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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第34話 警戒しても無駄

「な、何だか怖いよ……」


 神主の部屋を前にしてまどかが僕の裾をギュッと握る。


「大丈夫だ。もしも何かあったら玲姉が飛んでくるさ」


「う、うん……」


 まどかが怯えているのに僕まで震えていたらさらに不安を増幅させることになってしまう。シャンとしていないと……。


 そんな感じで恐る恐る案内された部屋に入ると、いかにも呪い殺しそうな人物が待っていたわけでは無く、袴を着ている以外はごく普通のおじさんが待っていただけだった。


「君が虻輝君ですか。ニュースサイトなどで君の活躍を知ってはいるが、思ったよりも普通の子と言う感じですね。私は須永洋介。この神社の第57代神主です」


「はははは……よく言われます。改めまして虻利虻輝です。本日はどうぞよろしくお願いします」


 初対面の人にはそうやって舐められがちではあるが、この一連の交渉に関しては相手の警戒感を下げる意味で貢献しているとも言えた……。


「それで本題ですけど、“呪い“について解説が欲しいと大王局長から申し出がありましたが、遠回しの 我々への摘発と言う事では無いでしょうな? ”呪い殺している”と言う情報は色々な界隈から出ていると思いますから……」


 大王からはオカルト的なモノは見逃して構いません。金は解決できるならいくらでも出しますと、連絡した。


「勿論そんなことはありません。この問題が解決すれば報酬として最低でも30億は出すと大王は申しております。

 直接的な因果関係が証明できないのであれば大丈夫だと思います」


「言葉だけでは信頼できませんな。……後日契約書と誓約書をデジタル上でも消えないような手続きをしていただきたいですな」


 やけに慎重ではあったが、相手はあの大王なのだからどれだけ慎重になっても不思議ではない。


 しかし、大王からは“時間をかければ私が改竄できないデジタルデータなどありませんがな”と恐ろしいコメントが来た。

 

 どんな手続きでも“ただのパフォーマンス”に過ぎないのかと思うとゾッとした……。


「必ず書かせます。虻利家の名に懸けても」


 そんな風に警戒しても大王の前には意味無いけど……と思ったけど、相手が玲姉じゃないから思考を読まれない以上は“駆け引き材料”として使わせてもらうしかない。


 かと言って何を使えば“大王をストップ”することができるのか全く分からないからな……。本人が自ら弱点情報を開示してくれるとは思えないし……。


「あの……こんなことをお聞きするのはどうなのかと思うんですけど、“呪い”と言うのは本当に存在するのでしょうか? ちょっとどうにも信じられないんですけど……」


 隣のまどかもウンウンと頷いている。にわかには信じられないためにここで解消しておきたかった。


 “呪い“と言うのと対極的にあるごく普通の人のように思えたのもあった。油断してはいけないが、聞いたら答えてくれそうな感じもしたのだ。


「日本人の多くは無宗教と思われているかもしれません。

 確かに特定の神を拝んでいる方と言うのは少ないのかもしれません」


「そう言う印象はあります」


「しかし、現在の2050年代になっても「神社参り」「ジンクス」「お盆・お彼岸」などの風習は根強く残っています。

 恐らくは大王局長も何かしらの“ジンクス”みたいなものがあり、それが呪いの一つに利用されているのでしょう」


 “確かに私も研究が成功して欲しい、世界のまだ解明されていない真理に到達したいと思ったりすることはありますな”と大王から連絡が入った。


「つまり、何か目に見えないモノを信じている気持ちが逆に呪いを呼び込んでいるという事でしょうか? ちょっと信じられないのですが……。

 僕の拙い知識と感覚で言えば何かを信じていればそう言った呪いからは遠ざかると思っていたのですがね……」


「世の中は陰と陽で成り立っています。日の当たるところがあれば影もあるのです。

 これはこの地上にあるあらゆる万物にも該当するのです。

 どんな輝かしい実績のある方でもあまり他の人に話すことが出来ない“陰の部分“と言うのがあると思うのです」


「まぁ、あるでしょうな」


 虻利家なんて陰の部分の方がメインで、陽の部分が氷山の一角であると感じることすらある……。


「その部分がご理解できるのであれば話は早いです。

 簡単に申し上げますと、陽の部分を利用するのがご利益や願い事であり、陰の部分を利用するのが呪いだと思っていただければ分かりやすいかなと思います」


 まどかはほぇ~! と言う感じの表情で聞いていた。僕もきっとそんな顔をしているだろう。


「それなら何も信じない状況であれば呪いの影響を受けないという事でしょうか?」


 須永さんは視線を泳がせ何かを考えているようだった。


「理論的にはそうなのかもしれませんが、現実的には難しいと思いますよ。

 特に何か大きな偉業を達成されている方であればあるほど、行動原理には何かしらの信念があると思います。それを消すことは難しいと思います」

 

「なるほど……やはり一朝一夕には解決は難しそうですね」


「ちなみにいわゆる“幽霊”と呼ばれるものはその陰の部分が残ってしまった存在だと我々は考えています。

 現世に未練が残っているために陰が彷徨い続けているのでしょう。

 陽――つまり、未練の解消をすることが出来れば陰の魂は解き放たれるのです」


「局長は電磁の粒子が集まっていると言った見解をしていたのですが、科学と霊的な問題はこのあたりで交錯しているという感じなのですね……」


「そうなりそうですな。

 ではそろそろ本題として、事前に拝見させてもらったので大王局長にどのようなことが起きているのかご説明しましょう。

 この痣は複数の人間が複数の呪いをかけていますな。

 しかも複数の場所から呪いをかけているために非常に複雑なことになっているのです」


「“場所”と言うのは何が影響するのでしょうか?」


「あります。各神社にはそれぞれ力を司っている領域が存在するのです。

 より強い呪いであればその場所から呪いかけた場所から解かなければ意味がありません。

 つまり、“場所”を特定できなければ呪いを解くことは出来ません」


「そんな場所なんて分かるのですか?」


「分かります――が、呪いをかけた場所についてや方法につきましてはしっかりと契約書を交わしてからでないと、お教えできませんな」


 何かしら保険が無ければ安心できないのだろう。もっとも大王がその気になればどんな人間でも闇に葬ることは可能だろうが……。


「それもそうでしょう。片務的な契約では納得いただけないでしょうから必ず何かしらの利益を供与させます」


 私でしたらいつでも出向きましょう、と大王から連絡があった。この問題について一刻も早く解決したいという意向が伺えた。


「局長はこの件に関して解決できるのであれば大抵の条件を吞む用意があります。

 日本宗教連合での貴神社の地位の向上などにも協力させていただきます」


「それは有り難い。現状、本祭神社に日本宗教連合は握られていますからかなり厳しい状況です。それを何かしらの形で打開できるのであれば活動もしやすくなります」


 挨拶をした後、部屋を出た。


 こうして無事に今日も乗り切ることが出来た……。

 

 “呪い殺す“と言うワードからしたらどんなにおどろおどろしい人物が出て来るかと思えば、大王のような人物だった。


 あっけらかんと“とんでもないこと”を平然と言っていると後になってゾッとする――そんなイメージだった。

 

 自分達からしてみれば“当たり前”で悪いことをしているという気持ちは薄いのだろう。


 改めて僕は恐ろしいところに放り込まれているのだと実感したのだった……。

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