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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第42話 温度差

 家に着き、「島村さんの誕生日プレゼントの補填」を成し遂げた時、僕は心底ホッとした。


 島村さんは切実に関係を求めてくるので思わず頷いてしまいそうになるのを我慢するのは拷問的だった……。


 その豊満で今でも成長していると言っていた胸に飛び込むことが出来たらどんなに楽で幸せかと……。その後ムフフなことを出来たらどんなに良いことかと……。


 しかし、そんな短絡的で動物のような思考で選択したら玲姉が飛んできて怒りで僕を捻り潰すことだろう。


 角の生えた玲姉を想像するだけでも恐ろしいので大人しくするしかないのだ。


 正直な話、パフェを食べている際にも何を話していいのか困ったのだが――島村さんは僕がゲームについて語っているのをドリンク1杯飲むだけで黙って聞いてくれた。


 本当によくできた子だと思う。僕にはもったいなく有り余るぐらいだ。


「誕生日に付き合ってくださってありがとうございました。とても勉強になりました」


 島村さんは家に着く直前に笑顔でそう言ってくれた。


「そうなんだ。改めて誕生日おめでとう。来年こそはちゃんと用意するよ」


 何がどう勉強になったのか僕にはサッパリなのだが、どうにか誕生日プレゼントの補填になったのなら幸いだ。


 それより忘れないように今から来年の11月29日に向けてリマインドのシステムを入れておこう――もっとも通知が来ても今年のように無視する可能性もあるわけだが……。


「ただいまー」


「お疲れ様――何か、誕生日デートっぽくないような様子だったみたいだけど本当にそんなので良かったの? 輝君からゲームの話を永遠と聞かされるなんて私なら御免だわ」


「良いんですよ。元からあまり期待してませんでしたし」


「その割には下着で“誘った“ような感じだったみたいね?」


「うっ……済みません……」


 この一瞬の間で今日の全て読み取っているのは本当に恐ろしい……。


「まぁ、でも輝君は正直に言っちゃうとその程度では陥落することは無いと思うからあんまり心配してなかったけどね。

 分かってやってるのか鈍感なのか天然なのか私から見ても何とも言えないところはあるんだけど」


「改めて私はとんでもない方を好きになったのだと痛感しました……」


「それでも諦めるつもりは無いのよね?」


「はい。可能性がゼロでない限り全力で私ができることをやってみようと思います」


「うんうん。知美ちゃんのそういう強さは最初に会った時から感じたから、思った通りね」


 と、こんな感じで帰ってくるなり玲姉と島村さんが、

 僕を目の前にしながら貶しつつ女子会議しているな……。


「胸の大きさだけで決まるのならグラビアアイドル連れてくればいいだけですからね。

 世の中そんな簡単にいくわけないですよ」


 建山さんがニコニコしながら現れた。島村さんと僕の関係が深まらなかったことを心の底から喜んでいるようだった。


「でも、建山さんって虻輝さんとデートしたことないんじゃありませんか?」


 島村さんの目つきが怖い。建山さんとの仲は本当に悪いようだ……。


「……1対1は確かに無いかもしれませんが、皆さんと違ってVR空間に行けますんで! ヴァーチャリスト事件は私と虻輝さんが活躍しましたし!」


 と、まぁこんな感じで建山さん1人に対して玲姉と島村さんが連携攻撃をかけているが全く怯む様子は無い。


「VR空間で関係を構築しても虚しいだけじゃない? 実態を何一つ伴っていない関係なんて馬鹿らしいったらないわ」


「お二人ともご存じないようですけど、今は本当に触ったような感覚になるんですよ。

 今は、VR空間での恋愛や婚活だって普通にあるんですから!」


「私はよく存じませんけど、それってリアルでの恋愛に含まれるんですか?

 VRの姿に対して好きになったのならVRの世界でしか会わないような……」


「そうそう、知美ちゃんの言う通りよ。VRでの結婚者はリアルの世界ではほとんど会わないそうじゃないの。

 それって本当に実態があるって言えるのかしら?」


「私はリアルとVRのハイブリット戦略をとっていますので、そんな人たちとは格が違うんですよ! 格が!」


「でもそこにいる輝君はゲームの女の子を数えきれないぐらい攻略しているみたいだけど、

 現実の女の子とは一人も付き合っていないのよ?

 建山さんが“格下“と見下している人達と大差ないんじゃないかしら?」


 建山さんはそこで目を見開いた。視線を宙に泳がせて少し考えてから口を開いた。


「それは虻輝さんがご自身に相応しいお相手が見つかっていないからですよ。

 虻輝さんの魅力があることはモテ具合から証明されているじゃないですか。

 虻輝さん側が選択する権利があるんですよ」


「でもそれって、自分も“相応しくない一人”ということを証明してないかしら?」


「な……」


 再び建山さんが珍しく黙って今度は下を向いた。

 

 玲姉はいつも相手の理論の“弱点“を瞬時に見抜き、鋭く追及してくる。


 僕もずっとそれに苦しんできた。

 僕の場合は言い返すことが出来ないために“逃走”という選択肢を取り続けていたのだ……。


 しかし建山さんは僕と違ってバッと顔を上げる。


「わ、私はまだ魅力を伝えきれていないだけですよ。日も浅いですからね。

 れ、玲子さんの方が危機感を覚えた方が良いのではないですか?

 お互いのことを知り尽くしている間柄なのに関係が発展しないんですから」


「私は積極的に関係を深める努力をしていないだけよ。

 基本的には輝君にとって一番良い相手を選ぶことがベストだからね」


 これまでと口調が変わらず、苦しい言い訳に聞こえないところが玲姉の凄いところだろう。


「そんな自分が選ばれる前提の強気なことを言ってるといつか後悔しますよ~

 今、最後尾の位置から私が大逆転ショーをして見せますから!」


「建山さんにしては珍しく普通の言い方なのね。そんな競馬みたいな感じじゃなくて、心をスッと自分に向けさせればいいのよ」


「くぅ! 今に玲子さんの余裕の表情を壊して見せますよ! 絶対にね!」 


「私だって、譲るつもりはありませんから……」


 玲姉と建山さんがバチバチと火花を散らせているのに対して、島村さんは静かに闘志を燃やしていた。


 しかし、この人たちは本当に何を張り合っているのか謎過ぎるだろ……。


 僕について話し合っているはずなのに他人事みたいに振舞っていられる空前のサイコパスなのかもしれないが……。


 そもそも、過大評価だと思うんだがな。皆は金やゲームの実績とかを評価しているようには見えないし、何をそんなに評価しているのか謎過ぎる。


 皆には本当に悪いけど僕は愛だの恋だのよりもただひたすらゲームができる環境が欲しい……。


 この状況を打開するためにはひたすら誘惑を我慢して、皆が諦めるのを待つしかなさそうだな……。

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