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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第53話 感情の波

 17時、私の大学とまどかちゃんの高校が終わって都内で玲子さんと待ち合わせしました。


 今日は授業を受けながらずっと考え事をしていました。


 果たして私は育ての親を取るのか、それとも今の生活を取るのか――それを迷い続けていました。


 育ての両親の島村さんご夫婦はは神社や寺の境界線について各々の組織の連携役を務めていたためによく熟知しているに違いありません。

 ですから、ご夫婦を見つけ出すことが出来れば必ず貢献できるからです。


 もっとも言わなかったからと言って今、私が何か失うことは表向きから見ると無いと思います。

 

 私の思考を知り尽くしている玲子さんから冷たい目で見られるとは思いますから、密かに失うものは大きいんですけどね……。


 島村さんご夫婦には孤児が集まる施設から引き取っていただいてから本当に良くしていただきました。本当の娘のように育てていただいたことは今も心の底から感謝しています。


 だからこそ、また厳しい言葉を投げかけられたら私の心は耐えられるんでしょうか……。

 あの時も息が詰まりそうになって窒息しそうだったのに……。


 授業はそんなこんなでどこか上の空で必死にノートにメモを取るのがやっとの状況でした……。


 皆さんは起きていれば自動的にコスモニューロンのデータに収納されるアプリを活用していてこういう時は凄く便利そうですよね……。

 

 こんな時にはそういった技術が酷く羨ましく見えました……。





 大学が終わり待ち合わせの場所に向かうと玲子さんが待っておられました。

まどかちゃんはまだみたいです。


 玲子さんは目を瞑って何やら瞑想か考え事をされているのでしょうか? それとも風や空気を感じ取っているのでしょうか――佇まいだけでもとても美しく感じました。

 

 今は玲子さんと一緒に動くんですから、育ててくださった島村さんご夫婦には感謝しつつも今やるべきことを完遂するべきですよね……。


「知美ちゃんお疲れ様。今日からこの各施設の境界線を探す活動よろしくね」


「はい、お願いします。あの……玲子さん。実は……」


 スッと玲子さんは私の唇を手で止めました。


「うん。知美ちゃんの考えていることは分かってるから。

 無理に情報を提供しなくても構わないからね?

 たとえ私が読み取っても皆には決して言わないから……」


 フッと指が私の唇から離れました。


「いえ、大丈夫です。無理はしていません」

 

「でも、その状況だとまた再会すれば強い言葉で何か言われる可能性が高いわよ?

 その覚悟はできてる?」


 『今のお前さんは死んでくれたよりよっぽど悪い状態さ“魂を売り渡した”も同然の状況なんだからね』という早苗さんの言葉が頭に思い起こされました……。


「はい……。大丈夫です。既に育ての両親には勘当されていますから。

 もうこれ以上失うことはないです……」

(第6部8話)


 あの時はショックでしたが、生き続けるということは喜びもあると同時に、悲しみや苦しみも味わうことだと思いますから……。


 ここは乗り越えなければいけない山なのだと思います。


「うん。その表情なら大丈夫。きっとこの先どんな困難でも立ち向かえるわ」


「そんな……私はメンタルが弱くて困っているぐらいなんですから……」


「メンタルに強いも弱いも無いと思うわ。

 私だって弱気になるときがあるから、感情に波があるだけだと思うの」


「え……玲子さんでも弱気になるときが……?」


 何だかちょっと信じられないですけど……。


「最近だと、まどかちゃんにかけられた呪いを解除するための勉強を獄門会でしておけばよかったかな……。とか思ったしね」


「……そういう時はどうやって乗り越えるんですか?」


「過去は変えることが出来ないから、まだ起きていない変えることが出来る未来をどうするか? だと思うわ。

 弱気になった時にどう自分に対して未来へ向かって奮い立たせる言葉をかけられるかだと思うの」


「確かに、失敗で委縮してしまえばドンドン悪い方向に行ってしまう気がしますからね……」


「知美ちゃんの場合は島村さんご夫婦に感謝の気持ちを忘れずにいながらも、

 未来へ歩みを進めようとしているんだから問題無いと思うわ」


「そ、そうですか……ホッとしました」


「感情の波が起きていることを外から悟られないようにするのが、大人になることなんだと思うわね。

 頼れる人に相談できればいいけど、そういった内容じゃないことも多いからね」


「なるほど……自分の中でこれからは解決できるようにします……」


 玲子さんはそうやってご自分の中で色々なことを解決してきたってことなんですね……。


「でも、1人で背負い過ぎると潰れちゃうこともあるから、気軽に相談してもらって構わないわ」


「ありがとうございます。これからも頼りにさせていただきます」


 そんな話をしていると「おーい!」と元気な声が響いてきました。


 声の方を振り返ると、まどかちゃんの姿が徐々に大きくなってきます。


「二人ともゴメーン! 道に迷っちゃってぇ!」


 玲子さんの隣までやってくると、全力疾走をしてきたのかまどかちゃんは膝に手をついて息を整えていきます。


「時間ピッタリだから大丈夫よ。それよりも以前よりも体が軽そうね?」


 まどかちゃんは私たちの前で楽しそうにクルクルっと周ってピタッと止まりました。


「だねー。体の中まで洗浄されているような感じだよ~」


「やっぱり、体調不良の間逆に不健康なお菓子や小麦を食べなかったことが功を奏したと思うのよ。

 悪い物質を事実上の断食によって解毒できたからね。

 これからも私と同じような食べ物を食べていけばもっと体の動きが良くなると思うわ」

 

 まどかちゃんは目を真ん丸にしながら1,2歩後ずさりしました……。


「えー! お姉ちゃんの食べているのって見た目はソックリでも食べ心地はパサパサ、味は薄味ばっかりなんだもーん……」


「私も今は玲子さんに近いのを食べてますけど、最初は確かに味が薄く感じて戸惑いましたね……」


 それまでは自分で食べるときはかなり適当な食生活だったのですが、

 玲子さんの食事を食べているうちに体の中から変わっていく感じがありました。


「お姉ちゃんや知美ちゃんはそれで何とかなるのかもしんないけど。

 あたしは耐えられそうにないよ……。

 健康になっても息苦しいよ……」


 まどかちゃんの言いたいことは分かりますね……。

 特にそれまで甘いものが大好きだと、かなり苦しいと思います……。


「でも、今のままだと以前の状態に逆戻りよ? 足を引っ張る状況なのは嫌でしょ?

 輝君みたいな軟弱体質になるわよ?」


「そ、それは困るし、かなり嫌だけど……。でもあまりにも味気なくて食べる楽しみ無くなっちゃうよ……」 


「それなら私の食事と今の状態の中間ならどう?

 あと、輝君とのデートとか大事な時には甘い食べ物食べて良いからさ」


「うん……」


「よしよし、ちょっとずつで良いからステップ上がっていきましょうね~」


 玲子さんはまどかちゃんの頭を撫でて、まどかちゃんは猫のように身を悶えて嬉しそうにしています……。


 これが説得の方法ですか……。


 やっぱり玲子さんはどっちかっていうと“お母さん“って感じがしちゃいますね……。


 思うだけで失礼なことだとはわかっているんですけど……。


「ところで、集まったのは良いけどこれからどうすんの?」


「知美ちゃんの育ての親を探すわ。何か大きな手掛かりになりそうなの。

 知美ちゃん、以前住んでいた家に案内してくれない?

 そこで見つけるから」


「は、はい。分かりました……」


 跡形も無く引き払っていると思うので普通は言っても何も意味が無いと思うのですが、

 玲子さんであれば僅かに残った残留思念からでも何かしら手がかりを見つけてしまいそうですよね……。

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