第33話 念願のペアルック
まどかの部屋の前で着付けて出てくるのを待っていた。次は僕が玲姉に着付けられる番だからだ。
ゲームをして10分ぐらい経つとガチャッとドアの音が鳴ったので自動モードにしてから急いでアプリを終わらせた。
「ど、どうかな……?」
真っ赤にしながらクルリとその場を回るまどかを前に心臓がドキリと跳ねたのが分かった。神社のプロモーション映像に出てきてもおかしくないぐらいの“はまり役“と言えた。
「ふぅん……馬子にも衣裳というやつか」
一呼吸置いてから僕はそう言った。
“可愛いよ”とか“似合ってるよ”と言ってやれないところが僕の酷いところだ。
今まで散々イジッておきながら褒めるのは矛盾しているような気がするからさ……。
長い間の関係の緊密さが逆に壁として存在しているような気がした。
「良かったわね~。輝君は表面上よりはまどかちゃんのことを褒めてるわよ~」
「えっ!? 今の発言でそうなの!?」
「……さぁな」
まどかは玲姉の発言を信じて一気に嬉しそうな顔になる。
玲姉め。余計なことを……。
「さ、輝君も速攻で着付けるわよ」
「ヒィィィィ!」
玲姉の着付けは早いのは良いが、もみくしゃにされるような感覚があるんだよな……。
「まったく、輝君って本当に素直じゃないわよね~」
そんな風に言われながらグルングルンと回転している間に今日も無事に終わった。
「やったー! お揃いだ―!」
僕が部屋から出てくるとまどかは万歳して歓喜した。
コイツ、小さい頃から妙に僕と同じような服を着たがったんだよな……。
ペアルックみたいだから恥ずかしいのを堪えてその日を過ごし、すぐにその服は着なくなったのを覚えている。そしてまどかに“なんで着ないんだよー!”といつも言われていた……。
「それじゃ、行こうか♪」
まるでどこかに遊びに行くような雰囲気でまどかが出ていった。
そんなまどかの後ろ姿が眩しく見えた。
◇
世の中メリットとデメリットがある。景親がいれば僕への当たり判定は下がるが別に癒し効果があるわけじゃない。
女の子連れてると緊張するし、欲望を抑えなくちゃいけないし、他人からデートをしていると勘違いされる。メリットしては何か癒しの効果もあるような気がするし、“いつも通りの世界”が延長線上にあるような気がする……。
「えへへ……」
まどかは何か本当に嬉しそうだ。一体何がそんなに嬉しいのか……。
話しかけてきてゲームをしていると怒り出すので、
ゲームの最近のトレンド動向を調べる「サマリーレポート」を読んですぐに反応できるようにしている。
集中していないことには変わりないだろ! と言われればそうだけど(笑)。
話しかけられたときの反応はゲームを本当にやっている時よりはマシだから……。
他愛もない話をしていると飛行自動車が止まる。
そんなこんなで今日のK神社に到着したわけだが、都内だからか段数が50段ほどと短い。これならばこれまでの経験上すぐに最上段まで到達できそうだ。
「紋付き袴って結構階段上りにくいから注意しろよ。特に石の階段だと幅が広いから歩幅に合わないんだ」
「大丈夫だって~! お兄ちゃんよりドンくさくないもーん! うわっ!」
そう言っておきながら早速2段目にしてこけかけやがった! 僕が慌てて体を支えたから大惨事は防がれたが、コイツも僕並にフラグ回収が早いな……。
「慣れるまではしっかりと足を上げることだな。
僕だってそこまで慣れているわけじゃないからケアしきれない」
「わ、分かった……」
顔を真っ赤にしながら態勢を立て直して必死になって歩き出した。まどかは歩幅が特に小さいために肩で息をしながら登っている。
やっとの思いでまどかが僕についてきているのを見て何か懐かしい気分になった。
昔はこれぐらいまどかは頼りなく、僕にやっとのことで付いてきたものだった。
メンドクサイ事させるなぁとは思ったのだが、頼られればそれはそれで嬉しい気持ちもあった。
今では体力的には僕の方が絶望的に劣るので、こんな気持ちになるのは本当に数年ぶりだ。
そんな妙に懐かしい気分に浸りながら今日はそこまで苦痛にならずに階段を登り切った。
「お前はあくまでも護衛できてるんだからな? 基本的には口挟むなよ?」
「う、うん……」
息を整えるとまどかにそう注意した。コイツの出かけるときのはしゃぎようを見ると何か勘違いしているような気もするからな……。
今日の案内をしてくれる子はまどかと同じぐらいだった。親の代かもっと前からこの神社に関与しているのだろう。
無口なタイプなようで会釈をした後“どうぞ”と言うだけだった。
栄宮神社は新しさを感じたが、このK神社は国宝に指定されているような室町時代からの建物や展示物がある。今日は日曜と言う事もあってそれらを見学に来た観光客風の人たちも多くいるようだった。
案内してくれる子は何も言ってくれないが、どうやら普通の参拝ルートでは入ることが出来ない“関係者以外立ち入り禁止”の区域に入れるようだった。
倉庫の中には季節代わりに入れ替わる特別展示物の“予備”が入っているだろうから
「ねぇ! お兄ちゃん! 屏風が勝手に動いているよ!」
確かに! と思ったら歴史と風格を崩さないためか、汎用ロボットが和風なテイストで溶け込んでいた。
「ありゃ汎用ロボットだな。どうやら、雰囲気を壊さないようにするために屏風と同じような色合いなんだろう」
「あ、ホントだ……」
ププププ……! と無口そうな案内してくれている子が笑っていた。まどかは顔が赤くなる。
「お前、神社にあまり来ないからって騒ぐなよな……。感想は後で聞いてやるからとにかく黙ってろ」
「はぁい……」
景親は木刀振り回して暴れ回らないか心配になったが、コイツはコイツで別の心配をする必要があるようだな……。
まぁ、僕も1人でいるときはまどかと同じような反応をしたかもしれない。
まどかが少しだけ反応が早かっただけだ(笑)。
「仲が良いんですね」
「いや、もう喧嘩ばかりですよ。ホントどうしようもない妹でして……」
ギロッとまどかが僕を見上げる。空気を読んでいまは何もしないでやるが後で覚悟しろよ……と言っている気がした。玲姉相手じゃないからそこまで覚悟する必要はないがな(笑)。
「そ、そうですか……」
笑いが堪えきれないと言った感じだった。
無口そうなのに笑わせてしまうのは僕とまどかが会話するだけで“コントをしている“と言われる所以だろう……。
しかし、この神社そのものは“抜け目がない“印象を受けた。どうやら、姿が見えないまでも庭の奥から視線を感じることから常に監視する人員が別にいるようだ。
先ほど、大王から送られてきたデータを確認したが、この神社は“呪い“について高額報酬で陰で請負い、実際に呪い殺したこともあるという”実績“まであるそうだ。
またこれまでと違った別の怖さがあるが、まどかの前ではあんまり怯えている姿を見せたくない。
ゴクリ……と唾を飲み込んだ。
下手をすれば僕までもが呪い殺されてしまうかもしれない。
かと言って日和っていると大王に実験台送りだ……。
「前門の虎、後門の狼」そんな言葉が浮かんだ。両方から挟まれた恐怖を堪えながら案内された部屋に入った。




