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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第46話 プライド衝突

「それで次はどこに行くの?」


 まどかが美甘に連れられて家に帰っていくのを見届けたところで聞いてみた。


「大王さんの研究所よ」


「え? 大王の?」


「ま、来れば分かるわ」


「いや、ここから大王の研究所のある虻利HD本社まで結構離れてるんだけど……」


「それなら輝君は飛行自動車で行きなさいな。私は走っていくから」


「そう……」


 そう言うと玲姉は一目散に走り去っていった。忍者か何かかよ……。

 軽く20キロは距離がありそうだがね……。僕は飛行自動車のタクシーを呼ぶことにした。





 恐ろしいことに飛行自動車で大王の研究所に着いた僕とほとんど変わらない時間で玲姉が来た。無人タクシーだったから友人よりは少し安全を考慮してスピードを落としているとはいえ、それと同等とはどういう移動能力してるんだ……。


「ま、これも私の訓練の一環だから」


 汗一つかいていないように見えるから本当に恐ろしい……。

 足の裏にジェットエンジンでもついていてくれた方がむしろ納得できる……。


「ちなみにジェットエンジンはついてないけど、こういう時に備えてかなり頑丈な靴にはなってるけどね。重さは普通の人じゃ重くて歩けないレベルだと思うけど」

 

「そういうことか……。

 それと一応は僕の方で大王に今から行くと伝えておいたよ。大王もスケジュールでいっぱいみたいだからね。玲姉が来ると聞いてすぐに直接会ってくれるとのことだった」


「まぁ、そうでしょうね」


 玲姉は当然の流れでしょうね。といった雰囲気だが僕にはサッパリ分からない。


 しかし、この場では答えてくれそうにない雰囲気があるので、

 解せない気持ちを押し殺しながら虻利HDで手続きをして研究室に行くための審査を通過させる。


 何が起きてるんだ? と考えても分からないことを考えながら部屋に入る。


「虻輝です。玲姉を連れてきました」


「いやぁ、玲子さんお久しぶりです。お元気そうで何よりです」


 大王はいつもより余裕そうで珈琲なんて飲んでいる。


「本当に、随分なことをしてくれるのね」


 と、大王の部屋に入ると開口一番そんなことを言った。


 大王はコーヒーカップの置台に戻した。


「私は最初から今回私の呪いを解いてくれるかどうかは玲子さんが協力してくれるか次第だと思っておりました。

 ですから、多少なりとも強引な方法を取ったという事です」


「え!? どういうこと!?」


「簡単に言うのであれば、大王さんがまどかちゃんに呪いをかけたということよ」


 玲姉は淡々と答えてはいるが怒りをかみ殺していると言った感じだった……。


「大王も呪いをかけられるの!?」


「現在試作段階ではありますし、解明できている範囲は非常に狭いのですが、

 実践レベルまではできるということです。

 虻輝様のコスモニューロンを介してまどかさんの体に干渉しました」


 何だよそれ……僕がまどかの体を害したみたいじゃないか……。


「でもさ、この間まどかが倒れたと聞いたときは怒ってたって為継が言ってたよ?

 あれは何だったのさ?」


「簡単に言ってしまえば演技です。私がやったと露骨すぎるのは嫌だったので。

 虻輝様は純粋で良いですなぁ~」


「あ、そうなの……」


 口ひげを上機嫌そうに大王は触っていた。

 僕は完全に大王の掌の上で踊らされていたということか……。


 どっちかって言うと、感情を読み取られないようにするために敢えて為継を活用したのかもしれない。


「それにしても、まどかちゃんを実験台にしようだなんて良い度胸じゃない……。

 あなたのような立場の人で無かったらもうこの世には跡形もいないわよ?」


 玲姉は今すぐにでもそうしたいだろうが、相手はあの大王だ。

 こんなに余裕そうにしているのだから二重にも三重にも予防線を張っているに違いない。


「まぁまぁ、そう怒らずに。無事に元気になられたようなので良かったではありませんか。

 ただ、私の研究している科学技術の範囲を十分堪能いただけたと思います。

 それとも私が最初からお願いすればすぐに応えてくれたのですかな?」


「土下座でもして頼み込んできたなら検討したかもね」


「それはさすがにできぬ相談ですな。

 私も組織のトップを務めている立場ですので、ヘコヘコと若い女性に頭を下げるようでは部下に示しがつきません」


 プライドがぶつかり合う。


ただ、大王は静かに応じているのに対して、玲姉はキレているのを何とか抑えているような印象だ。


「やり方ってものがあるんじゃないの? やるなら私に直接しなさいよ」


「私は目標を達成するためには“なんでも“使いますので。

 それに、玲子さんの精神力では今の技術力では全く効かないでしょうから

 私なりに打つ手を打ったということです」


 玲姉の表情は更に険しくなる。玲姉が毛嫌いしている理由が分かる。


 大王は自らの目標とする結果のためには手段を択ばない……。


 まどかという玲姉の泣き所を突いてくるのだから憎いほど最善とも言えた。


 “勝ち方“にすら美意識を持つ玲姉とは全く対照的だった。


「“お願い“とやらは大王さんの思考を読めばわかるわ。私の人脈を使って痣問題を解決してくれと言うわけね」


「どうにも、日本宗教連合は私の名前を使っても積極的に解決してくれそうな気配がありません。

 表では気前のいいことを言っても盥回し(たらいまわし)にして時間を稼いでいるようにしか見えませんからな」


「確かに僕の前では感触が良くても結局動いてくれる感じはしなかった……。

 どちらかと言うと大王が僕の交渉を評価してくれていたのが意外だったほどだ……」


「虻輝様には大変失礼ですが、もとよりあまり期待していませんでしたから。

 各々の日本宗教連合の施設に行って網膜による情報を取ってくださればコスモニューロンを介して分析できるので問題なかったのでそう評価させていただきました」


 もとより玲姉に解決を期待していたということか……。


「な、なるほど。でも、ここで玲姉に事実上頼んだのはどういうこと?」


「ある程度の先が見えたところで私としても動くしかないということです。

 私の技術をご覧になったのであればすぐにでも解決して欲しいところですな」


 玲姉は極めて大王に反抗的だが生かされているのは、こういった局面で活用するためだろう。


 動かないとあれば玲姉の「最大の弱み」とも言える僕やまどかを使ってでも脅しをかけてくるのだ。


「私が引き受ける条件は一つよ。私たち姉妹の自由よ。もし、頼み事があるのなら私に直接言いなさい。別に土下座である必要はないから」


 玲姉は拳を握り締めている。事実上人質に取られているのだから、どちらが優位に立っているのかは明らかだった。


「良いでしょう。私は成果を挙げさえしてくれれば自由にしてもらっても構わないと思っています。期待していますよ」


「連絡は輝君を介して基本的に行うことにするから、密にお願いね」


「うん、分かった……」


 僕もここに来た意味がようやく分かった気がした。

 現状を分からせた上で、連絡の相手先になるということなのだろう。


「玲子さんさえ動いてくれることが確約されるのであれば、解決は見えたも同然でしょう。

 私も数多の交渉ルートはあるのですが人材が確保できないのです。

 よろしくお願いしますよ」


「ええ。こんな問題一瞬で解決してみせるわ。失礼します」


 玲姉は不機嫌に大王の研究室を出ていった。僕も頭を下げて慌てて玲姉を追った。


 昨日、玲姉が呪いをかけた相手が分かっていたのに答えたがらなかった理由が分かった。


 そりゃ、大王が玲姉を動かすためにやったとなれば不快指数が上がるに決まってる。


「分かってると思うけど、今の会談内容はまどかちゃんに言わないでね。

 色々と問題になると思うから」


 帰宅途中、玲姉はそんなことを僕に行ってきた。

本人のことなのにハブるのは気が引けたが、まどかが色々と怒ったり厄介なことになるのは間違いない。


 僕もまどかに間接的に体調不良にさせた一因みたいなものだから避けられる可能性もあるし……。

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