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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第29話 「妖狐」の主張

 ゲームをしながら帰宅をすると、玲姉が玄関で向かい入れてくれた。


「お帰り~。あら、今日も交渉は良かったみたいね」


「大王にも言われたけど、交渉で局面を乗り切る力が付いてきたって。

 交渉の内容自体はあんまり進歩が無いんだけど……」


「良かったじゃない。私が背中を見せて育ててきた甲斐があったわね」


 そんなことを話しながら廊下を歩いているとまどかとバッタリ出くわす。


「え~! 信じられないなぁ~。お兄ちゃんは普段は訳の分からないことを連発しているのに……。人の言語を話せているのかも怪しいよ。

 そんな状態なのにまともに話し合いだなんてできてるのぉ?」


 まどかは盗み聞きしていたのかそんなことをいきなり言ってきた。


「あのなぁ、まどか。僕は普段は留年の危機に瀕しているわけだが、

 ネジを巻き直せばそれなりにまともになるもんなんだよ。

 そうじゃなかったら流石にゲームの世界大会で相手を圧倒できないだろ?

 相手も結構高学歴で判断も的確なんだからさ」


「えー! 色々と信じらんなーい!

 もしかしてぇ、相手を買収したんじゃないのぉ~?」


 一瞬カチンときたが、相手はまどかだ。

 悪気は無さそうだから怒っても仕方ないと思って拳を握り締めるだけでとどめた……。


「お前の身長と違って僕は成長してるんだよ。お前も身長はそこで打ち止めなんだから内面で成長して見せろよな」


「むぅ~!」


 まどかとじゃれながらリビングに入り、今日の食卓を見ると見事な鶏肉の料理が並んでいた。


 サッパリした味付けながらもボリューム感があって満腹になった。


 爪楊枝で歯の間に挟まった鶏肉の破片を取ってティッシュに包んでいると、佐倉神主のお爺さんである米次郎さんの言葉が頭に浮かんだ。


「神主のお爺さんと言う人に会ってさ、その人に大王の痣は妖怪の仕業とか言われたんだけど、まさかそんなことは無いよね?」


「そうねぇ……。昔のタイプの頭の人はそう言う風に考えてしまうかもしれないわねぇ~。

 ただ、実際のところはそんなことは、ほとんど無いと思うわよ。

 今の科学技術の解明は凄いからね。因果関係を何でも証明しちゃうわ」


「その“ほとんど”ってところが気になるんだけど……」


「この間も誰にも介入されてこなかった無人島があったでしょう?

 あのように地球上でこれまで全く介入することが出来なかった領域が今もあるのよ。

 例えば地球の内部に近い所や、深海はまだ分かっていなかったりするし、

 身近なところなら私たちの脳だって完全に解明されていないのよ」


「つまり、そのような未知の領域があるから“妖怪が起こしている可能性もある”と?」


「あくまでも可能性の話ね」


「玲姉が妖狐である可能性は?」


「ヨウコって何さ?」


「あ……。妖狐ってのはあやかしの術を使って人間を騙す妖怪のことで……」


 まどかが玲姉の笑顔は僕が話始める直前から一気に険しいものになる。


 ヤバいと思って途中から声が小さくなった……。


「私は妖怪でも狐でも無いわよぉ!」


 玲姉が菜箸を投げて僕の頬を掠めていった……。

 壁を見ると菜箸は今、ダーツの矢のように突き刺さっている……。


「で、でも玲姉は妖術を使ってるのかと思うほど話は上手いし、

 なんだか納得させられるよ」


「そもそも私はそんなに話が上手いとは思って無いわよ。

 輝君一人まともに管理できずに今に至るわけだしね。

 結局力でねじ伏せるしかない時も多いし……」


「僕はどちらかと言うと内心説得されてるけど理論じゃどうしようもないから逃げていた感じかな……」


「はぁ~~~~! 理解しているのなら抵抗しないで欲しいわね。

あれも結構手間なんだから。

得に小早川君と組まれると厄介だわ」(第2章39話)


「大きな相手であればあるほど燃えてくるし、出し抜きたくなるんだよね……。


「そのいつまでも“悪ガキ“みたいな思考やめて欲しいわね……。

 輝君がゲーム感覚で逃げられるだけで私が色々と手間がかかるんだから……」


 玲姉は眉を下げて困り顔だ。


「玲姉を困らせるつもりは無いんだけどな……。忙しい身だという事は100も承知だし……」


 何とも言えない沈黙が落ちた。そんな中、空気が読めないことで定評のある建山さんがスルッと僕と玲姉の間に入る。


「いっそのこと、玲子さんから逃げるって言うゲームを作られたらどうでしょうか?

 そうすれば玲子さんも被害を受けずに済むのではなかろうかと」


 と、建山さんがそう提案してきた。


「あっ! それいいかも――いや、玲姉はこっちの逃げ方が高度になればなるほどそれを超えるぐらいのことやりかねないからな……」


 玲姉の顔が再び不機嫌そうになってきたのでここまでにしておいた方が良さそうではある……。

 雰囲気的に今度は菜箸どころではなくダイニングテーブルが飛んできかねないからな……。


「それって、他の人もプレーすることになるんでしょう? なんだか私が悪者みたいで嫌だわ。輝君の方がどう見ても私に迷惑をかけているのに……」


「た、確かに……」


「それなら虻輝さん専用にシステムを作り直してはどうでしょうか?」


「私が敵役ってことには変わりないんだけどぉ!?」


 玲姉がキッチンに入るとオーブンレンジを片手に戻ってきた。あれは恐らくは何十キロもあったはずだがまるでスポンジでも持っているかのような手軽さである……。


「まぁまぁ、玲子さん落ち着いて。それなら虻輝様を敵キャラにして玲子さん側からの視点のゲームにしたらいいじゃないですか? 虻輝様を捕まえた数で競えばいいんですよ」


 今度は烏丸が僕たちの間に入ってそんなことを言った。


「あら、それは良いわね。何回も輝君を懲らしめられるだなんて痛快だわ」


 玲姉はそう言ってオーブンレンジを戻しに行った。


 い、命拾いした……。


 しかし、この流れはマズいことに気が付いた。

 

「いやいや、なんでホントにそんなゲームを開発しようという流れになってるんだ……。

 皆知ってるか? ウチではこの有様だけど、外では僕はスーパースターなんだぞ?

 イメージが破壊され尽くされるだろ……」


「それなら分かる人だけ分かるみたいな感じではいかがでしょうか? 虻輝さんを“てるる中将”とかにすれば……」 


「分かるわ! それはヴァーチャリストのアカウント名だった(第3部)奴だし!」


「でも、意外と分からないんじゃないかしら。輝君が日頃はこんなに情けないだなんて知られていないんだから」


「小早川さんに今の概要を伝えてみます~。恐らくは良い感じでプロデュースしてくれるでしょ~」


 烏丸が嬉々として連絡を始めている……。為継なら簡単なゲームなら一瞬で作りそうだから恐ろしい……。


「これなら全部の課題を解決したので、リリースが楽しみですね!」


「全く楽しみじゃないぞ!」


 建山さんは僕を擁護したいのか貶したいのか、ただ単に天然なのか本当によく分からない……。


「こう見えても僕はこの世界の支配者虻利虻頼の孫なんだぞ……。

 それをイジって楽しんでいるだなんてなんて奴らなんだ……」


「まぁ~お兄ちゃんだから仕方ないんじゃないの~?」


 僕が怒らないのがいけないのかもしれないけど、正直怒ったところでどうしようもないと思っちゃうんだよな……。


 ご隠居に“告発”すれば止まるんだろうけど、あまりにも可哀そうに思えるし、殺伐とした雰囲気になるのはそれはそれで嫌だから諦めるしか無いんだよなぁ……。


 しかし、玲姉に質問しているはずがいつの間にか大攻勢をかけられてしまった……。


 これが本当の“妖術”なのかもしれない……。

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