第24話 大型犬の捕獲
2055年(恒平9年)10月29日金曜日
今日は僕とまどかと美甘の3人で現場に向かい。為継の衛星管理システムでのサポートを受けることになった。とりあえず今は、車の中で麻酔銃がちゃんと作動するかどうか説明書を見ながら最終確認をしている。
「なんか知らんが、やけにご機嫌だよなお前」
まどかがさっきから鼻歌交じりで上機嫌だ。麻酔銃越しに標準を合わせて見てもそれが分かる。
「だって、お兄ちゃんと久しぶりに出かけるんだも~ん」
「ふぅん、でもさ別に毎日一緒に暮らしているじゃん。僕のことなんて飽きるほど見てるんじゃないの?」
ちなみに僕はというと土日は1日中家でゲームするのがデフォだから出かけるだけで不満しかない。まぁ隙を見てやろうとは思うけど(笑)。
「えー、だって家だとお姉ちゃんと会話してばっかりじゃん!」
「お前からは建設的な意見が聞ける見込みが少ないからな。自ずと玲姉と話すことにはなるな」
何となく気分でまどかを麻酔銃のスコープの穴から覗いた。もちろん、安全装置はついてる状態だ。
「むぅー! 確かにそうかもしれないけどさぁ。って間違ってあたしに向かって撃たないでよね!」
「お前は元気が取り柄だからな。まぁ、例えて言うなら元気なペット? みたいな感じかね? ちなみに、誤射する可能性は0.5%ぐらいかな」
「ってあるんかい! もぉ~本当にヒドイなぁ。お兄ちゃんだってペットっぽい訳だし、それにあたしはお兄ちゃんのこと……」
「え、何か言ったか?」
「な、何も言ってないよ!」
ったく、顔を赤くしてどうしたんだ全く……。
「まぁ、でも最近お前と心の距離が離れた気がしていたから、その点は修復できてよかったよ。流石に家で1人と言うのは心身ともに堪えた」
「ちょっと前までのお兄ちゃんは凄く怖かったんだよ……。何だか悪いものに憑りつかれたみたいで……。ノリも悪かったし、表面上を必死に取り繕っていた感じ」
まぁ、そういわれても仕方のない状況ではあった。毎日、どうしたらいいんだろうって迷っていたし、夢に出るぐらいだったから……。しかし、まどかも僕のことをちゃんと見ていたんだな。
「心配かけたな。もう大丈夫だ……多分(笑)」
「ちょっとぉ。多分じゃ困るでしょ~!」
そうこうしているうちに、目標としている地点に到着した。
「すぐに終わらせるつもりだが気をつけろよ。話によると狂犬病の注射も最近接種したみたいだし、嚙まれても大丈夫ということらしいけど、普通のカスリ傷とは違うからな」
「うん!」
「狙撃については任せろ。FPSで慣れてるからな」
「エフピーエス? ってなんだよ……。あんま美味しくなさそうだね」
食べ物と勘違いするとは……。
「FPSっていうのはファースト・パーソン・シューターの略で簡単に言えば3Dの主人公視点で銃で撃ちあうゲームだ。ちなみに似たようなタイプで三人称視点でプレイするのがTPSだ」
「ふーん、とにかくバトルシューティングのゲームの種類の一つの名前なんだね」
あまり興味がなさそうだった。コイツ、レースゲームで逆走し始めたり、集団戦だと味方を殴り始めるとか笑えるぐらい弱いからな……指摘するとキレ始めるだろうから言わないでおくけど。
「まぁ、とにかく現実で銃を撃ったことはないけど並の人間よりは慣れているはずだ。FPSとTPS共に世界ランキング1位だから信頼してくれていい」
「リアルでは初めてなんだ……」
「お、おい、そんなに不安そうな顔するなよ! 誤射する可能性は0.8%ぐらいだからさぁ」
「ってさっきよりちょっとだけ上がってるし! それじゃ、あたしが犬の注意を引き付けておけばいいんだね?」
「そうなるな。データによるとこの辺りに……」
僕は息をのんだ。車の中からも確認できる……200メートルほど先に山のように大きな犬がこちらを窺っているのが分かる。
「あ、アレなの? 思ったよりも大きくない?」
少し薄汚れてはいるが間違えなく写真のバーナードに違いない。しかし大きいな……。
「まどか、頼んだぞ!」
僕は勢いよく車を出て麻酔銃を構えた。
「うん!」
まどかも車を飛び出して構えて牽制した。バーナードも警戒して動かない。今だっ!
僕は引き金を引いた。思ったよりも引き金は軽い気がした。ヒュンッ! と静かな音でバーナードの首のあたりに直撃した。
「ガウッ!」
異物が当たったのを感じたのか逆に暴れ出した。
「まどか! 5分でいい完全に効き目が出るまで抑えつけろ!」
「よおしっ!」
飛び掛かってきたバーナードをなんと正面から受け止めた! しかも、バーナードを傷つけずに受け止め切れているんだから驚きだ。まどかの小ささなら普通ならダンプに衝突したかのように吹き飛ばされそうなものだが……これはまどかの実力はホンモノかもしれないと思った。
僕はその様子を見守った。下手に出しゃばれば足手まといになると思ったからだ。まどかの状態が思わしくなくなれば出ていこうと思ったが、徐々にバーナードの力が弱まっている感じがした。少しずつ麻酔の効力が効いてきたのだ。
まどかとバーナードが組み合って7分ほど経過したとき、バーナードがついに倒れた。
「はぁ……はぁ……。や、やったよ。お兄ちゃん」
まどかは汗びっしょりだった……指摘すると怒られそうだから言わないでおくけど。
「いやぁ、お手柄だった。お前の力がホンモノであることも証明されたな」
「へへーんだ。これを機にあたしに対して敬意を表すること!」
「なーに調子に乗ってんだよ!」
そう言って座り込んでいるまどかにデコピンをした。
「あっ痛っ! もぉ……お兄ちゃんなんて一発撃って見守っていただけのクセにぃ~!」
まどかがおでこをさすった。あんまり力は入れていなかったつもりだが少し赤くなっていた。
「ハハハ!」
今、まどかは疲れているようだからここぞとばかりに遊んでやった。
「ところで思ったんだけど、このバーナードってどうやって車まで運んでいくの?」
「あ……全くそれについて考えていなかった」
車に乗せた後のことは檻に運ぶことを考えていたが、車まで運ぶ手段は完全に忘れていた……。思わず飛び出してしまったので何も考えていなかったが、ここは細い道で車が入れそうにな
い。そんなに離れたつもりは無かったが車からは距離にして200メートルほどはあった。
「ちょっとぉ! しっかりしてよねっ! あたしもうボロボロなんだけど……」
まどかは女の子座りをして空を見上げた。僕も空を見たが雲が少し見える程度で青く爽やかな日だ。立ち往生して天気が悪かったら最悪だ。
ただでさえこの犬の体重は僕とまどかの体重を足したぐらいありそうなのにそれを傷つけずに運ぶのは難しそうだった……。
まず横幅がありすぎる……まどかがいくらパワーがあるとはいえ、腕の長さなどを考えれば最低でも一部分は僕が持ち上げなければいけないだろう……。僕の体がもつようには到底思えなかった……。
バーナードを転がしたり引きずれば動かせそうではあるが、そんなことをしてしまうと傷だらけになりそうでそれはそれで問題だろう。それは依頼として成功したとは言えない。
僕だけでは妙案が思いつきそうに無いので、コスモニューロンを起動して為継に連絡した。
「なるほど、確かに車まで運ぶ手段については私も失念していました。しかし大丈夫です。今援軍を向かわせましょう。私は行けませんが近くに頼りになる助っ人がおりますのでご安心ください」
「おぉ~、それは助かるな。正直言ってどうしようか困って途方に暮れていたんだ」
「近くにおりますから直ぐに向かうように連絡します20分ほどお待ちください」
「ああ、期待して待っている」
ついでに休憩もできるし良かった。まぁ、僕は麻酔銃を構えてまどかを見守っていただけなんだけどね(笑)。まどかが休めるのが僕が力仕事をしない意味で大きい訳なんだが(笑)。。




