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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第28話 妖怪のしわざ?

 佐倉神主とはこの間の本祭神社とは全く違って友好的な対話だったのでホッとしたものの、相変わらず進展していない事実に変わりはない。


 先が思いやられるなと思っていると大王から連絡が入った。


「虻輝様本日もお疲れさまでした。佐倉神主と友好的な関係を築けて次に繋がりました」


 と、大王は何故か今日も好感触のようだった。


「そんなに今日良かったの?」


 結局何の成果も無かったように思えたのだが……。


「ええ。そもそも、そんなにすぐ解決するようなら逆に私の科学技術の信頼度が危ぶまれるので、これぐらいでちょうどいいのです。

 友好関係を結べたという事に意義があります」


 そのバランス感覚が謎だった……。だが、今日も助かったのは間違いなかった……。


「ああ、そうなの……。まぁ、一応は他の団体も紹介してくれるという話だったからねぇ……」


「いやぁ、呪いと言うのは奥が深そうで楽しそうです。

 私も“科学的呪い“を極めてみようかなと思うようになりました」


「はははは……」


 僕は今密かにとんでもないことをしてしまっているのかもしれない。


 彼の未知の実験領域を広げるという事は大王の「実験被害者」がそれだけ増えるという事なのだから……。


「良かったじゃないっすか。今回も大王からの評価が良いみたいで」


「ああ……命拾いした点は良いがな……」


 連絡が終わっても、浮かない気分は晴れなかった。


「しかし、分かっていそうな人たちは教えてくれないか、手掛かりが乏しいかのどちらかだからなぁ……。一体あの痣はどうしたら取れるのか全く分からずじまいだ……。

 一体あれは何の呪いが原因なんだろう……」


「妖怪の仕業じゃよ」


 しわがれた声が突如として茂みの奥から聞こえてきた。


「だ、誰だ!?」


 あまりにも不気味だったので背筋がゾッと凍り付いた。


 すると、80歳ぐらいの小柄な老人がひょっこりと顔を出した。


 木刀を取り出して警戒していた景親を目配せして下げさせた。


「ワシはこの栄宮神社の元神主の佐倉米次郎じゃ。先ほどは孫の思遠と会話しておったじゃろ?」


「ええ……そうですけど……」


「ワシも密かにあの場で聞いていたのじゃ。一言言ってやろうと思ったら、

 無駄に友好的に終わったので今油断しているこのタイミングかと思って後をつけてきたのじゃ」


「そうなんですね……」


 やはり、お父さんが早逝してしまいこの米次郎さんが後見人と言う形なのだろう。

 心配して周囲を警戒しているのだろう。


「結果、2人ともそう悪い奴らでは無さそうと言う事が分かった」


「そうですか、ありがとうございます」


 見えないところで値踏みされていたことは正直なところ気分は良くなかったが、何はともあれ合格したことは良かった。


 それと同時に常に油断できないという恐ろしい状況であることも分かったわけだが……。


「その大王とやらが呪いのような痣があるそうじゃが、それは妖怪の仕業じゃ」


「先ほどもおっしゃっていましたが、妖怪なんてものが本当にいるんですか?」


「なら他に何の理由があるんじゃ? 説明できるのかの?」


「いや、出来ないですけど……まだ解明されていない科学的何かがあるんじゃないかと……」


「ふぅ……近頃の若者は何でも科学、技術、データで何でも解決しようとしよる。

 万物の全てを解明することは不可能じゃ」


 僕じゃなくて大王に言って欲しい所ではあるが、大王なら“それを解明するために生きているのです”とか答えそうな気がした……。


「まぁ、そうなのかもしれないですけどそれが妖怪なのかと言われたらちょっと違うような気も……」


「江戸時代より以前は人間の理解を超えた不可思議なことは“妖怪”と皆言ったものじゃ。

 この世の中には“分からない”ということで終わらせた方が神秘性や自然への畏敬の念を忘れないようにしたのじゃ」


「おっしゃりたいことは分かります。

 ただ、この“痣問題”が解決しないと僕の身が危ないんです。大王局長は過激な方なので……」


 大王なら僕が失敗や反抗した際に“消す”ためのマクロプログラムすら組んでいそうな感じすらするからな……。


 だから早く原因を究明して欲しいと心の底から願っているわけで……。


「ほぅ、そうじゃったか。何かしらか大王とやらに弱みを握られておるんじゃな?」


「それに近い状況なんです。ですから何としてでも解決しないと……」


「それなら発想を転換するのはどうかの?

 お前さんも大王を呪い殺す側に回るのじゃ。

 大王に近いものを持っていればより呪い易くなるからの」


 大王は僕に不審な思考があると分かればすかさず消しにかかるだろう……。


 米次郎さんの提案はある意味打開できるかもしれない案ではあるのだが賛同することだけは決してできなかった。


「それは過激な案だなと思いますのでもうちょっと色々と考えてみます。

 ですが、色々と心遣いをして下さりありがとうございます。

 思遠さんにもお伝えください。またお会いできる日を楽しみにしています。ゲームの世界大会も期待してください、と」


「ふむ、孫もいい友達を持ったものだ。ファンになり甲斐がありそうな奴じゃ」


「ありがとうございます」


 そう言って米次郎さんは立ち去っていった。


 な、何とか嘘を吐きまくることなく凌ぎきったみたいだ……。


「虻輝様、あの老人の言う事は戯言たわごとです。くれぐれも真に受けないよう」


 米次郎さんの姿が消えるとすかさず大王から連絡があった。完全にモニターされている……。


「当り前ですよ。何でも妖怪扱いされたらたまったもんじゃないですからね。

 年を取ると嫌ですね“分からないこと“を良しとしてしまったり、これまでの自分の経験を過剰評価してしまうようになるんですから」


 僕は心の中で米次郎さんに対して謝罪した。僕の身を守るためにこう言うしか無いんだから……。


「その通りです。虻輝様が下らない老人の戯言に唆されない健全な方で安心しました。

 中にはすぐに解決できる短絡的な理論に飛びつく者もおりますからな。

 近頃の若い者には特に多いのです」


「はははは! 大学の単位は怪しくてもそこまで愚かではないよ」


 自然に笑えているか疑問ではあるけども……。


「しかし、虻輝様も様々な相手に対して対話をするのが上手くなりましたな。

 以前でしたらパニックになるところでしたのに」

 

「玲姉に色々と処世術を学んだからな……。玲姉は笑顔で虚実を織り交ぜるから本当に凄いけど……」


「彼女こそ妖怪なのではないかと思ってしまいますな。

 私からすると日増しに得体のしれない不気味さを増しているようなそんな気が……。

 恐らくは妖狐か何かではなかろうかと」


「大王すらそう思えるのか……」


「ええ、それだけ解明しがいがあるというものですな。

 流石に本当に妖狐とは思えませんので。

 警戒されているので、どうにか協力させる方法を考案中だという事です」


「なるほどね……」


 これが“狐と狸の化かし合い“か……。


「虻輝様の今後の交渉に期待しておりますぞ。次の団体も紹介してくれそうですからな」


「あぁ……分かった」


 もはや拒否権は無いことは明らかなので諦めの境地に入りつつあった。


 もういっそのこと“妖怪のせい”ってことにして解決してくれないかな……と思いながら帰路についたのだった……。

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