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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第50話 お金で買えない価値

 部屋を出ると背筋を伸ばして歩いている玲姉が横切る。そしてフワリとこちらを向いて目を合わせると“こっちに来なさい”と鋭い視線で合図を送られた……。


 恐らくはこの一瞬の間で先ほどの僕と大王との会話を読み取ったのだろう……。


「ホント……大王さんに流されっぱなしじゃないの……何やってんのよ……」


 予想通りキレ気味に話を切り出した……。


「大王の勢いに完全に負けちゃってね……。

 やっぱり、科学技術で遠隔でやられることを考えたら逆らうことが出来ないんだよ……」


 僕がモゴモゴと言い返すと玲姉の目が鋭くなる。


 誰か助けてくれぇと思いながら周りを見渡すが、廊下の片隅でやっている上に早朝のためだからか誰も通りかからない……。

 玲姉のオーラの前に誰も部屋から出たがらないのかもしれないが……。


「そうは言っても委員会なんかに入るのは承知しないわよ。いいわね? 

 入って良い委員会は風紀委員会や美化委員会だけよ? 大王さんは人間の超えてはいけない一線を超えまくっているんだからね? その一員になることになったらすぐに辞退しなさい」


「はい……」


 釘を刺すどころか鉄柱を刺してきたような感じだった……。


 玲姉がこういう反応をすることは分かり切っていた。しかし、いつも相手の勢いに押されまくってるな……。


 しかし、玲姉とまどかがいなくなればいよいよ世界で孤立してしまうだろう。

 父上は僕を自由にさせてくれていて、ゲームの世界大会に向けて陰ながらサポートしてくれているだけで、心の支えとは遥かに遠い存在だからな……。


「今度、大王さんの話し合いの際に私も参加しようかしら?

 流石にデジタル空間を介して攻撃できないことは分かってるだろうから、

 輝君だけだと何だか心許ないし、すぐに流されそうだし」


「ただ、大王の警戒心は相当なものだからね。果たして承諾してくれるかな……。

 大王本人の戦闘力が玲姉より大きく劣るからだと思うけど……」


「それよりも思考を読まれる方が嫌なんじゃないかしら? 

 建山さんほどでは無いけど、大王さんも結構気を使って考え方を分かりにくいようにしているからね」


「レベルの高いやり取りが水面下で行われていたのか……」


「普段は思考を読み取ったところで外部に公開することは無いけどね。

 5歳ぐらいの頃は周りに気を使えずにズバズバと考えていることを周りに言いふらしていて問題児だったんだから。

 これでも色々と苦労したものよ」


「そうなんだ……でも今も僕の思考を外部に公開しているよね?」


「輝君の思考はみんなの共有財産なんだから良いのよ」


「前は公開情報とか言ってたけど、いつの間にか共有財産にまでなってたのかよ……」


「いかがわしいことを考えなければ良いだけよ。それとも思考を覗かれると不都合なことでもあるわけ?」

 

「いえ、そのようなことは考えないようにしています……」


 マジで大変なんだけどな……。周りの女の子みんなそれぞれ魅力的だからさ……。


 ただ、ある程度のラインで節度を保っているというか配慮されている感じはある。

 周りを和ませる“コント“のために活用されているようなそんな気がする……。


「大王さんが何かとんでもない要求をしてきた場合はとにかく即答しないことが大事になるわ。

 輝君は短絡的に考えずに思わず言っちゃうことがあるのが問題過ぎよ……」


「僕も色々と心の中で考えを巡らせているつもりなんだけどね。

 肝心な時に限って口が滑りまくるんだよ……」


「ホント、考えなくていいことをグダグダと考えている感じがあるわよね……。

 勢いで話すんじゃなくて常に一呼吸おいてから返答した方が良いわよ……」


「はい……」


「まぁ、輝君の場合はゲーム以外はこの世界とベクトルが違うところにいるような気もするから果たして頭をひねったところでどうなのかしらね……」


「えぇ……酷いねその言い方……。僕も大王の痣問題が解決したら秘具とやらを活用してベクトルが合う方法を取引してもらおうかな……」


「そんなことを解決してくれる人がいるとは思えないけどね……。

 普通は自分で気づいていって少しずつ修正していくしかないんじゃないかしら?」


「自分で気づけたら苦労はしない……」


「でも他人でも難しいと思うから結局は取引不成立だと思うわね。

 それよりも、大王さんから来る筒の交渉のための条件とやらを早く見たいわね。

 私もあの大王さんが支払うことが出来ない対価ってどんなものか気になるからね」


「玲姉はなんだと思う? 僕は魂とかそんなものじゃないかと思ってるんだけど……。

 大王なら金で買えるものならとうの昔に対価を払っていそうだからね。

 知識や情報だって大王がこの世で一番持っていそうだから提供できないはずがない」


「確かにそうよねぇ……。お金で買えない価値となると寿命とかになりそうだけど……。

 逆に相手も受け取り不可能なものだと契約として成立しないと思うからねぇ……」


 具体的にどういう仕様なのかはまた聞こうとは思うが現実的に実行できないかどうかは大きな要素としてありそうだ。


「若い人を葬ったところで、自分の寿命が延びるわけじゃないからね……。

 そうなると命や魂とかでも無いのか……」


 こうなると全くお手上げだった。僕には見当もつかない……。


「そうなると若い子の血液とか? は可能性があるかもね。

 年を取ったマウスと若いマウスをくっつけたら、年を取ったマウスが若返ったという話があるぐらいだからね」


 僕は思わず体がブルっと震えた……。


「それ前にも聞いたことあるけど、いざ自分のことになるかもしれないとなると怖いね……。若い子の血液を集めてこい! った話になったらいくらなんでも嫌すぎる……」


 またしてもデータの改竄を行って反逆者に強制的に認定する手伝いをすることになるのかもしれない……。


 しかも今度は僕と同年代やそれよりも未来のある若い子である可能性も高い。

 そう言った人たちの命を事実上刈り取るような行為はまたしても鬱のような症状を発症する可能性も高かった……。


「輝君は可愛くて美味しそうだから、自分の血を提供すれば取引材料として使えるかもよ~?」


 玲姉はニヤニヤしながら僕の頬をスルッと撫でた。血がスッと抜けたような感覚が少しわかった気がした……。


「えっ! 僕よりもまどかの方が若いんだからまどかを優先して活用してよ……」


 僕の血が美味しいとはとても思えない。絶対女の子の血の方が好まれそうなものだが……。


「何だとぉ~! あたしの血液を勝手に売り渡そうとするなぁ~!」


 噂をすればまどかが頬っぺたを真ん丸にして迫ってきた! コイツも神出鬼没で困る!


「ま、待てよ! あくまでも全部仮定の話だって! そうと決まったわけじゃないって! 


「待てー! 逃げんなー!」


 リビングで追いかけっこが始まる……。


 元はと言えばぼくの血液を大王に提供しろと言い始めたのは玲姉だというのに、

 僕が玲姉に反抗すればフルボッコにされるだろうから本当に理不尽だ……。


 言い合いと訓練場では無いためかかなり手加減された攻撃は朝ご飯に入っても続いた。


 こうしていつも通り騒がしい朝となったのだった……。


 でもこういった利害関係のない家族みたいな関係が“お金に換えられない価値“なのかもしれない……。

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