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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第44話 ケーキの後

 そんな感じでどこかモヤモヤしながら島村さんのケーキのお零れを貰った。

 小さいタイプのホールケーキだったが、島村さんは控えめに食べるだけだったので、残りだけでもボリュームは満点だった。


 烏丸が一から作ったらしい。流石ホテルの料理人だっただけのことはある……。


 フワッフワッで、甘くてとろける~! ずっと食べていたい~!


 と言うような幸せな瞬間が終わった時に突然、まどかのことが気になった。


「いやー、食べた食べた……。ところで、まどかって体調は大丈夫そうなの?」


「相変わらず一進一退と言うところね……。誕生日の料理も何とか1種類ずつちょっと食べていた感じでね……。ケーキもほとんど食べなかったわ……」


 何ら進展が無いようだ……。僕と同じぐらい甘い食べ物が好きなまどかがケーキを食べないだなんて重篤すぎる……。


「昨日、輝成が持ってきてくれた検査機器では何か分からなかったの?」


「医療ロボットも使って様々な角度で分析したけど、やはり現代の医療ではどうすることも出来ないみたいね。

 症状を改善する薬ぐらいしか処方してくれない感じね。

 しかも、副作用が強いようだからとても使えたもんじゃないわ」


「そりゃ怖いね……」


 玲姉の表情の険しさが事の深刻さを表していた……。


「薬ってのはそもそも対処療法で症状を抑える力しかないから元から好きじゃないのよね。

 皆、お医者さんや医療ロボットが処方してくれるから安心しているけど、“薬漬け“みたいになっちゃうからね。

 根本治療――つまり呪いを解除しないとお話にならないみたい」


「やはりそうか……」


「実を言うと何となく呪いをかけた相手というのは見当ついてるのよ」


「え……いったい誰なの?」


「それはちょっと言えないわね。相手が分かったところでどうすることも出来ないし」


「そう言うものなの?」


 玲姉がいたたまれないような表情をしている。


 玲姉が相手が分かってもどうすることが出来ないってどういうことだよ……。


「ま、考えても仕方ないことやどうすることも出来ないことって世の中にはあるのよ

 例えば生命の誕生とか、物質の起源とかは考えたところで分からないでしょ? 推測ぐらいはできるかもしれないけど」


「確かに……でもそれと同じぐらいのレベルなのかよ……」


「細かいことばかり気になるのねぇ……。

でも、概念みたいなことばかりは細かいことばかり気になるけど、

 女の子の心の内はサッパリなのね……」

 

「はははは……。特にリアルの女の子の気持ちは摩訶不思議だよ」


「ただ、何が原因であろうとまどかちゃんを再び元気にするために全力を尽くすわ。

 これだけは絶対に変わらないことよ」


「まどかが元気じゃないと何か僕もペースを掴めないような感じがあるからな……。

 頬っぺたを存分に引っ張ったり、デザートを奪い合ったりしないと何か張り合いが無いからな……」


「それを小さいころから今まで永遠とやり続けているのは問題な関係の気もするけどね……。

 ともかく、明日は私が動くからには必ず上手くいかせて見せるから」


 玲姉の目つきは鋭いものになった。誰よりもまどかのことを大事に思っているのは間違いない。


「足を引っ張らないように全力を尽くさせていただきます……。

 僕はただ単に“顔利き”に使ってもらえればいいから」


「えぇ~~。私は“保険”や“嘘発見器”みたいな便利機能で良いからさ。

 基本的には輝君が主導してやって欲しいんだけど……」


「僕じゃ何か上手いこと交わされているような気がしてお話にならないんだよ。

 やっぱり圧倒的に年下だから、どこかあしらわれている気がしてさ。

 むしろ、大王が評価しているのが不思議なぐらいだよ。

 まどかのことばかりは絶対に失敗できないだろ? だから頼むよ……」


「もぅ……しょうがないわね……」


 大王は謎の評価をしてくれているがどうにも上手くいっている感じはゼロなんだよな……。


 例えば“ただの婦人系の病気です!”と押し切られたら返す言葉も無いから玲姉がいないと困るんだよ本当に……。


「この私に頼み事をしたから分かるわよねぇ? 今日も訓練行くわよ!」


「えっ! 島村さんの誕生日なのに!?」


「誕生日だと完全に忘れていた人に言われたくないでしょうね……。

 何かを理由にサボってたらいつもできなくなるでしょ!?

 まどかちゃんの体調については正直どうすることも出来ないんだから、やれることはやるしかないの!」


「ひぃぃぃぃぃ!!!!!」


「大体、今日はケーキとか食べてカロリーオーバー間違いなしなんだから、

 しっかり動いて消化するの!」


「ま、待ってくれよ。こんなに食べた後に運動すると右腹がメチャクチャ痛くなるんだけど……」


「あぁ、それは筋肉があまりにもなさすぎるからよ。しっかり腹筋鍛えることね。

 私は人生でそんなことになったことは一度も無いから」


「結局そうなるのか……」


 しかし、その後もしばらくほとんど無意味とも言える雑談や昔話ばかりが続いたのは、玲姉なりの“配慮“なのかもしれない。


 ずっとイジラレ続けたのはいただけないのであるが……。





 訓練場について建山さんにお腹が痛くなることを愚痴ると――


「腹筋確かに無さそうですよね……。いつもかなり苦しそうに筋トレされてますし……」


 と、気の毒そうに言われた。


「いや、もう呼吸困難になるときがあるんだよね。次の日には筋肉痛でまともに動けない時もあるし……」


 言っていてすごく情けなくなるが事実であることは間違いない。少しでもこの訓練が軽くなることを心の底から願ったが……。


「……ゲームのキャラクターのようにはいきませんからな。あまりに過度に負荷をかければ骨折してしまったりもしますから。時間をかければいいというものでもありませんからな。

 ましてや、虻輝様は同年代健常児で人類最底辺の体力しかありませんしな」


「身体能力を補助する器具を使ってもダメなんだよね……」


「何度も申し上げていますが、地道にやるしかありませんな。

 体の耐性を徐々につけていくしかありません。

 今のままでは強化装備すらも耐えられないでしょう」


「毎晩のようにもどかしい気持ちで訓練しているよ……」


「でも、虻輝さんは健康的ですし、素質もありますから積み重ねれば確実に強くなれますよ! 私が保証します!」


「あ、ありがとう……」


 僕は他の能力を削ぎ落としてでもゲームで勝ち続ける能力だけがあれば良かった……。


「さぁ! 始めますよ! 今日はVRではなく、現実世界を中心に行います!」


 建山さんは玲姉ほど直接的な表現は使わないが、結局はスパルタだった。


 VRの訓練は精神的な疲れはするけど実際の体は酷使しないからまだマシだが、最近の訓練で“リアルで鍛えなくては意味が無い”ということで落ち着いちゃったからな……。


 更に少しでも短い時間で終わって欲しいという願い虚しく訓練は免除されることなく、

 玲姉が大好きなラストのうさぎ跳びまで何とかやりきったのだった……。


 体中がひたすら悲鳴を上げ続けた……。

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