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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第2章 悪夢の共闘

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第14話 日給30万円の任務

 飛行自動車に乗り込むと為継から連絡があった。


「虻輝様、今日もお疲れさまでした。いかがでしたか?」


「まぁ、それなりに大変だったけど充実してたよ」


「そうですか……私としたことが、虻輝様が3000円で働かされる可能性があることを失念していました」


「まぁ、別に金には微塵も困っていないから何の問題も無い」


「しかし、問題解決能力にも長けていると思います。そこで、思い切って虻輝様の指名報酬を本日の夕方から日給30万円にしました」


「えっ! 流石にそれは高すぎやしないか……今度こそ誰も来ないぞそれ……」

 実は僕としては依頼がこないのは好都合であるが(笑)。


「統計的に本来はプレミアム価格が付きそうなものが安すぎると逆に何もしてくれないもしくは何か裏があるのではないのかという心理が働くそうです。虻輝様のような著名人だと特にそうなります」


「なるほど……」

 タダより高い物はないとは言うからな……。


「それに、これでも相当単価を下げています。本来の虻輝様の年収からすると日給1000万円でも安いぐらいなんですから。また、100万円にしようとしたら柊玲子から反対されました」


 手取り30億となるとあらゆる税引き前は50億とかになる。

そうなると日給換算だと1500万円超えという換算になってもおかしくないから、為継の言う“1000万円でも安い”と言えばそうなのかもしれない。


「ふーむ、そうなると30万円というのは無難な落としどころというわけか。

簡単には手を出せない金額だが、凄く問題を抱えている人からすれば安い……と。

しかし、僕は探偵とかでもないし問題解決のプロでもない値段に見合った仕事ができるのだろうか……」

 

 しかも『日給1500万円』と言えどほとんどがeスポーツの賞金だからな……会社の役員報酬とかは所詮10億ぐらいしかないしね。そうなると実質的な日給は300万円というところだな。


「虻輝様は意外と庶民感覚がありますよね。というか、高級品などに無頓着というか……。高級食材とかもあまり好みませんからな」


「そうだねぇ、美味しいものを食べれば安いのと比べて違いが分かるけど、そればかりを食べたいとは思わないね。何ならコンビニのアイスだって美味しいし(笑)。

 値段が高ければ高いほど値段に比例して美味しいという感じもしないからな……。それに、本当に美味しいものはここぞというときに食べてこそ価値があると思うんだよね。

 記念日とか大事な交渉とか」


「なるほど。それも一理ありますな」


「まぁ、これで当分僕に仕事は来ないだろう……枕を高くして眠りにつけ――」

 ピッと帝君大学万屋宛に通知が入った。


「ま、まさか……。オイオイいくら何でもタイミングが良すぎるだろ……」


「……そのまさかのようですな」


「んーと何々……私は、車谷美紀と申します。友達の様子が最近おかしいです。これについて調べてくれませんか?」


 いや、プロの探偵に頼んでくれホントに……そういう感じで返信した。


「その友達、有名人のイケメン好きなんです。1日や2日でいいんで――か。ふぅ、分かっているではないか」


「虻輝様はそう言った理由で仕事をお受けになられるんですね……」


「いや、マジで家での僕の評価が低いんだって! 使用人の烏丸より下だよありゃ……」


 ふぅ、ようやく僕を正当評価してくれる人が現れたようだな。この内容なら島村さんも付いてこられないだろうし、いっちょやってやるか!




「やめておきなさい」


 玲姉に食事中に車谷さんの一件を話したら、あっという間に否定された。


「えー、なんでだよぅ」


 自宅では僕への評価が低すぎる……せめて僕を高く買ってくれる人のところに手伝いたい……。


「何か危ない臭いを感じるわ。警察に任せてもいいって後半のほうにあるのでしょう? それならば警察に最初から任せておいたほうがいいわ」


「ただねぇ、警察も仕事が多いだろうから何か不審がある程度じゃ何もやってくれなさそうだからなぁ……基本的に事後に動くのが警察だし……虻利にタテつくっていうのなら特攻局が黙ってないだろうけどさ(笑)」


「それは分かるけど、輝君が行く必要がないじゃない。私が出てもいいからね? 私なら誰が相手でも勝てる自信があるから」


 そこまで自信たっぷりに言えるのは中々ないと思うね……。


「ただ、“イケメン“じゃないといけないっていうのは玲姉にとってハードルがあるでしょ」


「それなら私が男装してもいいわよ。男性っぽいメイクをすればいいだけだし」


「玲子さんの男装ならアリかもしれませんね」


 島村さんがそんなことを言っている。何を言ってるんだコイツら……とは思ったが、宝塚の男装衣装のようなものを着ている玲姉を想像したら確かに似合うかもしれないと思ってしまった僕もいた。


「あ、分かったよ! その調査して欲しい人ってモデルやタレントなんでしょ? だからお兄ちゃんはその人と仲良くなりたいんだ! そんなの許さないよ!」


 まどかが机をバンッ! と叩きながら勢いよく立ち上がり急に割り込んできた。


「いやいや、何でまどかなんかに許可の判断をするんだよ!」


「えー! だって、そのタレントって肌を黒く焼いて化粧も凄く濃い人なんでしょ!? 

そんなのお兄ちゃんに合わないよ!」


「なぜにそういう話になっていくのか分からん……」

 

 確かに車谷さんが心配している野々谷カレンという人物は、どっちかっていうと昔で言う「ギャル」という感じのモデルの娘だ。僕のタイプではないと言えばそうだ。何か知らんが昔のブームが再燃していて女子高生の間では「カリスマ女子高生」と言われているような存在である。


「だってさー! 事実上その人とデートするんでしょ!?」


「まぁ、そうなんだけどね。でもさ、30万円も払ってでも救って欲しいだなんてよほどのことだよね? しかもプロでもない僕に対してさ」


 この間のベビーシッターの一件はやる気が無かったが、何だか周りから反対されると逆にやる気が出てくるというのは何だか不思議な気分ではある(笑)。


「そうね……確かに、30万円を払ってでも頼みたいというのだから余程の覚悟を感じるわ。

ここは、知美ちゃんを含めた3人での行動なら賛成するわ」


「え……私もその場に参加するのですか? 何だかとても気まずい雰囲気になってしまうような……」


「知美ちゃんは輝君の状況に異変がないかどうか見てもらうわ。相手がいない時は無線でやりとりをし、会話中も盗聴器で音声を取り、見える範囲からの中距離監視をしてもらうわ」


 おい……折角島村さんと離れられるミッションだと思っていたのも引き受ける要因の一つだったというのに……。


「なるほど、私はお目付け役ということですね。玲子さんの言うことなら頑張ります。」


「そういうこと、何か輝君が問題行動を起こしたらすぐに連絡して頂戴」


「僕は問題起こすのは前提なの!?」


「輝君が問題を起こすのは仕方ないとしても、流石に、下らない女の子に輝君をあげるわけにはいかないわ」


 完全に保護者の視点だろそれ……。そして僕は問題起こすのは変わらんのね……。


「ただ、島村さんは車谷さんの勘定に入ってないだろうから。それを許可取っておかないとな」


「そうですね。そのほうがいいと思います」


 しかし、毎度のことながら初対面の人と話すことを考えるだけで緊張するな……。


「それにしても、今日の高橋さんの家でのことを輝君は立派にやり遂げたことは間違いないわ。こうやって一つ一つ苦手を克服していきましょう?」


「いやぁ、今日のことは奇跡が起きたと言っても過言ではない。

やはりゲームの力は偉大だと確信したよ。素晴らしいコミュニケーションツールだ」


「課題は、ゲーム以外の話題で会話を続かせるにはどうしたらいいのかになりそうね……。

まぁ、今日のことでも十分な進歩だと思うけどね。それより、お礼とか言われた?」


 清美さんと祥太にお礼を言われたことを思い出した。


「やっぱり玲姉は凄いよ。あのお礼を言われた時の瞬間はこれまで得てきたものの中でも替えがたいものだったよ。最初は嫌々始めたけど今後は続けていきたいと思う」


「そう、それは良かったわ。誠心誠意を込めて取り組めば必ず感謝してもらえるわ。

ただし、最初から感謝の言葉を求めてはダメよ。相手が心からの気持ちではなくなるからね」

 

 確かにそうだろうなと思った。相手の気持ちを操る意図で動いたら虻利家とやっていることは変わらない。

 こんな話をしながら、皆で今日の戦利品であるお土産のケーキとクッキーを食べる。


「うーん美味しいっ! このケーキとクッキーが合うね! 五臓六腑に染み渡るよ!」


 甘さを際立たせるクッキーの絶妙な絡み合いがたまらないねぇ……。


「ところで知美ちゃんは今日のことについてどうだった?」


「そうですね。私も実は小さい子供については苦手意識があったのでそれが克服できたような気がします」


「なら、次は料理については私から教えてあげるわ。」


「は、はい……」


 いつもなら玲姉から教えてくれるとか言われると目を輝かせるのに今は顔が引きつっている。余程料理が苦手なのだろう。


 この間話を聞いたらなんとこれまで島村さんは独り暮らしになってから食事のほとんど栄養ドリンクで日頃の食事を賄っていたらしいんだから驚きだ。

 数少ない持ち物の中にブレンダーみたいなのがあってそれで食料を砕いて栄養ドリンクにして食べて――いや飲んでいたらしい……。


 僕は、そう思いながら最後のクッキーに手を伸ばす。と、同時に小さい手と触れ合った。


「ちょっとお兄ちゃん! あたしに譲ってよ!」


「いや、これは僕が働いて得たものだお前なんかに渡すか!」


「なにをー!」


「はいはい、今日は輝君が頑張ったのも事実なんだから半分にしましょうね」


 玲姉がサッと僕達から取り上げて半分にして僕たちに渡した。いつもなら『お兄ちゃんなんだからまどかちゃんに全部あげなさい』と言うところだからこれでも相当譲歩していると言える。


「いやぁ、本当に仲がいいですねぇ」


 烏丸が気が付けばニヤニヤしてケーキを食べている。さっきまでいなかった気がしたのだが本当に玲姉と共に神出鬼没だ。

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