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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第31話 “裏切り”への対策

「あのぉ……今日の訓練はいったいどのような内容なのでしょうか?」


 恐る恐る僕は爺と建山さんを上目遣いで見上げた。


「そこは考えてあります。虻輝様。

 今回は昨日の反省を踏まえて仲間を敵だと思って戦っていただきたいです。

 昨日は島村さんが相手だったためか全く訓練通りに動けていませんでした」


「えっ……流石に僕の周りの人とは戦いにくいね……」


「それでは駄目ですよ。情に惑わされて裏切者を罰することが出来なかったらどうするんですか?」


 どんなことでもあっけらかんと語る建山さんが珍しく厳しい口調でそう言い放った。


「裏切者って……僕の周りにはそんな人はいないと思うけどなぁ……」


「いつ何が起きるかは分かりませんからな。あらゆる状況に対応した方が良いですぞ。

 それとも、恩人なら殺されてもいいのですかな?」


「そりゃ良くないけどさ……」


「あくまでも“想定”ですよ。あらゆる状況に対応していかないとゲームの大会でも勝てないじゃないですか?

 今周りにおられる方については心配ないのかもしれませんが、将来人脈が広がった際には色々な可能性があり得ますよ」


 建山さんは基本的には僕を肯定してくれる節があるが、ここだけは決して譲れないようで熱量がいつもと違う。


 過去に誰かにか裏切られたのだろうか……。


「そりゃそうなんだけどさ……。でもゲームと現実の駆け引きはやっぱりちょっと違うって言うか……」


 2人の言いたいことは頭で理解できてはいても、僕は周りの皆を信じていた。いざと言う時に裏切るだなんて考えたくも無いことだった。


 でも、目の前にいる爺や建山さん。それに為継はどちらかというと“支配者の言いなり”になりそうな相手ではある。


 そうなると既にリスクはある程度はあるんだな……。


「VR空間での訓練ですからそんなに気になさることは無いと思います。

 あくまでも練習ですから。ね?」


「分かったよ……」


 2人は譲る様子もないし、玲姉に助け船の視線を送っても何も反応は無いし、言う事を聞くしか無かった……。


 VR空間に入ると爺が僕に木刀を持たせた。


「それでは、まどかさんを出現させますな。玲子さんが具現化したら即座にやられそうですからな」


 爺がそう言うと、まどかが現れた。無論、コスモニューロンを入れてないまどかはここに入ることが出来ないためにデータのみの存在であることは間違いない。


「まどか! 覚悟しろ!」


 諦めの気持ちで僕はまどか(偽物)に対して木刀を振り下ろそうとした。


「うわーん! お兄ちゃんやめてよー!」


 まどかが、自分を庇うようにして丸まる。


「うっ……」


 口調もリアルのまどかと限りなく近い。偽物だと分かっているのに思わず動きが止まった。


 普段からじゃれ合っているとはいえ暴力を振るったことはない。

 仮にあったとしてもかなり後悔してしまい逆に僕がふさぎ込んでしまったことを思い出した……。


「何もしてこないのならっ! えいっ!」


 まどか(偽物)は僕が攻撃をしないと見るや本物より遥かに弱いツルのような攻撃で何回も殴ってきた。


「あの……一方的なんですけど……。少しは反撃してください……」


「……僕にはまどかを殴れない。大事な存在だから」


 建山さんは大きく溜息を吐いた。気が付けば僕の方が丸まっていた有様だ。

 呆れ返るのも無理はない


「……このままでは意味がありません。VR空間で実際のまどかさんに何の影響も無いのにこの様相ですから先が思いやられますな」


 爺は顔を覆うようにして嘆いた。申し訳ない気持ちになったが、これが今の僕の現実だった……。


「獄門会では幻想を見せたり相手に擬態する者もいると聞いています。

 そう言った相手に攻撃しろとは言いませんけど、何かしら対処していただかないと……。

 油断しては命を失う事になっては元も子もありませんよね?」


「そりゃそうだけどさ……。でも……」


 言いたいことは分かるし、今回は偽物だと完全に分かっていた。


 だが、“まどかの涙目”を見た瞬間に頭が完全にフリーズした。


 斬りつけるどころか、むしろ“守ってやらなきゃ”と思ったぐらいだった。


「……虻輝様にはこのプログラムは早過ぎたのかもしれません。

 また、リアル世界での基礎訓練から戻った方が良いですな」


「取り敢えずは課題が一つまた見つかっただけでも良いというところですね」


 先ほどの僕の考察からするに“この2人に課題を見つけられる”ということはある意味リスクだから手放しには喜べないな……。


 ゲームであれば課題が見つかることはすなわち次なる成長の道筋だから喜びなんだけど……。


 まぁ、僕の現在のレベルが致命的に低すぎるから、今更一つ増えたぐらいどうってこと無いと言えばそうなんだけどさ(笑)。


 リアル世界に戻ると玲姉が呆れた表情でやってきた。僕たちの状況については既に分かっているようだった。


「輝君……ゲームは世界のトップ、交渉はそこそこ上手くなったみたいだけど、

 肝心の戦いの駆け引きは本当にどうしようもないみたいね……」


「玲姉はリアルの戦いが肝だと思っているところが武闘派過ぎるだろ……。

 今のテクノロジーを考えれば僕は穏健に表面上のやり取りが上手くなっておけば大丈夫な気がするけど……。

 警護ロボットだって玲姉や建山さんを前にしたら虫のように吹き飛んでるけど基本的には頼りになるし」


「でもねぇ、いざと言う時は体力勝負よ? 前輝君も言ってたじゃない? ゲームの大会でもどっちかって言うとスタミナ切れで負けることが多いって」


「勝てそうな大会を落とすときは大抵そうだね」


「それなら鍛えておいて損はないじゃない。しっかりしなさい!」


 玲姉は相変わらずスパルタ過ぎる……。


「それで今日はお兄ちゃんはどんな失態をやらかしたの? 昨日は知美ちゃんに撃ち抜かれてボロボロだったけどさ」


 玲姉は思考を読んで全てを把握しているから全く違和感なく会話していたが、まどかは何も知らない。


 コイツが間接的に関係していることだからどう誤魔化そうか……。


「虻輝さん可愛いんですよ。まどかちゃんをVR空間に敵として出現させらたら。

 “大事だから攻撃できない”って!」


 あー! ッと思ったが建山さんはニヤニヤしながらすべて話してしまってもう遅い。


 それにしても、可愛いって……。建山さんは玲姉より一つ下だったと思うからその年代から僕を見るとそう言う感じなのだろうか……。


「は? いつも酷い扱いでそんなこと言うの意味分かんないんだけど……」


 あぁマズイ……何とか上手にフォローしないと僕がまどかのことを好きだと誤解されちまう……。


「あくまでも妹として“死んでもらっては目覚めが悪い”と言う意味での“大事”だからな? あまり勘違いしないように」


「ええ~! 普段から生死がかかってると思って扱ってよ……」


「それどころか、“大事だから殴れない”言ってましたよ。VRの存在なのは分かっておられるでしょうに」


「ホント、普段から大事にしてよねっ!」


「ちょっ! 建山さん余計なこと言うなよ! こういうことになるんだからさ!」


 確かにまどかに対してはこんなやり取りしかしてないけど、いざと言う時は確かに大事だって思えたんだよな……。


 コイツが乳飲み子だった時から知ってるし、ずっと一緒に育ってきたから思い入れが違うんだろう。


 実際の力としては逆転してしまったが、見た目は相変わらず小さくて細いからな。

 何か“僕が守ってあげなきゃ”って言う気持ちにさせられてしまう。


 こんな恥ずかしいことは絶対に口に出すことは出来ないが……。


「もしかしてぇ~。VRのあたしの方が可愛いとかそう言うこと言わないでしょうねぇ!?」


 ギロッと目を剥くようにしながら僕に迫ってきた。玲姉ほどの圧力はないものの目は本気だ。


「い、言わないよ! むしろ瓜二つなぐらいなんだから!」


 どっちかって言うと実際の本人とほとんど同じだったから戦闘意欲を無くしたなんて絶対に恥ずかしくて言えないだけだし……。


「輝君の思考を聞いていると本当に呆れるばかりね……。無意味に建前を取り繕うところとか……」

 

「えー! 気になるぅ! お姉ちゃん! 後でコッソリお兄ちゃんが何を思ってるのか教えてよぉ!」


「え~、こればかりは誰にも教えられないわ。私の信頼度に関わるから~」


「そんなぁ~!」


 まどかの顔をグイッと引き寄せるといつものようにモチモチの頬っぺたを引っ張った。


「フンニョォ~!」


「いんやぁ、今日も良く伸びるなぁ。為継に今度まどかの頬っぺたの感触を再現した人口の肌でも作ってもらうか……。いや、この反応が楽しいからな……」


「ちょっとぉ~! そんなことするならうさぎ跳びしてなさい!」


「ヒィィィィ~!」


 その後、休み休みうさぎ跳びをして累計30回目でアッサリと倒れたのだった……。


 最後は“いつもの形”で落ち着いたが、本音が出てしまいそうになったのは本当に危なかった……。

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