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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第20話 玲姉が結局中心

 日本宗教連合からの帰り道に、直接家に帰ることはせずにVIPしか入れないカフェに入った。

 何せ玲姉からの干渉がある以上、家にいては次の世界大会の調整が出来ないからだ。


 毎年クリスマス前に行われるこの大会は9つのゲーム部門の総合得点戦となっており、

 唯一の2日制での上に10大大会で最も権威があると言っていい。


 去年は“データ改竄の負い目”に苛まれ(さいなまれ)始めていて落としてしまっただけあって何としてでも奪還したいタイトルだ……。


 チームのメンバーと通信をしながら今後の作戦を練った。

 特に世界大会で優勝回数が少ないカードゲーム部門に関しては綿密に作戦を練った――ただ、運要素が強いから戦術を考え尽くしても何も出来ずに負けることもあるけどね(笑)。


 どっちかって言うとフルボッコにされていても平静を保つ訓練が必要だ(笑)。





「う~ん! 良い調整が出来た!」


 満足の行くやり取りを仲間とした後に、

 家に帰ると、ちょうど島村さん、正平、カーターの3人組と同じタイミングだった。


「あ、そっちも今帰ったんだ? どうだった?」


「食いながら話そうぜ。とにかくこっちは重労働で腹減ったわ!」


 とカーターが叫んだら腹がギュル~! と鳴ったので僕と正平は大爆笑した!

 この絶妙な間合いをくれるからコイツらといて飽きないよな!


「皆お帰り~。正平君やカーター君のために今日はお刺身を捌いたわ~」


 玲姉が持っていた包丁をクルクルッと回しながら笑顔で話している。

 ここでキレられたら僕の身体がバラバラになるだろうから、何も言わないようにしよう……。


 食卓には色とりどりの刺身の盛り合わせが並んでいた。

 しかし、玲姉の料理の腕前はいつ見ても本格的で、今日の刺身の捌き方は尋常ではない出来栄えだ……。


「うっひょぉ~! 大トロじゃねぇか~! こんなに大量に本マグロあるだなんて流石に虻利家だぜ~!」


 そういやこいつら前回もウチで食べた時は高級寿司を食いまくってたな……。

 一目で質を見抜くだなんて相当好きなんだろう……。僕は見た目じゃサッパリ分からんが(笑)。


 僕も勿体ないからと思って食べていたらお腹が破裂しそうになったっけ……。

(第2部5話、6話)


 食事の終盤に入って僕は箸を止めると、そこまで食べない女子勢からの視線が一気に集まったのが分かった……。


「輝君の方は、可もなく不可もなくと言った感じだったみたいね」


「そうなんだよ。交渉自体は“ゼロ回答”だったんだけど、大王は何かしらヒントを得たみたいで収穫を勝手にしてくれた感じなんだよね」


 何か注目されているようで怖いなと思いながら答えた。 

 寄り道してきたことについて言及されなかったことは幸いだった……。


「いやぁ! 流石虻輝様でした! 言うべきところはバシッとおっしゃっていて、こっちもすっきりしましたぜ!」

 

 景親がまるで自分のことのように語気荒く自慢げに手を広げながら話しているが、お前は何もしていないんだが……。

 いや、何もしてくれなかったから逆に交渉が明後日の方向にもつれずに助かったという面もあるか……。


「輝君はあらゆる面において場数を踏んでいかないといけないと思うからね。例え成果が出なくても破綻しない程度の話し合いというのも必要なことよ。

 知美ちゃんたちはどうかしら?」


 正平とカーターは依然として食べ始めたペースとほとんど変わらず、刺身をムシャムシャと手あたり次第食べていた……。

 

 玲姉はハナからその2人は期待していないようで島村さんに聞いたのだろう……。


「私たちは本日、中本さんのお宅で所蔵されていた本を整理しました。

そこではやはり興味深い本がありました」


 そう言って島村さんは4冊の本をバッグから取り出した。


 “呪い殺す方法”と言った物々しいタイトルが並んでいた。


「なるほど、こういう本を発行していたのか……。

 こんな過激な本がよくもまぁ特攻局の審査を通ったものだ」


 虻利家は本を発行する際にデジタルにせよ紙の本にせよ事実上の検閲を行っている。

 こういった「呪い殺す」と言った本が容易に通過するとは思えない。


 発行した年度も2052年とごく最近のために虻利家の支配体制が確立している。


「恐らくは身内だけに売り出した本なのでしょうな。

 一般的な市場に出回らなければ特攻局や科学技術局の検閲の対象外なのでしょう。

 むしろ日本宗教連合と関係が浅い人間が告発しなかったことを褒めるべきだと思います。

 流石に通報があれば身内内でも発刊停止と言う事になりますが、私が調べた範囲内ではそう言った告発はありません」


「内部での統治がしっかりしているという事か……」


「獄門会もそうですが、虻利家に対して未だに抵抗している勢力と言うのは生半可な精神で対抗しているわけでは無いという事でしょうな。

 いつかは屈することになるとは思うのですが」


 玲姉は為継の言葉に対してピクリと頬が動いた。

 面従腹背なあり方を続けているからな……。

 

 為継もよく玲姉を目の前に堂々とそんな発言が出来るよな……。


「ただ勘違いしないでいただきたいのは、本日伺った中本百合さんは“心”について色々と調べた結果“呪い”などに辿り着いただけで危険思想の持ち主では無いという事です」


 島村さんは建山さんを見据えながらそう言った。この中で一番“危険”だと判断したのだろう。

 また、玲姉と為継が険悪なムードになりかけていたのを遮る効果もあった。


「ええ。承知していますよ。色々データを私も集めていますんで」


 建山さんは静かに答えた。それはそれで怖いけどな……。


「来週は中本さんが所持されている骨董品に関して処分をしてもらいたいという事だったのですが、少し厄介なことになりそうなんです」


「何がどう厄介になりそうなの?」


 僕もその流れに乗ろうと思った。


「どうやら単に棄てられそうにないものばかりなんですよ。

 いわゆる“怨念“みたいなものが籠っていそうなそんな品々でした。

 人形と目が合った時は心の中を覗かれたようなそんな気分でしたよ……。

 必ずお祓いが必要ですよ」


 何か精神までは鋼で出来ていそうな島村さんがそう言うのであればよっぽどの品々なんだろう……。


「私は迷信など微塵も信じていないので単にゴミ収集車に出せばいいだけだと思いますがな」


 合理的な思考の権化である為継は実にあっさりとそう言い放った。


 しかし、為継は玲姉からギロリと睨まれた。

 僕が睨まれたわけじゃないのに背筋が凍った……。


「……私に決裁権はありませんので虻輝様や玲子殿に判断を任せようと思いますが」


 と、為継は静かにそう加えた。


「私はお祓いをちゃんと受けた方が良いと思うわよ。

 “念”みたいなものが襲い掛かって毎日眠れなくなるかもしれないからね」


「やっぱりそうですよね……」


「そうなるとお祓いをしてくれる神社についても目星をつけておく必要があるという事か……」


「局長からお聞きしたところによると、日本宗教連合との交渉は完全に閉ざされているわけでは無く、他の所属している所の”切り崩し“も可能であるとか。

 虻輝様に絶大な期待をかけているともおっしゃっていましたな」


「ああ、うん。そうなんだよ……。また僕なのかってウンザリしているところなんだけど……」


「今の虻輝様なら問題なく交渉できると思いますがな。局長も絶賛していましたし」


「あんまり期待しないで欲しいんだけど……」


 大王の尺度は本当に謎だからな……。


「ですが、局長の方針に反することはされない方が良いでしょうな。

 さもなければ“実験台”にされるだけです。

 私も極力虻輝様の側に立ちたいですが、どれだけ守れるかは分かりません」


「怖すぎるだろ……」


 かねてから懸念していたことではあるが、為継の口から聞かされると恐怖感が違う……。


「ふぅん。皆、大変そうなんだね~」


「まどかぁ、お前はそんな呑気なことを言っていられる立場かぁ? ちゃんと次の4月で高校3年生になれるのかぁ?」


 夕食から解散間際にまどかが小癪なことを言ってきたので頬っぺたを引っ張ってやった! 相変わらずモチモチでよく伸びる! そして何より触り心地が最高だ!


「むぅ! 同じ成績不良のお兄ちゃんにそんなこと言われる筋合いはないもん!」


 まどかが僕の手から逃れながら今度は僕の頬っぺた目がけて手が伸びて来る。

 

 コイツ! 僕の頬っぺたを触ろうとしてやがる! 何としてでも防止しなくては!


 必死になってまどかの手をかいくぐりながら逆にまどかの頬っぺたを引っ張ってやる。

 腕力はまどかが上だが、身長差がある分こちらが有利だ。


「あぁ~! そんな取っ組み合いの喧嘩してないで、今日の訓練をするわよ!」

 

 玲姉に強引にまどかとを引き剥がされる。


「特に輝君は、任務が終わったのなら家に直帰するっ! 大王さんの一件以外にも大学のレポートとかあるでしょっ!」


「は、はいっ!」


 結局のところ指摘されてしまった……。


 それにしても、何でいつも最後にはまどかとこういうオチになることが多いんだ……。


 無意味に疲れて訓練にも支障が出そうだ……。

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