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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第24話 秘密にされた鬱憤

 いったい何のための外出だったのか分からなくなりながら家に帰ってくると、

 廊下で島村さんと鉢合わせになった。

 

「今日、お二人でどこにお出かけされていたんですか?」


 一番聞かれたくない質問である……。


「輝君には私のビジネスのついて相談に乗ってもらったのよ。

 ゲームをしている若者のファッション観と言うのも聞いてみたかったの」


 玲姉の答えに対して島村さんは口をへの字に曲げる。だが、何か言いたいけど言い出せない。そんな雰囲気があった。


 僕は普段格安の服を着ることが出来れば何の問題も無いと思っているタイプの人間だ。

 そして島村さんもそれは分かっているだろう。


 こんなのはデートをしていることに対しての苦しい言い訳にしか思われないだろう。


 しかしそんな状況でも玲姉は笑顔で語っていられるんだからこれを見習わないと……。


「この間島村さんと旧訓練場に一緒に行ったでしょ? あんな感じだよ」


 まさか誕生日プレゼントを買いに行って、僕は迷いまくった末に何も買わなかっただなんて言えないからな……。

 あまりにも情けなさすぎるから(笑)。


「そうですか……」


 島村さんは自分だけ置き去りにされていることから酷く不満そうだ。


 まどかはやはり話を聞かされているようで困惑した様な表情で僕達を見ている。


 島村さんの機転の良さなら“誕生日プレゼントを買いに行った“と空気を読んで欲しい所なんだが……もしかしたら、本人は色々とあり過ぎて誕生日が近いという事を忘れてしまったのかもしれない。


 島村さんは目の前に座っているから、とにかくこの気まずい空気から脱出したい……。


 美味しいはずの料理の味がしないほどで、今日は珍しく訓練の時間が待ち遠しいと思えるほどだった。


 だがしかし……。


「……今日は私もそちらの訓練に参加させてください」


 訓練場に着くと島村さんは久しぶりにギロリと身体を射抜くような目つきで僕を見てきたのでギョッとした……。


 よっぽど仲間外れにされている感じが嫌なのだろう……。


「僕たちは主にVR訓練だからさ……」


 島村さんはコスモニューロン導入してないじゃないか? 続けようとしたがさらに拗れるような気もしたのでやめた。


「今日はリアルでの実戦形式と言うのも良いではないでしょうか?

 VR空間ばかりでも緊迫感が無いでしょう?」


 事情をよく知らない爺がそんなことを言ってきた。


 やめてくれ僕の心身がマジでもたない……。


「いや、VRでも痛覚を完全に切っているわけじゃないからかなり痛いんだけど……」


 正直、今日島村さんに対していつも以上に話しにくいので一緒にいたくない……。


「村山さんがそうおっしゃるのでしたらそうしましょうか」


 建山さんがそう言うとは思わなかった……。

 この2人何かあまり関係が良いイメージが無いからさ……。


 こうなると僕が抵抗すれば余計に状況を悪化させてしまうだろう……。


「分かったよ……」


 僕も渋々承諾するしか無かった。


「では、島村さん。虻輝様を狙撃してください」


「ええ。分かりました」


 最近ではあまりに見ないほど鋭い目つきで僕を見据えて来る。これは、誰も今日起こったことついて話してくれないことでキレまくっている……。


 そしてそのストレスを僕で発散しようとしている……。


「ルールは簡単で、時間制限1分5発以内に虻輝様を地べたに這いつくばらせてください。

 虻輝様の身体能力でしたらそんなに力を籠められなくとも大丈夫かと」


「ええ、分かりました」


 と、僕に承諾なしに勝手に爺と島村さんとの間にルールが成り立っている……。


「では虻輝様逃げてください!」


 島村さんが弓の構えをした瞬間一目散に逃げだした!


「ハッ!」


 島村さんの声とともに弓が放たれる! しかし、見えないためにどうしたらいいか分からず取り敢えず飛びのこうとしたのだが……。


「グハッ……!」


 お尻に命中し、思わず倒れかけたのをグッと堪えた。


「ハイッ!」


 僕が転がって回避しようとしたところをすかさず2連発し、僕はその場にうずくまった……。


 こうして、たった3発で地べたに這いつくばっていた……。全弾命中された上に30秒ほどで終わってしまったのだから完全敗北だ……。


「す、すみません……。思わず熱くなってしまって……」


 島村さんは何回も頭を下げながらこっちにやってきた。


 口調は丁寧な感じに戻ったが、目が据わったままであることから怖さが残っていた……。


「流石ですね。まず下半身を封じ、そこから狙っていったわけですから効率が良いです」


「凄いね知美ちゃん!」


 建山さんとまどかが次々と称賛していた。


「あの……納得していないで僕を助けてよ……」


 僕は相変わらず地べたで倒れたままだ……。


「虻輝様はまだまだでしたな。何のためにVRで訓練してきたのか分からないレベルで酷かったですぞ」


 爺が手を貸してくれてなんとか立ち上がったが、そんな辛辣なことを言ってきて僕の心にぐさりと突き刺さる。


「いやあれなんだよ。島村さんが本気で殺しに来ているんじゃないかと思ったら身体が動かなくって……」


 最近優しい目で見られていたから、殺気立つ視線は久しぶりに身体が縮みあがった……。


「ですが、殺し屋は間違えなく殺しにくるわけですから、

 あの程度で怯えていただいてもらっては困りますぞ……。

 そう言ったメンタル面のお話もしていかなくてはいけませんな……」


「うぐぇ……」


 返す言葉が全く無かった……。


「ごめんなさいね村山さん。私が教育しているつもりなんだけど、こんなに心身共になよなよした子になっちゃって……」


「いえいえ。こんな虻輝様では、この程度になればかなり良い方ですぞ」


 爺も玲姉と話す際には途端に柔らかい声になる。本気同士で無いにしろ、力をぶつけ合って実力を認めたからだろうな……。


「何か僕相手なら何を言ってもいいって言う風潮無いか? ちょっとあまりにもウチの中での評価が酷いんだけど」

 

 だからこそ“英雄”になることができるゲームに逃げたくなるわけなんだが……。


「大丈夫ですって! 良いところと悪いところは表裏一体って言うじゃないですか! 虻輝さんはその分良いところがたくさんあるんですよ!」


「あ……そう……」


 建山さんだけ“奇妙”なまでに肯定してくれるが、どうにもズレているんだよな……。

 今の発言も悪いところがいっぱいあることを暗に示しているわけで……。


 これは“天然”なのか特攻局幹部としての“作戦”なのか判別がつかないんだけど……。


「ともかく、向かっていく姿勢が大事ですぞ。腰が引けている状態で逃げてもすぐやられてしまうだけです。例え逃げるにしても、体勢は崩してはいけません。

 ただ、昨日学んだように時には“自ら倒れる”と言った受け身の方法を取ることも大事になります」


「色々考えながら選択しなくてはいけなくて大変だな……」


「ゲームの中の出来事と考えてはいかがでしょうか? 格闘ゲームをリアルでやっていると思っていただければ」


「ああ、なるほどね。ただ、昨日も言ったけど勝手に構えとかをやってくれるから随分勝手が違うんだよね……」


 

「そこは体に叩き込んでいただくしかありませんな……」


「ヒィィィィィ!」


 そのあとはひたすら体勢の取り方と、休みの間はメンタルについて語られたのだった……。


 非常に嫌な時間だったが、島村さんの僕に話しかけてくる機会も無かったためにそれはある意味助かったと思ったのだった……。

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