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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第2章 悪夢の共闘

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第29話 正義の在り方

知美はこれまでの玲子の発言を聞いて次の疑問が浮かび上がった。


「よく、虻利家が多くの人々から支持されているから正義だという人もいます。それについてはどうなんでしょうか? 

この考えに立つと私たちは少数派で間違っているという可能性もゼロではないように思えるのですが……」


 今現在、この世界でのおおざっぱな思想人口比を紹介する。

まずは、虻利の理念に賛同はしていないものの特に虻利の生活に対して不満を持っていない人たちこれが全体の人口の6割ほどいる。いわゆるノンポリと言われている存在に近い。

 次に虻利崇拝派。主に虻利の理念に賛同し積極的に施策に参画してくれている勢力これが全体の2割ほど。そして、反虻利勢力・テロリストとして指定されている勢力が2割ほどいるという状況だ。

 人口比としては虻利家を支持している人の人数というのは圧倒的な多数派を占めるということになる。


「かなりいいところを付いている質問ね。私が思うに、多くの国民は無知で視点が足りないから“社会正義としても虻利家が優れている”と思い込まされてしまっているのよ。

しかし、実情を知る私達のような立場からすると“間違っている“という判断をする人が増えてくる。つまりは、多くの人々が無知なのをいいことに騙されているのよ」


「なるほど、言論統制の結果での支持というのは間違っていますよね。

それなら、多くの人に情報を与えれば皆気づくかもしれないということですか?」


「難しいのは、“悪いことをしている”虻利家が今の社会のシステムを握っていることよね。

例えば虻利家の行っている実情を開示しても私たちはすぐにでも粛清されてしまうわ。

今の世の中では“危険思想“をSNS上で一言でも呟けばすぐに特攻局の人達が飛んでくるからね」


「そこが最も問題ですよね……」


「また、注意するべき点としては私達が持っている情報も”彼らの都合のいい情報”しか流せないように情報統制されているわ。

だから私達も“正しい情報”が何か見極めていく必要があるわね」


 玲子はこのカフェの位置を監視カメラや録音がされにくい場所取りをしている。更に声を潜め、知美にだけ何とか聞こえるぐらいのギリギリの声で話をしている。

それぐらいしないと虻利家の盗聴能力というのを掻い潜り会話することは難しい。


「どういった情報が“正しい情報”なんでしょうか?」


「私たちの最大のメリットは虻利家の“心臓部”に限りなく近い人物たちが身近にいることね。彼らも“正しい情報”を持っているのか分からないけれども、少なくとも一般人に与えられている情報よりは正しいと思えるわ」


「なるほど、さり気なく絶妙なポジションなんですね」


「そうね。私たちがこうして会話ができているのはどちらもコスモニューロンを導入していないからに過ぎないからね。

私は携帯電話を持っているけど非常用以外には使わないようにしているし」


「私はほとんど携帯電話すら使えません……それが幸いしているんですね。そうですね、この問題は一筋縄では解決しませんよね。何か平和的な解決方法というのは無いんでしょうか……」

 

 知美は復讐という形においては武力行使も辞さないという考えの持ち主だが、本来は平和的に解決をしたいと思っている。ただ、世の中は個々人で解決できるレベルはとうの昔に超えている。


「本来ならば、双方が話し合ってお互いの主張をぶつけ合って歩み寄っていくべきなんでしょうね。でも、虻利家というのは圧倒的な権力、技術力、戦力を持っているわ。

 更に、彼らは決して自らの正義を曲げることは無いと思うの。

 彼らも彼らなりの信念があるから、向こうから歩み寄ってくることや妥協することもあり得ないのよね」


「それは分かります」


「私としても無用な衝突は避けていきたいけど、いざという時は正面から戦おうと決意したのよ。とりあえずすぐに戦うことはしないけれども、いざという時のために少しずつ私達の考えに共感できる人集めていこうと思っているの」


「そうですよね……現実は甘くないです。分かりました! 私も失うものは無いですし改めて玲子さんについていこうと決めました! このままでいいはずはありません!」


 知美は前に乗り出し玲子の右手を両手で包み込むようにして握った。


「ありがとう。なら、知美ちゃんの今の任務は分かるわね? 輝君と仲良くしてね」


「そ、それは……」


 知美は玲子の取った手を放そうとする。しかし、玲子は左手で知美の手の上に被せた。玲子のなかなか過去の禍根というのは今の話を聞いていても消えないようだった。


「ちなみに、私のお義父さん……虻利虻成も、あなたのご家族をバラバラにしたというあなたの一件があってからかなり後悔したみたいよ。

 失ったあなたの家族は還ってこないし、虻成も虻利上層部を支配している連中の大筋からは逆らうことはできないけど、彼なりに虻利家を変えようとしている。

 ――これは輝君にも言えることだわ。だから、今から変わろうとしている人をあまり糾弾しないであげてくれる? 指摘するのはまだ気づいていない人にしてあげるべきだと思うの」


「……そうですね」


 傷口から血が出ているところをさらに抉ったら痛い気持ちをするのは間違いないだろう。だが、知美の傷口からもまだ血が出続けているのだ。


「あなたは復讐心でそこまで強くなられたんだと思うけど、それを復讐というところ以外のところに使うところでもっとあなたは上の段階に行けるわよ。大丈夫、あなたはもう一人じゃないんだから」


「……分かりました。家族との絆は私の大切なルーツであることは間違いないですけど、過去ばかりを見ていても仕方ないですからね。それに、まだお父さんと弟はどこかで生きていると思うんでまたみんなで仲良くできると思っています」


 玲子は知美の目の中を覗き込む。2人共優しい目つきだった。


「そう、思い出は大切だし、それは忘れてはいけない一生のもの。人間が他の動物とは違う存在である証だとも思っているわ。でもそれに捉われていても仕方ないわ。

 輝君は今は本当にダメダメかもしれない。でも、何か光るものはあなたも感じているのではないかしら?」


「そ、その……すぐには難しいとは思いますけど、私なりに歩み寄ってみようと思います。確かに、あの人も子供に優しく接していたり、問題を解決しようと必死になって取り組んでいる姿を間近で見てきました。

 変われる可能性というのは確かに感じます。玲子さんが言うのならば私も少しは信じてみようと思います」

 

 玲子はこれまでの真剣な表情を引っ込めていつもの笑顔に戻った。


「ありがとう。知美ちゃんの決意を無駄にはさせないよう私も輝君をしっかりさせるわ」


「それにしても、玲子さんは本当に凄いです……本当に何でも知っているようで……」


「あら、そんなことは無いわよ。私だって知らないことはあるし、間違うことだってあるわ。ただ、少し人より苦労してきた場面が多くて考える時間が長かっただけということね」


「私も色々と考えてきたつもりだったんですけど……あまりにも自分本位過ぎました……」


「大丈夫よ。私だってそうだもの。だから一人一人は弱いけど皆で支え合っていきましょう?」


「玲子さんが弱いとは思えませんが……とにかく私にできることをやりたいです」


 2人の話がまとまったその時だった。玲子の携帯電話が特殊な音をもって鳴り出す。


「あら……輝君から緊急信号……! 知美ちゃん申し訳ないけど、1人で帰ってもらえるかしら。私は輝君のところへ行かなくてはならないから」


 玲子は普段は電源を切っているが、この虻輝が持っている特殊な緊急ボタンを押すと強制的に携帯電話が立ち上がり緊急音を発するようになっている。


「いえ、今日は本当に私のためにありがとうございました。1人で色々と考えながら帰ることにします」


「ええ、少しでも知美ちゃんの助けになれたなら本当によかったわ。では、また私達の家で会いましょうね」


「はい、お気をつけて行って来てください」


 玲子はこれまでの優雅な動きとは対照的に物凄く早く身を翻してその場を立ち去った。

 知美はその後姿を見ながら少し複雑な気分だった。今のところは虻輝と仲良くする気は毛頭無かったからだ。

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