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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第27話 皆がファンであって欲しい……

「虻輝様どうしやした? 何か願い事しないんですかい?」


「いや、何でもない……」


 僕が栄宮神社の参拝殿で凍り付いているのを見てか景親が声をかけてきた。


 まさか夢に出てきたとかそんなことを言ったら爆笑されそうで嫌だ。


 景親の声は響くし、この厳かな雰囲気を破壊しかねない……。


 そうなると、利己的な願い事を思うのはやめた方が良さそうだ……。


 いっそのこと何も願わないのも「アリ」なのかもしれないが、それはそれで何か失礼な気がした。


 だから周りの皆が無事に暮らせますようにと心の底から願った。


 すると、目を開けても何も起きない――まぁそれは本来当たり前のことなんだけど(笑)。


 夢のことがあるとどうにもビクビクしてしまった。


「景親は何を願ったの?」


「明日が無事に来ますようにって」


「えぇ……何かお前らしくないし当たり前すぎる気も……」


「明日が来ねぇと強くなったりも出来ないじゃないっすか?

 突然死したりしたら明日が来ねぇですし、密かに重要っすよ」


「へぇ、お前にしては色々と考えてるのな……。

 僕は利己的過ぎると怒られそうだし、かと言って当たり前すぎない願いを考えるのに必死だったよ」


「虻輝様は何かよくわかんないっすねぇ。絶体絶命でも落ち着いている時もあれば、何も起きてねぇのに妙にビクビクしている時がある気がしますぜ」


「暇さえあれば木刀を振り回しまくっているお前にだけは言われたくないわ……」


「はははは! 仲がよろしいようで」


 僕達はすっかりここが今日交渉しに来た場所だという事を忘れていつものやり取りをしていた……。


 これはいけない……。


「大変失礼しました。もしよろしければ案内していただければ幸いです」


「ええ、もちろんです」


 そう言って、案内している二宮さんは歩き出したので僕たちも付いていく。


 本祭神社の神主が住んでいる施設に比べると質素で簡素な印象を受ける。

 ただ、“ありがたさ”や”神聖さ“みたいなものに関してはお金のかかっているかどうかについてはあまり関係は無さそうな気がした。


 それだけ栄宮神社にも伝統的な厳かさみたいな良さがあるのだ。


「こちらです、虻輝様」


 奥の部屋ではあるのだが、本祭神社に比べるとやはり短い。パッと開かれたところの奥に神主が座っている。


「虻利虻輝です。科学技術局長の大王成輝の代理で参りました」


 僕は正座をしてから頭を下げて挨拶をした。この動きについても玲姉から行く前に指導を受けたものだった……。


「いやぁ、申し訳ありません。御足労頂いて。私は佐倉思遠と申します」


「神主さんにお会いできて誠に光栄です」


「まぁ、堅苦しい話を堅苦しくしていたら気が滅入ります。

 どうぞ、体勢を崩してゆっくりしましょう」


 佐倉神主は20代前半ぐらいだろう。随分と若いなと思った。


 恐らくは僕と同じように早くから高い地位について、それでありながら親に何かしら問題が生じて家督を早めに継いだという感じだろう。


 堅苦しく考えていないところは僕と近いシンパシーのようなものを感じた。


 僕の周りには近いタイプは少ない。

 幼馴染である正平やカーターすらもちょっと垢抜けて“やんちゃ”な感じだから付いていけない時があるのでちょっと嬉しくなった。


「いえいえ、こちらがお願いにあがろうと思っていたので当然です」

 

 しかし先ほどの教訓を踏まえて、例え相手が僕と雰囲気が近く、気軽に話しているとしても気を抜いてはいけないと思った。


 もしかしたら建山さんのように“緩い雰囲気を出して油断させるタイプ“かもしれない……。


「大王局長から送られた“痣”と呼ばれるものについてデータを拝見しましたが、

 確かにあれは普通のモノでは無いですね……。呪いの類が使われていると思います」


 この時密かに大王からは、“友好的で非常に良いです。自然に会話を続けてください。特に解除の方法のヒントでも解れば”とメッセージがあった。


「そうなんですね。ちなみに、普通の呪いってどうやったら解除できるんですか?」


「普通の呪術の紋章はどういった呪いを使っているのかわかるのです。

 例えば蛇のマークですと蛇と人間の血を代償としていることが多いのです。

 呪いを解く際にも蛇に対する血栓を使って祈祷みたいなことを行います」


「ほぅ、そうなんですか」


「しかしこれほど複雑な模様だと、多くの生贄を代償にしている可能性が高く容易には解除することはできないと思われます。

 そもそも、何を生贄にしているのかもわからないので、対処方法を見つけることも難しいのです」


「なるほど……。症状としては今のところ痒いだけらしいんですけど、範囲が広がっているのと、そのかゆみ止めも効かなくなっているらしいんですよね

 今後はどうなると思いますか?」


「何が起きるか私にも分かりませんね……」


 友好的な雰囲気だったが、次第に何も分からないという事でどんよりした空気になってきた。

 何も進展がないもどかしさが僕の中で積もっていった。


 大王からの連絡が入った。“進展は乏しいですが、呪いの分析材料さえあればなんとかなるかもしれません”とあった。


「あの……典型的な痣で構わないので、どういう痣の時にどういう呪いがかかっているのか、教えていただくことは出来ますでしょうか?」


「そうですね。この神社独自に継承されているモノを教えることは出来ませんが、基本的なモノについては教えて差し上げましょう」


「協力して下さってありがとうございます。

 こんなに良くしてくださったので、虻利家としてもこの栄宮神社に寄付したいと思います」


「いえいえ、こちらも本祭神社に無碍にされたと聞いて是非ともお話を聞きたいと思っていました。

 寄付して下さるにしても無理のない範囲で構いません」


「そんなに関係が良くないのですか? 勿論言える範囲内で構いませんが」


 正直言って興味はあった。日本宗教連合内でそんなにも内部対立しているイメージは無かった……。


「ええ……私たちのところに所属していた氏子(※信者のこと)を大分本祭神社に取られて失いました。

 本来宗教と言うのはしっかりと修練を経てから次世代の魂を見守っていくのです」


「なるほど」


「それを、“ご利益”的にお金を集めることで高位の魂に成長できるだなんてあまりにも世の中に迎合し過ぎです。

 確かにお金を稼ぐのも汗水垂らして得たものもあるでしょう。

 しかしながら、世の中には阿漕あこぎな商売をして得たお金もあります。

 それらを使って“救われた”とするのはどうにもおかしいと思うのです」


 しっかりとした口調で熱量が今までの発言とは違った。

 なにか“オタクの早口”に近い感じはあったのだが、憤慨していることは伝わった。


「なるほど。それほどの想いがあるのでしたら、我々としましても日本宗教連合での栄宮神社の地位を高めるように努力しましょう」


 具体的には“本祭神社の排除“と言う方向になるだろうがな……。


「あ……それでしたら、虻輝さんのサインのほうをいただきたいんですけど……」


「え?」


 あまりにも予想外だったので驚いた。


「実を言いますと虻輝さんのゲームの世界大会を毎回拝見させてもらっているんです」


「そうでしたか。サインぐらいお安い御用ですよ」


 待ってましたとばかりに色紙を取り出した。

 デジタル社会であってもこうした“現物の取引“と言うのは希少性はあった。


「先日の拳王戦決勝の第11戦目(第5部第19話)は危ないところから大逆転した時は感動しました」


 僕がサインを書いている間にそんなことを言ってくれた。

 

 普段はこうして単なる“パシリ”だが、稀にこうして僕を高く評価してくれる人がいると嬉しくなる。だからこっちが年下でも尊重してくれていたのだ。


「こんなもので良ければいくらでも書きますよ。折角だから何枚か追加で書きますよ」


「ありがとうございます! 友達に配ります! 当神社に友好的なところに紹介させていただきます。早く大王局長の痣が治って虻輝さんのゲームに集中できる環境になるといいですねぇ」


 そう言ってから僕の世界大会での数々の戦いを振り返って凄い凄いと語ってくれた。

 僕も記憶がおぼろげだったことまで覚えていてくれてこっちも嬉しくなってしまった。


 最後は笑顔で自ら見送ってくれたほどだった。あまりにも本祭神社とは全てにおいて全く違ったと言って良かった。


 皆が僕のゲームのプレイングをこれぐらい評価してくれたらどんなに良いだろうか……。

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