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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第36話 はち切れそうな想い

 すぐさま会員制の日本風甘味店を見つけた。


 僕のような無意味に有名人はプライバシーが保障されている店で無いとすぐさま記事にされるからな……。


 他の店より商品の桁が一つ違うぐらいだし、初来店だから会員カードを作るだけで6桁かかるが、これも必要経費だろう……。


 金だけは困らない恵まれた立場にあるのはせめてもの救いだった。


「うわ~~。暖かいね~! メニューもいっぱいある~」


 まどかは子供がテーマパークに来たように目を輝かせながらメニューペラペラとめくっている。


 微笑ましく思いながら、僕もメニューを見た。


 メニューの内容より驚いたのは、この店は完全に自動化されたシステムだということだ。


 豊富なメニューでありながらシステマチックに用意することが可能であるという事だ。


 その代わり、危機を破壊した際の損害補償金がとんでもない金額になるという事も書いてあった。だから会員の料金もただの和風甘味店にしては驚くべき高さなのだ。


 しかし、システムとしては合理的だ“バイトテロ“と言ったバイトが暴走してヘンなことをSNSで挙げてしまったり、情報を盗むと言った事態も起きないし、客側のプライバシー保護の観点からも非常に有効な策なのだろう。


 金を払うだけの価値はあるなと感心しながらメニューを見ていた。


 僕は「新作メニュー」と書いてある「とろーりモチモチまんじゅう」と言うのを頼んだ。


 それに対してまどかは「白玉クリームあんみつ」を頼んでいた。

 これは和洋折衷の塩梅が良く伝統的に美味しく、人気のある商品だった。

 

 端末に入力して注文するとカラクリ人形風のロボットが甘味を運んできてくれた。


「うわ~! おいしそ~!」


「冬なのにアイス食べて大丈夫なのかよ?」


「ここ暖ったかいから問題ないも~ん!」


 ホント子供っぽい奴だなと思いながら大きな饅頭のうち一つを取ると、思ったよりも“トローリ具合“が凄く、膝に落としてしまった。


「あ……」


 僕はサッと手で取りそのまま食べた。うん、適度に甘くて美味しい。


「うわぁ~。キッタナァ~。何やってんのぉ~?」


「僕の膝に落ちただけだから大丈夫だって。すぐ拾ったし問題ない。

 これ食べにくいんだよ。思ったよりモチモチしてて掴みどころが無いんだ」


「ねぇ、お兄ちゃん。そんなに食べにくいのなら食べさせてあげよっか……?」


「は?」


 僕の思考が停止していると、まどかがサッと僕の隣に寄ってくる。


「ほら、ア~ン!」


 まどかが自分の使ったスプーンを使って饅頭を掬い僕に食べさせようとしてくる。


 これまでと違って色っぽい声だったこともあったので、ドキリ! と心臓が跳ねた。


「ま、待てよ……そういうのは恋人同士でやるものだろ?」


 乾いた声で何とかそれを絞り出した。


「ふぅん。そんなこと気にするんだ? お兄ちゃんはかなり型破りな気がするのにさ」


「あ、当たり前だろ……。ゲーム以外は常識人だよ」


「別にいやらしいことするわけじゃないんだし……」


 まどか短い髪をクルクルッと触りながらそんなことを言った。


「そう言うのは恋人同士でやるもんだろ。兄と妹の関係でやるとはとても思えない……」


「あたし……お兄ちゃんが思っているほど子供じゃないよ」


「確かにそうなのかもしれないけどさ……。やっぱり現実としては兄と妹だよ」


 沈黙が落ちた。お互いがお互いの目線を合わせるのすら何か躊躇っている。

 

 一体まどかが何の意図を持っているのか分からない。


 ただ一つ言えることは、何が遊びや突発的な考えでやっているわけでは無いという事は分かった。


「誰も見てないんだしさ……。あたしと“子作り”しない?」


 顔を赤らめてそんなことを言い始めたかと思うと、僕に抱きついてきた。


 理性を吹き飛ばすには十分な匂いと感触だったが、何とか堪えた。


「――! お前、この間島に流された時もそうだったけど、そんなに子供欲しいのかよ」


「うん……」


 何とか僕は距離を取ることができたがもう後ろは霞ガラスの窓で後は無い。


「相手が僕なんかで良いのかよ?

 僕なんて無実の人間をデータ改竄で大王の下に送り込んだ殺人鬼も同然の奴だぞ?

 そんな奴で良いのかよ?」


「え……あ、う……。あたし、以前よりは人見知りじゃなくなったけど、相変わらず男の人だとお兄ちゃんぐらいしか知らないし……」


 まどかはジリジリと離れていく。僕の興奮も収まっていくのが分かった。


 これは説得できる範囲内だろう。


「ま、まぁ。広い視野で考えた方が良いよ。子供を産んで育てるなんてそれこそ人生の最大レベルのイベントなんだしさ。

 まだ高2で結婚できる年齢ですらないわけだし、色々と早まらない方が良いと思うぞ。

 時間はたっぷりあるんだ……」


「う、うん……」


 何とも言えない表情でまどかは元居た席に戻っていった。


 白玉クリームあんみつに乗っていた大きなアイスは半ば溶けていた……。


「あはは! アイス溶けちゃった~! でも、これも良い感じで混ざって良くない?」


 そんなことをいつもの調子で言うと何事も無かったかのように食べ始めた。


 “いつも通りに接してくれ“そう言う合図のように思えた。

 

「お前なぁ。だからこういう季節でアイスなんて頼むなって言ったんだよ~。

 ホントドジだな~」


「お兄ちゃんだって、饅頭落としちゃったじゃん! あたしがドジなら、お兄ちゃんだってドジだよ!」


「何だとぉ! 頬っぺたをこの饅頭みたいにビヨビヨに引っ張ってやろうかぁ!」


「ええー! やめてよ~!」


 そんなどうしようもないいつものやり取りをしながら考えた。


 一体何がまどかをここまで突き動かさせるのか――もしかしたら島村さんや建山さんが僕に対して何かと積極的なのが一因なのかもしれない。


 どうしてか知らないけど世の中はかなり理不尽なモノで、

モテている奴はとにかくモテるのだ。

 

 誰かにか大きく認められていると思うと、なぜかソイツの魅力が過剰評価され、付き合っている人がいたとしても争奪戦になってしまう……。

 既婚男や二股男がどういうわけか知らないがモテるのはそう言う原理もあると恋愛心理研究のデータにあるようだ。


 恐らくはそう言った“モテの構図“によって僕が魅力的だと誤認しているのだろう。


 建山さんはよく分からないが、島村さんに関しては“吊り橋効果”で僕を好きだと勘違いしているだけのような気がするし、実際は「モテの構図」と僕自身の状況は大きく乖離しているわけなのだが……。


 まどかが男が相手には僕相手にしかまともに話せないのであればなおさらそう言う傾向になってしまう事だろう。


「はぁ~~~~」


 まどかが大きな溜息を吐いてあんみつを食べきった時、突然顔が真っ青になった。


「ウッ……! アッ……!」


 ガラン! とあんみつの器が転がる


 心臓の辺りを抑えてまどかが突然苦しみだした! 僕は急いで美甘に連絡をすると共に玲姉を呼ぶボタンを押す!


「おい! しっかりしろ! 玲姉と美甘を呼んだから!」


「うぅ……!」


 この店で毒が混ざっているとは思えないし、僕の言葉にショックを受けた感じでも無い気がする……。


 一体まどかの身体に何が起きてしまったんだ!?

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