きていればどうにでもなる。死んだら流石に取り返しがつかない」


「その話に反することで悪いのですが、科学技術局の私とは別部門での話です。コスモニューロンで得た情報を元に肉体だけでなく記憶も“復活”できるという話を聞いたことがあります」


「え……マジか」


「ええ。“過去の偉人を復活させる”というのが今も各所のイベントで行われていますが、それはあくまで“想像上の偉人”ですからな。この一件とは訳が違います」


「確かに、正直偉人が一緒に暮らすわけじゃないし、あれはアンドロイドだからな」


 “偉人”は正直言ってこういうイメージじゃね? という域を出ないからな。“それっぽい事“を言うだけで見ている人はウケるし、完全にエンタメ要素の存在ではある。


「今のところこの“復活”した者というのは元の生活に戻ることを前提としています。様々な実証実験が非公開ながら行われています」


 やっぱりそうなんだな……。


「んー、しかし、元の人物と見た目上や反応は一緒でも結局のところはさ“本人“じゃないわけでしょ? なんかこう……上手く言えないけど気持ち悪いよね」


「虻輝様は現物をご覧になっていないのに想像力が豊かですな。日々様々な改良がされています。しかし、どれだけ改良された“復活”した現物も、その“気持ち悪い“というところは抜け切れていないのです」


「あ、そうなんだ。それだと、実用化までは時間がかかりそうだねぇ。どういうことが課題だと思われているの?」


「指摘されて問題になっているのは“魂”という意味で本人とは違うという意見があるようなのです。実証実験においては現物は実際見た目上はかなり同じように見えて、普段やっていたことと同じことをしていても“何か違う“という意見も多いのです」


 “復活”した人物を“現物“という為継の表現も何とも言えない気持ちになった。


「はぁ、なるほどねぇ」


「また“復活“した存在は生前の人物のクセなどの動き――つまりは物理観測したものをそのまま再現しています。

 それにもかかわらず、違和感が生まれるのは人間の感情付与の段階において他の要素があるために差異が生まれていると思うのです。その差異が”魂“なのかどうかまだ完全には証明されていないのです。今後研究課題となっていくでしょう」


「しかし、そのプロジェクトは不慮の事故とかで突然家族を亡くした人とかには凄く需要がありそうなものになりそうだよね。家族を失ったことを受け容れられない人は精神病になってしまうからね」


「ええ、そういった方々への高額ビジネスになりそうです。ですから科学技術局でも熱烈にこの施策を進める派閥というのが存在しています」


「逆に反対派って言うのはどういう主張をしているんだ?」


「主に反対派は倫理的な問題を指摘しています。具体的には自然の摂理に反するのではないかというのが大きなところです。また手続き上の問題でも“復活者”は人口に加えて良いのか? 死亡した際に戸籍から抹消されますがそれが復活するのか新しく書き加えられるのかなど小さい点まで議論がされています」


 日本は管理社会の側面を強化する意味で戸籍制度は無くならないだろうしな。


「なるほど、国家を運営する側だから尚更そういう点も注視されていくわけだね」


 為継の立ち位置や誰にこの会話を聞かれているか分からないので口には出さなかったが、殺してしまってその後偽物を送り込む――そう言った恐ろしい事にも使いかねないなとも思った。


「ええ、既にメタバースやバーチャル空間での復活については既に先行的に開始していますが、やはり“実際に会った“という感じはあまりしないと統計的にも出ておりますからな」


「まぁ、話は逸れたけどそういった形の“復活“ってのはあるかもしれないけど、何となく無いかな~と思うから伊勢が無事で何よりだよ」


「そうですな。私も“復活”については違和感を感じていますので虻輝様と同意見です。ですから虻輝様達には景親を救ってもらって本当に感謝しています」


「気にするなよ。いつも世話になっているんだからな」


 その分、身の危険を感じる場面は多かったがな……。しかし、“復活”についてそこまで具体的な議論がされているということは技術的にはもうかなりのレベルまで来ているということなのだろう。物凄い進化を感じさせた。


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