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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第19話 生前整理

 虻輝さん達が日本宗教連合本部に交渉に行っている間、私は吉岡さんと佐藤さんのボランティアの手伝いとして中本さんのお宅に向かう事にしました。

 大学が終わってから現地集合と言う事で、私は電車やバスを乗り継いでやってきました。


「改めまして島村知美です。本日はよろしくお願いします」


 私は2人に向かって頭を下げました。


「あ、いや……別に初対面でも無いんだし、そんなにかしこまらなくても……」


 吉岡さんは、頬をかきながら恐縮していました。


「……それなら言っておきますけど、セクハラはやめてくださいね。弓はいつでも出せますからね?」


「ヒィッ!」


 私が電気の弓を出すと2人は後ずさりしました。


 正直言ってこの2人は私とはタイプが全く違って苦手なのです。


でも、虻輝さんの高校時代からの親友ですし、私から見たら大学の先輩でもありますからね……。


 1センチでも遠く離れたいところなんですけど、残念なことにあんまり無碍にも出来ないんですよね……。


 亡くなったお母さんからの教えで、苦手だなと思う相手にはとにかく丁寧な言葉遣いをしておけば大丈夫だと言われていましたからね……。


「介護って結構重労働だけど、島村さんは重いもの運ばなくても良いよ。女の子なんだしね」


「ご心配は無用です。普通の男性の方よりは力がある方だと思いますよ。握力90は越えてます。

 最近は測定して無いからもっと出せるかもしれませんけど」


「そ、そりゃ凄い……」


 こんなこと虻輝さんに言ったら引かれそうですけど、この人たちにはいくら引かれても痛くも痒くもないですからね。


「ですから気にしないでください。力仕事でも戦力として考えてもらって構いません」


「玲子さんやまどかちゃんもそうだけど、中将の周りの女子はちょっと異常な子が多いな……」


「私にとってはこれが普通ですので、異常とか言われても困ります。

 むしろこれは最近の男性の方々がテクノロジーに頼り切って弛んでいるのではありませんか?」


「は、ははは……辛辣だね……」


「と言う事で、女だから○○とかおっしゃらなくて結構ですので。基本的には何でも自分で出来ますから」


 “手伝う”とか称してセクハラしてくることも多いですからね。自然と何でもできるようになりました。

 出来ないことはあっさりと諦めることにしています。


 これだけ言っておけば私に近づこうという気持ちは無くなっていくことでしょう。


「中本さーん! 本日も来ましたー! 万屋の吉岡でーす!」


 インターフォンでそんなに声を張り上げなくても聞こえると思うんですけど……。


「初めまして、島村知美です。お二人の同じ大学の後輩です。よろしくお願いします」


「はぁい。私は中本百合。よろしくね~。あら、可愛い女の子も来て嬉しいわ~」


 今は普通の“優しそうなお婆ちゃん”と言う感じがしますけど、昔はただものでは無かったような気がしますね……。


 何せ今回は介護を手伝う事は表向きの理由で何かしら呪術的なモノがないか調査するのが目的ですからね。


 しっかりと役割を全うしないと。


「今日は人手も多いことだし、私の介護以外の仕事を手伝ってもらおうかね~」


「具体的にはどうしたら良いんでしょうか?」


「私の所蔵品を捨てて欲しいんだよ。いわゆる“断捨離”と呼ばれているものだねぇ」


 そう言って部屋にある手すりに摑まりながら案内してくださいました。

 

 何でもご年齢は95歳だとか。

 この年齢になればご自分で動けるだけでも凄いと思います……。

 

 これまで吉岡さん達は掃除や庭の草取りと言った仕事をされていたらしく、一般的に想像される“介護”とは違った感じだったようです。


「この部屋のを全部捨てて欲しいんだ~」


 10畳ぐらいある部屋全体が本で敷き詰められており、まるで反アンドロイド団体のEAIの資料室のようでした。


「あの……これを全て捨てても大丈夫なんですか?」


「もう使わないからねぇ……。何か欲しいものがあったのなら自由にもっていってもらって構わないよ~」


「ひゃー! なんて多いんだ! これを全部箱詰めするだけでも何日もかかりそうだぜ!」


「勿体ないと思ってずっと捨てきれずにいたからねぇ……。

 ただ、子供たちや孫たちに処分する苦労って言うのもあるだろう?

 だから生前整理をしておこうと思ってねぇ……」


「“勿体ない“と思って結構貯めてしまうという気持ちも分かります」


 私は虻成を殺しに行くと思った時にほとんど全て捨ててきてしまいましたけどね……。


 私も死んだ後に荷物を整理する方たちが苦労するだろうと思いましたから……。


 昔はどちらかと言うと何も捨てられずにゴミが積み上がってお母さんから怒られたものでした……。


「ということで、よろしく頼みましたよ。何か困ったことが合ったり聞きたいことがあったら私の部屋まで来て頂戴ね」


 そう言って百合さんは部屋を去っていきました。


「取り敢えずは、この部屋を3分割して手分けをして作業しましょう」


 あまり同じ空気も吸いたくないと思いましたのでそう提案しました。

 換気もしっかりとしておきましょう……。


 10冊~15冊ぐらい持って一気に箱に詰めていくといったことを繰り返しました。


 その中で目を引いたのはやはり「呪い」や「まじない」と言った項目が多いことでした。


 やはり、私が思った通り何かしらこの中本家では研究をしていたことが伺えます……。


「これは……」


 そして私は箱の中に詰めていく資料の中からとんでもない本を見つけてしまいました……。


 その名も「相手を1時間惚れさせる術」、


 こ、これがあれば虻輝さんも私に魅了されて関係を――。


「だ、駄目ですよ。こんなことで一時的に好きになってもらっても本質的には意味が無いことですから……」


 ブンッ! ブンッ! と頭を振って、その魔力から頭を解放させました。


「ですが、一時的とはいえ他人の心を操るだなんてそんな恐ろしいことが出来てしまう技術が確立されているのはとんでもないことですね……」


 その後も私は進むペースを維持しながらも目を光らせながら本を詰めていきました。


「あっ! この本は……!」


 “相手を呪い殺す方法”と言った書物が出てきました。しかも発刊元は日本宗教連合……。

 これに関係しそうな本が近くにあったので何冊か確保しておきましょう……。


 休憩でお菓子をいただいている時に、先ほどの本について百合さんに聞いてみることにしました。


「あの……百合さんは一体何のお仕事を若い頃にされていたんですか?

 結構変わった書物が多かったのですが」


 “呪い殺す方法“に驚きましたとは言えません。まるで私がそれを狙っているようなので……。


「私はね。“心“について研究していたんだよ」


「心ですか?」


「人間はどうして気持ちが動かされることがあるのか。

どういう時に相手が死ぬほど嫌悪したり、愛したりしてくれるのかそれをずっと考え続けていたのさ。

 ただ、私の集めていた本では本質的なことは分からなかったがね。

 趣味の一環としてやっていたに過ぎないわね」


「な、なるほど……」


「知美ちゃんは興味があるようだけども、あんまり期待し過ぎない方がいいわよ~」


 百合さんは庭先を見つめていますが、恐らくはこれまでの人生を邂逅しているのでしょう……。





 手際よく行ったのが幸いしたのか、18時ごろには一部屋にビッシリとあった本を段ボールに詰める作業を終えることが出来ました。

 これなら夕ご飯には何とか間に合いそうです。


「3人ともありがとう~。本当に助かったわ~。

 来週は、この部屋を頼もうかねぇ~。ちょっと“呪物”とも呼ばれるイワク付きの物が多いから燃やそうと思うのだけども」


 禍々しい雰囲気を放つ品々が部屋にビッシリと並んでいました。特に頭が取れかけた人形と目が合った時は血の気が引きました……。


「これだけの呪物はどこから集められたのですか?」


「気が付けば集まったんだよ。私の下に来たいって言っていたような気がしたからねぇ……」

 百合さんは言葉は無く、ただ単ににっこりと笑われました……。


 その笑顔は総毛立つようなそんなゾッとするようなモノでした……。


「いやぁ……ちょっと俺たちは遠慮したいんですけど……」


 女性の方が腹が決まっている状況だから問題なのだと思いますけどね……。

 虻輝さんもゲームをされている時以外は頼りないですし……。


「神社の方にお祓いをされてもらってはいかがでしょうか?

 こういった骨董品は思念が染みついていて


「そうねぇ、お祓い先をお願いできるかしら~お金は私が払うから気にしなくていいわよ~」

 

「はい、お任せください」


 私は吉岡さんと佐藤さんに目配せしました。2人は居心地が悪そうな表情をしています……。


「あの……これらの本いただいてもよろしいでしょうか?」


 私は5冊ほど選んだ本を百合さんに見せながら伺いました。


「ええ~構わないわよ~。あなたのような可愛い子に貰って頂いて本たちも喜んでいるわ~」


 主に呪いに関する書物ばかり選びましたが、

 ついでに「相手を1時間惚れさせる術」も“参考までに”頂いていくことにしました。


 これだけはあまり他の方には見られたくないですね……。

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