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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第45話 快気祝い

2055年(恒平9年)11月30日 火曜日


 昨日は特に何の夢も見ることなく疲れで死んだように眠った。

 寝つきが良いことは悪いことでは無いのだろうが、如何せんゲームの時間が確保できないことは僕の死活問題に関わる。


 もう3週間ぐらいだから急ピッチで仕上げていかないとな。


――と、そんなことを思いながら朝食を食べた後、今日は広いタイプの飛行自動車に乗ってK神社に向かった。

 後部座席の一列にはベッドを置いてあり、そこでまどかが寝ているからだ。


 相変わらずまどかは汗をびっしょりかいて小さい唸り声を上げている……。


 何か場を和ませるような話をしようかと思ったが玲姉の真一文字に口を結び、考えを巡らせて緊迫感のある表情を見るとそれは憚られた(はばかられた)。


 僕は結局ゲームを淡々とこなすしかなく、それもなんとなく身が入らなかった。


 到着すると、玲姉はまどかを背負いゆっくりと歩きだす。

 

 紋付き袴が依然として歩き慣れていない僕としては大変ありがたい速度だが、

 子の緊迫感がある時間が永遠と続いていくようにも思えた……。


 前回案内してくれた人は申し訳なさそうに僕たちを案内してくれた。


 そして、今回も神主の須永さんに面会することが出来た。


「虻輝様、またご足労頂けるとは誠に恐縮です。このようなことに――」


 そこで僕の隣にいる玲姉に気づいたのか目を白黒させる。


「あら、久しぶりね。そちらはお元気そうで何よりだわ」


 玲姉はそれに対して、ニッコリと不気味とも言える笑顔を浮かべる。


「れ、玲子さん。どうしてこちらにおいでになられたのですか?」


「簡単に言ってしまえば、私の妹が今回の呪いで体調不良になっているのよ。

 本当は私だって今更関わり合いたくないし、動きたくないわよ。でも、この子は私の命より大事だからね」


「な、なるほど……どことなしか似ているとは思っていましたが……」


 本人に言ったら激高しそうだが、まどかは玲姉の小学生の頃に似ているからな……。


 当時から玲姉が大人びていて、今のまどかが子供っぽくて同じような感じに見えるんだろうけど……。


「それで色々と医療ではどうしようもないみたいだから“治療“を頼むわよ」


 まどかをゆっくりと降ろして状況を確認していた。ふと目をそらすのを忘れていたが、大事なところはちゃんと隠していた……。


 須永神主はまどかの痣を見た後、何やらギョッとした表情をした。


「……簡単な呪いのようですが――」


 玲姉に耳打ちしている。

 須永神主にとって衝撃的な事実のようだが、

 玲姉は驚く様子はなくどちらかと言うと“やっぱりね”と言う感じで聞いている。


 僕も是非聞きたいが、僕はどちらかと言うと大王側の人間だとカウントされているだろうから向こうが行ってくるまで聞いてはいけないだろう。


 後で玲姉から答えてくれたらラッキーぐらいの気持ちでいた方が良い。


「少々お待ちください。必ず治して見せますので」


 そう言って僕たちに一礼すると(主に玲姉に対してだろうが)まどかを抱えて奥の部屋に引っ込んでいった。


「あの神主に大丈夫なのかな?」


 何となく不安もあったので小声で玲姉に話しかけた。


「ヘタにとんでもないことをすれば、この神社ごと吹き飛ばすから。

 その覚悟があるのなら何でもするといいわ。

 私の力は分かっていると思うから、そんな愚かなことはしないと思うけどね」


 怖すぎるだろ……。まどかが関われば見境なくやりかねないし、平然と思わせるところが玲姉だ……。


「……玲姉はこの神社の人と知り合いだったの?」


「まぁ、そんなところね。この業界だと良くも悪くも顔が広いからあんまり関わり合いたくないのよ」


「やっぱり獄門会との関係とかもあるの?」


「――当たらずとも遠からずと言うところね。詳しくは言いたくないけどね。

 正直なところ付き合うつもりは無かったんだけど、まどかちゃんが被害を受けたとなれば動くしかないわ」


 玲姉の顔が今までも険しかったが、目の光が消えるぐらい恐ろしいものとなった。


 獄門会とは良い思い出が全くないのだろう。


 僕が全く関知しないところで、生家を追放された後も色々と攻防があったのかもしれないな……。

 それを全く表面に出さない玲姉の凄さみたいなのもあるけど……。


「基本的に私の問題は私で解決するから輝君が思い悩むことは無いわよ。

まず理解できない厄介なことばかりだし」


「そ、そう……」


 弟なんだし話ぐらい聞いてあげるよ――と言いたかったが、玲姉の背負っている負担は僕が一部でも背負えるものでもない気がした……。


 そんな会話をしているとパッと襖が開いた。


「んー、何か久しぶりに起きて歩いた気分~。ほんの2日ぐらい寝てただけなのに~」


 まどかが目をこすりながら出てきた。コイツ、自分の体のために神社にいるって理解して無さそうだな……。自分の家だと思ってそう……。


 顔色がずいぶん良くなっているし、何より自分で歩いていることが何よりの改善だった。


「良かった。元気になったみたいね」


「ええ。上手く呪いは解けました。跡形もないです」


 玲姉が静かに確認していたが、ホッと胸をなでおろしたのが分かった。


「お世話になりました。こちら、報酬です」


「玲子さんの頼みでしたらいつでも聞きますので、お代は結構ですよ」


「いえ。困るわ。寄付だと思って」


 そんな問答を何回か続け、随分と分厚い封筒を何とか受け取らせていた。

 キャッシュレス社会だからお札を持ち歩いているのは玲姉などのコスモニューロンを持っていない人だけだろうな……。


「やったー! 体の自由がきくぅ~!」


 神社を出るとクルクルとコマのようにその場で回ったりピョンピョンと跳ねたりしている。

 ついさっきまでとはえらい違いだ。


 ただの体調不良ではなく“呪い”だったのだということが如実に分かる。


「露骨に変わるものなんだな……。いったいどんな呪いがかけられていたんだ……?」


「ややこしい説明は省くけど、神経伝達物質っていうのが脳から出ているんだけど、それを鈍らせるタイプの呪いね。

 私の親戚の中じゃ典型的なものとして挙げられていたわね。

 死ぬほどのダメージは無いけど、あんなふうに体調不良みたいな感じになるのよ」


「なるほど……」


「私はそんなまどろっこしい手を使う必要も無かったから学ぼうとすら思わなかったんだけどね。こういう局面で他人に頼るしかないとなるとちょっと後悔しているわ」

 

 玲姉はまどかを微笑ましく見守りながら僕にそう言った。


 玲姉は自分でも何でもやりたいと思っちゃうタイプだが、セコセコと攻撃するというより直球で実力勝負を好むからな……。


 僕も快気祝いにまどかを更に元気づけてやるか!


「いやぁ、馬鹿は風邪をひかないけど呪いはかかるんだなぁということが良く分かった一例だったな」


「なんだとぉ!」


 まどかが頬っぺたを膨らませながら迫ってくる。

 身長差で何とか交わすことが出来た。


 プンスカと何やら永遠と言って五月蠅い(うるさい)が、元気なのが鬱陶しいぐらい回復してくれて何よりだ。


 そのまま僕はまどかの頬っぺたを掴んで引っ張る。


「ひょっろぉー!(やめろー!) ひっひゃるにゃー!(引っ張るなー!)」


「いやぁ、モチモチ頬っぺたが硬くなっちゃう呪いじゃなくて良かった。


「ほにょー!(このー!) ひっひゃりすぎだー!(引っ張り過ぎだ―!)」

 

「この恒例行事を“快気祝い”だと思っちゃう輝君の神経には呆れるしか無いわね……」


 玲姉は大きなため息を吐いた。しかし、眼の端は笑っており嬉しそうでもあった。


「ホントだよ! 酷すぎっ!」


「分かった分かった! 今度またパフェ食べに行くぞ!」


「この間は戻しちゃって食べた気がしなかったから頼んだよっ!」


 パフェと聞いて目を輝かせるところが相変わらずコイツらしくて良かった。


「話がまとまったところで今から次の目的地に行くわよ。

 まどかちゃんには帰ってもらうことにはなるけど」


「ええーっ! なんでだよー! せっかく元気になったのに~!」


 まどかはまたしても頬っぺたをパンパンに膨らませて今度は玲姉に迫っていった。


「まだまだ病み上がりだからね。美甘さん家まで頼んだわ。何かあったらすぐに輝君に連絡してね」


「分かりました。まどかちゃんを送り届けたらまた玲子さんと虻輝様を迎えに来ますね。

 それではまどかちゃん行きましょう」


「ちぇ~!」


 まどかが口をすぼめながら美甘に連れられて行く。かと言って抵抗もしないのは玲姉から有無を言わさないオーラが漂っているからだろう……。


 何かまどかは以前より更に元気になった感じもしたがな……。

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