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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第21話 よく分からない評価

 訓練場に行くと今日も爺が座禅を組むような恰好で僕たちを待っていた。

 恐らくは寺に大事に収容されている木造の仏像のように、全く動きが無いまま瞑想を続けているのだろう……。


「いつも思ってたんだけど、ここで待っている爺は上の食卓で料理を食べないの?

 今日は高級な刺身の盛り合わせだったんだけど……」


「玲子さんの出される食事はどれも美味しそうで、本日は一切れほど頂きましたぞ」


「ひ、一切れか……。僕ではとても真似できそうにないな」


「この年にもなりますと、中々食欲と言うのも湧かないものです」


「そう言うものなのか……」


 それで動きは鋭利な刃物のように鋭くとても鮮烈で年齢を感じさせないのだから凄い……。


「今の世の中は無駄に大量消費をさせることが是認されるGDPと言う指標が大きな評価基準になっていますからね。

 実をいうと栄養価が低い食べ物ばかりが世の中を席捲しているという事ですよ。

 それで人々を不健康にして医療とかの利権も潤っているんですから笑えませんよ」


 建山さんが気が付けば真後ろにいた。と言うか皆、各々訓練の準備を始めていた……。


「つまり、指標のために不必要なもので水増しされているってこと?」


「そういうことです。世の中には“豊かさの指標”のために本当の豊かさを失っているということです。

 ただ、私は甘い食べ物も好きなので、そういうことを理解しつつ食べていますけどね。

 私のお父さんが甘党だったんで」


「前もゲームが上手なのがお父さんの影響だって言ってたけど、

 お父さん子だったんだ?」


「ええ、そうですよ」


 建山さんは体をくねらせて僕を敢えて上目遣いで見上げながら笑った。

 いつにないぐらい上機嫌な感じもするが何があったんだろうか……。


 もしかしたら、建山さんのお父さんと僕が似ているとかそう言う話なのかもしれない。なんだか聞きたくない話だから敢えて聞こうとは思わないけど……。


「雑談もよろしいですがな。訓練をせねば玲子さんに灰にされますぞ」


「そ、それは大変だ! 早く始めてくれ!」


 本当にやりかねないところが恐ろしい……。

 建山さんも笑顔がどこかに吹き飛んだんだからな……。


「さて、そんなわけで本日は“構え”について学んでいただこうと思います」


「構え? ……前やったような気も」(第4部12話)


「あれは素振りの構えでした。今回は他の構えについてご紹介したいと思います。

 建山さん私を投げ飛ばしてください」


「ええ、分かりました」


 そう言って建山さんが爺を投げ飛ばす。すると倒れた! と思った瞬間にクルッと回転しながら手を付きながら立ち上がる。


「では、またお願いします」


 建山さんがまた投げ飛ばす。軽くやっているように見えるが結構パワーのいる動作だ。

身長はあるものの細さはそこら辺の女性と大差ない建山さんだが、並の力で無いことが分かる。


 今度の爺は地面で転がりながら立ち上がった。


 これも僕のように無様に地べたに這いつくばっているわけでは無く、すぐさま立ち上がったために華麗とも言える動きではあった。


「確かに結果を見れば大きく違うな……。具体的に何が違うのかまでは分からないんだけど(笑)」


「1回目の時は私は自ら倒れたのです」


「えっ! そんなことをしたら普通考えたら立ち上がりにくくなるんじゃ……」


「これは経験的な話ではありますが、どう投げられたらどう飛ばされるかどういう剣戟が来たらどう斬られるか分かってくるものです。

 完璧に避けることが出来ればそれは理想的ですが、相手次第では“攻撃をいなす“ことも考慮に入れなくてはいけません」


「へぇ~。そう言う心構えでやっていたとは知らなかった……」


「柔道などでも強い選手ほど受け身が上手いのです。

何せ怪我をして練習が出来なくなったり、試合に出られなくなれば元も子もないですからな」


「なるほど。色々と奥が深いんだな……」


「ライオンやイノシシから逃れる際に虻輝様は出来ている時もありました。

 しかし、意図的にやっていたわけでは無く再現性が乏しいものでした。

 そこで本日はその意識付けをしていただきたいと思ったのです」


「なるほどねぇ……。この訓練はそもそも再現性を高めるものだもんねぇ……。

 確かに構えなんてゲームでそんなに重視する場面ないからな……」


 どっちかって言うとそんなのは自動的にやってくれているから意識したことすらない。


 あまりに自由度が高すぎたり要求される動きが細かすぎるとライトユーザーが離れてしまう一因になるために、

 そこまで重要視されていない動作については勝手にやってくれるのだ。


「お得意のゲームではあらゆる動作を叩き込まれてプレイ出来ているのですから、

 基本動作をその一つとして覚えていただくと考えて下され」


「思ったけど、建山さんは何か構えているイメージが無いけどな……。

 気迫は凄く感じるけど、むしろ隙すらあるような……」

 

「よくお気づきになられましたね。私って構えないんです。

 どちらかと言うと相手を見て回避しながら攻撃をするタイプなので、攻撃をすることを重視しているわけでは無いんです。

 かと言って守りに入っているわけでも無いんですけど。

 相手の攻撃が初見だとあらゆるパターンに対応する必要があるんで、私としては型に嵌めた動きをしないようにしています」


「あ、そう……とにかく凄いのね」


 もはや何を言っているのかすら分からなかった……。


 ただ何となく分かったことは、考え方が自由フリーダムそうな建山さんに相応しそうな戦術だということぐらいだ。


「建山さんのような高次元の話は虻輝様にはまだ早過ぎるでしょうな。

ともかく、受け身の体勢を取ることが大事です。

 しばらくは攻撃どころでは無いと思いますので危険を感じたらすぐに受け身の体勢を取ることが大事です」


「確かに、今の僕はとても戦える立場では無いからな……」


「まずは回避、次に受け身――ゆくゆくは戦力の1人として活躍して欲しいですがな」


「安心してくれ、既にVR空間やゲームの世界なら英雄だよ。誰もが僕のプレイングを待ち望んでいるんだ」


「おっしゃっていて虚しくは無いですか?」


 爺が静かな声色ながらも鋭く追及してきた……。


「……良いのさ。どこかで活躍できる場所があるのなら」


 勿論かなり虚しくはあった……。この話題になる度にズシンと暗い気持ちになる。


「そうですよ。どんなにしょうも無いことだって世界一になることは難しいですからね。

 虻輝さんの動きはどう見ても名人業ですよ」


 建山さんはニコニコとそんなことを言うが、むしろ“しょうも無いこと”と言われているようで僕のメンタルは抉られる……。


「いつも思うんだけど。建山さんは僕を擁護したいのか貶したいのか分からないね……」


「えぇ~そんなぁ~。いつも大絶賛しているつもりですよぉ~」


 相変わらず極めてマイペースな感じだ。

 しかし、この無害そうな感じが相手の油断を誘い、情報を引き出させているのだろう。

だからあの特攻局で出世しているんだ。


 気を張ってばかりいたら疲れてしまうが、あんまり緩め過ぎないようにしないと……。


「ともかく、虻輝様にはどういう時にどのような受け身姿勢を取るかについて今から体に覚えていただかないと!」


「ひぃぃぃぃ~!」


「ご安心ください。ここはVR空間ですから虻輝様への身体に受けるダメージは最小限に設定しておきますから!」


 VR空間はホストが絶対的だ。ある意味逃げ出せないのでリアル世界よりタチが悪い……。


「そうじゃありません! こうです!」


 僕が爺に投げ飛ばされた後、大抵は思い通りの形になっていないためすかさず建山さんがスッとんできて強制的に体の体勢を変更させられる。


 もう何回、投げ飛ばされたり蹴り飛ばされたりして宙を舞ったか分からない……。


 逃げ出せないとはいえ、ここがVRで本当に良かった。現実ならばもう骨が何本も折れているだろう(笑)。

 いや、人間の形をしていないかもしれない(笑)。


「しかし、冷静に考えてみれば、こういった基本的な動きはゲームには直接反映できなくても考え方は参考にはなるよな……」


「そう前向きに捉えていただけて嬉しいです。

 では最後に何パターンかをリアル世界で体感していただきましょう」


「えっ! 死ぬ! 死ぬ! やめてくれ!」


 僕の抗議を全く聞き入れてくれる様子は無くあっという間にリアル世界に連れ戻され、マットの敷いてあるところに拉致される。


「では行きますぞ!」


 くそっ! 死にたくない! 複雑骨折もしたくない! そんな思いが先ほどの強制的にやらされた自ら倒れるような受け身の姿勢を作らせた。


「良いじゃないですか! VRとはいえ、ふんだんにやった甲斐がありましたね!」


「まだまだ! これでどうですか!?」


 次に横に飛びながら体を庇った。このようなことを永遠と続けた。思ったよりVR空間でのことを再現することが出来た。


「凄いです! 繰り返してやった甲斐がありましたね!」


 建山さんは拍手する。それにつられて他の皆も拍手をした。


「まぁ、村山さんが本気を出せばそのあとすぐに刀を抜いて輝君の首は吹き飛んでいると思うけどね」


 玲姉が僕を覗き込むようにして見降ろしてくるために胸元が絶妙なところで見えるか見えないかのポジションだ……。


「ぐぅ……」


「虻輝さんはヨチヨチ歩きの赤ちゃんも同然なんですから。そんな厳しいことを言わないであげて下さいよ。」


 何か建山さんに下に見られているような気分があったが、“赤ちゃんをあやしている“気分だったことが判明した……。


「一朝一夕で私のレベルまで来れるとは思えないからある程度は仕方ないわよね……」


「誰も玲姉の位置までこれねぇよ……」

 

「科学技術局の技術を使えば玲子さんの動きをモヤシのような体格で小学生並の身体能力の虻輝さんが再現出来なくは無いと思いますけどね。

 ただし、“廃人”か“身体が分解されているか“のどちらかとは思いますけどね」


「建山さんはホントに言葉選んでくれないかな? 僕のメンタルが崩壊寸前なんだけど……」


 サラッと笑顔で酷いこと言ってくれるよな……。


「え? さっきも申し上げましたけど、私は虻輝さんのことを褒めてるんですよ?」


 最早、建山さんの価値観の基準と言うのが全く分からない……。

 きっとさぞかし親が変わった奴だったんだろうな……。


 こうして、褒められているような貶されているような微妙な状況のままこの日の訓練を終え、お風呂に入ってから布団の中でゲームをしながら爆睡したのだった。

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