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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第40話 誕生日

 2055年(恒平9年)11月29日 月曜日


「昨日と変わらず……か」


 朝起きてまどかの部屋で見舞うが――相変わらず小さく唸っているばかりだった。


「おはようございます。まどかちゃんの状態はどうですか?」


 島村さんはドアを静かに開けて小さな声でそう聞いてきた。


「こんな風に昨日と大差はないね」


 青い顔のまどかは痛々しい……。


「そうですか……」


 島村さんはガックリと肩を落とした。それと同時に再びドアが静かに開く。


「2人ともおはよう。そして、知美ちゃん。お誕生日おめでとう。こっちは私の分でこっちはまどかちゃんの分ね」


 玲姉はそう言うと僕と一緒に買いに行ったペンダントを取り出した。


「アッ! そう言えばそうでした! 嬉しいです。ありがとうございます。今年の誕生日を迎えられるとは思っていなかったので……」


 きっと父上を殺すと同時に死ぬことを考えていたから年齢を重ねることすら考えていなかったんだろう。


 しかし、島村さんの輝くような笑顔と対象的に僕の全身から血の気が引いていくのが分かった……。


 あれだけ玲姉に言われ続けていたのに、プレゼントを買う事を完全に忘れてしまったのだ……。


 多忙であるという事は恐ろしいものだ。忙しいとコスモニューロンで通知が例え何回も来たとしても、何となくけだるくて無視してしまう……。


 そして、最終的にはその通知すらも切ってしまうのだ……。


 島村さんから期待に満ちたワクワクした目で僕を見てきたときは本当に申し訳ない気持ちになって視線を逸らした。


「本当にゴメン……。完全に記憶から失われていた。毎日忙しくって……」


「えぇ……何のために26日に連れまわしたと思ってるのよ……。

 輝君のことだから忘れるかもしれないとは思ったけど、本当に忘れるだなんてどうかしてるわ……」


 玲姉は大きく溜息をつく……。本当に玲姉に対しても申し訳なかった……。


「通知設定を忘れる、通知が来たことを忘れる、行動に移すのを忘れるという3段階の壁があるからな……。

 リマインド通知が来てもその都度行動に移すのを忘れていたんだ……」


「全く褒められることでは無いわよ……」


「お兄ちゃんってどんだけ忘れんだよ……」


 まどかが目を覚ましていた。

 僕の失態を追及されている中、まどかが目を覚ましていた。


「あ……ゴメンね起こしちゃって。体調はどうなの?」


 玲姉がサッと駆け寄ってまどかの手を握った。ほとんど寝ていたのでこれだけでも喜ばしいことだ。玲姉の眼にも光が宿っているように見えた。


「うん……。なんか身体が上手く動かせなくって……」


 掠れたような声でまどかは答え、玲姉の手を力無く握る。


 元気が取り柄のまどかがこんなに弱っている。どれだけ強い呪いなんだ……。


「どうやら、明日にもK神社にもう1回行って再度交渉するとともにまどかちゃんを治してもらうように頼むから」


 実をいうと今朝起きた時に為継から連絡があり、明日(30日)再交渉するように頼まれたわけだが、 玲姉には今日初めて会ったためにまだ言っていなかった。


 でも完璧に伝わっている。会話せずに伝わるのは便利ではあるのだが、知られたくないことも伝わるからな……。


「お姉ちゃんが動くなら大丈夫そうだね。

 それにしてもお兄ちゃんの記憶力どうにかなんないの?」


「いやぁ、最速で数秒後には忘却の彼方に消えるから……」


 精神的には小人ぐらいまで小さくならざるを得ない……。立つ瀬がないとはこのことだ……。


「メモを目の前にぶら下げておくしか無いんじゃないの?

 それかコスモニューロンで文字が常に浮き上がらせるようにするとか?」


 玲姉からの追及は本当に痛烈だがすべて正しいのだから僕はどうすることも出来ない……。


「いやぁ……ということで、島村さん。大変申し訳ないんだけど、僕が払える範囲内なら是非ともプレゼントを買わせてください」


「うーん。特に欲しい物とか無いんですけど……。玲子さんやまどかちゃんから頂いたものも身に余る限りですし……」


「本当に何でも良いのよ? 誕生日は1年に1回なんだから多少の無理なお願いも良いんだから。輝君は金だけは唸るほどあるんだから」


「そうですか……」


 島村さんは本当に何かが欲しいというわけでは無さそうだ。ここに持ち込んだものが全く無かったことから必須なモノすら少ないのだろう……。


「知美ちゃん、本当におめでとう。元気に祝えなくて悔しいけど……」


「気にしないでください。少しでも早く元気になってくれるのが私への一番のプレゼントですよ」


 まどかが落ち込んで体調がさらに悪化するのは避けたかった。


 声が掠れていて本当に痛々しい……。


 その後はひたすら励まして部屋を後にした。





 朝食前に僕の酷さが改めて露呈した。


 何かと普段は空気が読めてい無さそうな景親は筋トレグッズ、烏丸はストラップ、建山さんはスムージーを島村さんにプレゼントしていたんだからな……。


 己の記憶能力の深刻さを呪いたい……。僕はこの3人よりも遥かに駄目な奴だという事が確定したんだから……。


 呆然自失としてそんな光景を見守っていると島村さんが僕の隣に寄ってくる。


「あの……本当に申し訳ない。僕は本当に気を使えない奴で……」


「大丈夫です。誕生日プレゼント見つかりました。1日虻輝さんと遊びに行きたいです。

 も、勿論肉体関係にはならないようにしますから……」


 島村さんが僕を見た後、真後ろにいた玲姉に上目遣いで見つめている。


「誕生日なら仕方ないわね……。

 あぁ……4月が待ち遠しいわ……。まどかちゃんも7月が待ち遠しいはずよ」


 玲姉は隙あらば僕とデート紛いのことをしてる気もしなくはないがな……。


「何で皆、誕生日に僕と過ごしたがるんだ……。

 もっと大事なことに時間を使った方が良いと思うよ。

 特に誕生日なんて年に1回しか来ないことなんだし――」


 言い終わる前に玲姉のこめかみに青筋が浮かび始めたのでこちらの血の気が引いてきた。


 他の女性陣も目つきが鋭くとても怖い……。


「虻輝さん! 虻輝さん! プロファイル見たら2月3日が誕生日じゃないですか!

 私も同じ2月3日なんですよぉ!」


「ほぉ~。同じ誕生日とは! 珍しいねぇ!」


 玲姉がブチ切れそうなので建山さんのテンションに合わせた。


「ですよね! 運命を感じます!」


「でも、誕生日が同じだなんて366分の1だからそこまで珍しくないんじゃない?

 たまたまこれまで出会わなかっただけなのかもしれないわよ。

 私と同じ誕生日の4月2日生まれの人とはこれまで4人ぐらい出会っているからね」


 玲姉は冷淡な声で言い放つ。建山さんが気が付けば僕の手を握っていたのを玲姉は静かに振りほどかせた……。


「そんなこと無いですよね!? 私、部下沢山いますけど、同じ誕生日の人とまだあったことがありません!」


 建山さんは妙に真剣である。建山さんと2人きりであれば流されてしまいそうだが、玲姉からの威圧感を感じる……。


「な、何とも言えないかな……。同じ誕生日の人と僕も初めて出会ったと言えばそうだけど、玲姉のいう通り0.3%弱ぐらいの確率でいると言えばいるし……」


 玲姉が鏡を取り出して投げる構えを取っていた――これ以上玲姉を怒らせたら命に関わると判断して、そんな返事をすることにした。


「そうそう。誕生日は年に1回の大事な日だけど、それが同じだからって運命とかとは関係ないのよ」


 玲姉が勝手にまとめ上げた。有無を言わさぬ雰囲気に建山さんすらも返す言葉は無かった。


 しかし、建山さんは独特だよなと思ったら僕と同じ誕生日とは……。

 異端児が生まれる日なのかね2月3日……。退治された鬼が子供になってるとか……?


「あの……時間が無くなるので早くいきませんか? 夕方には戻りますので……」


 何とも言えない状況の中、島村さんがそう言ってきた。

 僕は承諾した覚えはないが、この状況下で断ったら正気を疑われることだろう。


 僕の絶望的なセンスでは今回の大失態を上回るだけの代替えのプレゼントを思いつくことも出来ない……。


「そ、そうだね……。それじゃ行ってきます」


 玄関を出るとぎこちない感じはあるが手を握ってきた。


 建山さんとは違うタイプではあるが、控えめそうに見えて積極的だ。


 僕の理性は本日持つのだろうか……。

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