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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第22話 祝日にやること

 2055年(恒平9年)11月26日 金曜日(祝日)


 今日は祝日である。かつては11月23日が「勤労感謝の日」とされていたが、

 20年前に11月26日が「黄金の日」となって祝日となる代わりに廃止された。


 この「黄金の日」は近年日本の近海で鉱山が発見されたとかこじつけられているのだが、

 実情はただ単にご隠居虻利虻頼の誕生日と言うだけである。


 自分の誕生日を国民の祝日にしてしまうだなんて本当に権力と言うのは恐ろしいものだなと毎年痛感させられる……。


 今は表向きには外に出るつもりは無いとか言っているが、時期にご隠居の肖像画が印刷された紙幣が発行されたり銅像が建ったりするのも時間の問題な気もした……。


「輝君、今日の予定は?」


 朝ご飯を食べ終えて自分の部屋に戻ろうとすると、玲姉に静かに声をかけられた。


「玲姉なら聞かなくても分かるだろ……世界大会の調整だよ。12月は9種目の総合戦だから対策する範囲が広くて大変なんだよ」


「と言う事は空いてるのよね? それじゃ、私とお出かけするわよ」


「あの……僕の発言や意思を尊重してくれるという選択肢は?」


「あるわけないでしょ。勿論、私の隣を歩くからには途中でコスモニューロンの中でゲームをやることは許さないわよ」


「酷すぎんだろ……僕はゲームが人生の全てだというのに……」


「それじゃ、新しい人生を今から始める事ね」


 何でいつもこんなに強引なんだよ……でも、こういう流れになると逆らっても無駄だという事は100も承知なので渋々出かける支度をした。


「美甘さん、私の会社までお願い」


「分かりました」


 玲姉は美甘に命じて都心まで飛行自動車で行くようだった。


「ところで何をしに出掛けるのか全く聞いて無いんだけど……」


「簡単に言うのなら知美ちゃんへの誕生日プレゼントを買いに行くのよ」


「えっ……そうだったんだ。それなら休日にやるに相応しいな。いつなの?」


「11月29日よ」


「それは知らなかった……。あ、“良い肉の日”だからあれだけのボリュームがあるのか……」


「女の子は体重をかなり気にしているんだから。そんなことを本人の前ではあまり言わないようにね。ちなみに私の体重はリンゴ3個分よ」


「は、はい……」

 

 キテ〇ちゃんかよ――と思うと、玲姉の表情が険しくなる。これ以上このことを考えると僕の命が危ない……。


「ともかく、誕生日プレゼント一緒に考えるわよ。まどかちゃんの分もね。

勉強が遅れているから知美ちゃんに教えてもらうという事で今日は来てないけど気持は一緒だから」


「なるほど、まどかを良いダシに使ったわけか……」


「輝君は言葉の選び方を考えた方が良いわよ……良いことなんだしね? ここが外じゃ無ければ頭が宙を舞ってたわよ……」


「はい……」


 頭の中では気を付けているつもりなのだがどうしても口が滑りまくる……。

 僕も景親に対して思ったことじゃないけど自分自身の口を縫い付けたい気持ちになることがある……。


「知美ちゃんは自分の誕生日について正確に言うと言って無いんだけどね。

 もともと今回誕生日を迎えられると思っていなかったみたいだし」


「僕の父上を殺そうとしていたからか……」


「そうそう。だからこそプレゼントしてあげると喜ぶわよ。特に輝君があげればね」


「どうして島村さんは僕のことを好きになったんだと思う?

 どこから潮目が変わったのか分からないけど、気が付けば好かれているような感じで、

 正直言って困惑しているんだけど」


「……そういうことは本人の口から聞くことね」


「えー!」


「よく考えてみなさいよ。心を覗かれた上に本人のいないところで話したことが分かってしまったのなら私の信頼がガタ落ちよ?

 誕生日プレゼントに関してはサプライズで喜ぶことが確実だからやっているだけなんだからね?」


「はい……。僕の考え方が浅かったです……」


 玲姉の考え方は大人で僕は幼稚な子供だなとつくづく思った……。


「しかしやっぱり謎だよ。最初は僕が殺されるんじゃないかって言うぐらいの目つきで睨まれていたからね。

 正直言って怖かったぐらいで会話するのもおっかなびっくりだったんだから意味不明だね」


「私が思う輝君の魅力は“他の人に無い感覚”があるからかしら? 訳の分からないことをひたすら呟いているときは正直言って困惑してるけど……」


「玲姉も建山さんも僕を褒めているのか貶しているのかホントに分からんな……」


「あら、一応は褒めてるのよ? 正直な話、私の会社の社員でも素直な子は多いけど“自分”と言うのを持っている子は少ないからね。指示待ち人間が多いのよ。

 例えゲームでも自主的に何かに取り組めるだけ良いんじゃない?」


「は、はぁ……」


 そんないつも通りの他愛もない話をしているうちに飛行自動車がスッと止まった。


「美甘、いつもありがと」


 そうお礼を言って僕たちは車を降りる。


 玲姉のBUD社の近くはファッションに関する店が見渡す限り出店しており、キラキラとお店の看板だけを見ても眩しいほど輝いている。

 お洒落な人なら人生で一度は必ず訪れるような通りだろう。勿論僕1人では絶対に来ない場所だ(笑)。


「島村さんって全然物持ってないよね? 弓道の道具ぐらいしか持っているイメージ無いんだけど……」


「基本的に女の子は可愛いと思われたいものよ。それは、別に恋人がいなくてもそう思うものよ」


「ほうほう……」


 まったくもって女の子の気持ちは分からない。僕はとにかく機能性さえあればなんでもいいやと思ってしまうタイプだから……。


「輝君はもうちょっとファッションについて考えた方が良いわね……。

 今度教え込もうかしら……」


「えぇ~。勘弁してよ~」


 そんなことを会話しながらも玲姉は自分の会社の隣にあるブティックに入りサッとペンダントを選んだ。黄色の宝石みたいなのが付いている。


「その宝石みたいなのは何なの?」


「これはシトリンといってクォーツの仲間ね。11月の誕生石になっているわ」


 2つ手にしているという事はまどかの分も似たようなモノにするのだろう。

 そうなると、何となく”僕もそれで”とは言い出しにくかった……。


「流石はモデルで美容やファッションのプロ。見ている視点が違うね。

 僕は正直何を買ったらいいのかサッパリ分からない……」


「輝君はゲームをやっている時以外は本当に頼りないわね……。

 バシッと決められないかな? と思ったから今日連れてきておいて良かったわね」


「玲姉の僕に対する読みはいつも当たっているよね。

 流石に僕の世話をずっと続けているだけのことはあるよね」


「さっきも言ったけど、輝君から貰えるのなら知美ちゃんは何でも嬉しいと思うわよ」


 とは言え、何か適当に決めてしまうのも失礼な気がした。


「ま、まぁ。明日か明後日までの間に決めるよ。今日は連れてきてくれてありがとう」


「迷っている間に買い忘れるという最悪の事態にはならないようにね。

 輝君は大事なことでもすぐに忘れちゃうから……」


「はは……気を付けるよ」

 

 誕生日プレゼント一つでこんなに優柔不断で大丈夫なのかと我ながら思ってしまうけどな……。


 もっと肝心な時や重要な時に日和ったら大変なことになってしまうだろうから……。

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