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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第18話 サドがサドを語る

 300段の階段をやっとの思いで降りて飛行自動車に乗り込むと大王との本格的な通話が始まった。


 足がパンパンで疲れ切った身にこの通話は堪える……。


状況としては全く前進していないが、やれるだけのことはやった筈だ……。


 正直言って何を言っても“無駄”と言う感じがあったためにもうちょっとうまくやったとしてもいい答えが返ってきたとは思えない気がしたが、

 後は大王がどういう判断をするかどうかだ……。


「虻輝様お疲れ様です。思った以上に適切に述べていただけました。感謝いたします」


「え、ほとんど話になっていないと言った感じだったのに。僕の評価ってそんなにも低いってこと……?」


「本祭神社の神主はあらゆる賢者も逃げ出すほどのかなりの曲者だと聞いていましたので、最悪は交渉決裂して何も得られないと思っていました。その際には即座に虻輝様を実験台にするつもりでしたがな」

 

「ええっ!?」


 まともに話せてよかった……。緊張して何の言葉も出ないんじゃないかってちょっと心配もしていた……。


「ははは! それは冗談ですぞ!」


 大王の“自称冗談”は全く冗談には聞こえない……。


「しかし、何の成果も得ることが出来なかったのにどうしてそんなに評価が高いんだ」


 むしろ、声の調子からすると機嫌が良いまである。僕が聞き間違えているのか、それとも大王の頭のネジが吹き飛んでしまったのかと思ったほどだ。


「いえ、成果はありますぞ。日本宗教連合が一枚岩では無いという事が分かったことです」


「え? そんなこと言ってたか?」


「斎宮神主本人は拒絶の姿勢を示すものの会議ではどうなるか分からないという話でした。

 つまり、日本宗教連合内部にも様々な派閥があり、我々の力を持ってすればそれらの切り崩しが可能であるという事です」


「確かにそう言う見方もできるな……」


 もうとにかく必死だったのでそんなことは考えていられなかった……。


 世の中には信念のために金では動かない相手がいる。恐らくは斎宮神主はそのタイプだ。


 しかし、資金難で運営に行き詰った神社であれば大王のチラつかせるマネーパワーの前に屈する可能性も高かった。


「また、私もモニターしていましたが、あの様子からすると間違いなく本祭神社が関わっていますな。忌々しいこの痣を使って一体何をしようとしているのか……」


 目的が見えないだけに不気味でたまらないし、大王の性格からしたら屈辱だろうな……。


「すぐさま何かが起きるわけでは無いところが何とも言えないよね……」


「仮に呪い殺す能力があるとするのなら私でしたら真っ先に殺すことを選択します。

 それを敢えてしない選択をしているのか、それとも出来ないのかまでは分かりませんが……」


「そ、そう……」


 大王は敵を消すと判断した際のスピードが尋常では無いからな……。

 対立勢力にかまけている時間が無いんだろうけど……。


「もしかしたら、ジワジワと未知の恐怖を植え付けていくことが目的なのかもしれません。

 徐々に苦悶の表情や困っている姿を見るのに愉しみを感じるのでしょう。

 そう言ったサド的な気質を会話から感じました」


 大王も十分サドだと思うぞ。一発でしとめちゃうから違うとか意味不明な理論を言いそうだけど……。


「話は戻りますが、最後に交渉の窓口を閉ざさないという一言をいただけただけでも十分です。

 他の団体に対して交渉を禁じられたわけではありませんし、大収穫ですぞ」


 僕は何とも解せない結果な気がしたのだが判断をする側の大王が満足してくれるのが一番だ。


「この収穫はどうやって活かされるの?」


「潜入捜査員にどのような考えの神社があるか、そしてどの神社が話を聞いてくれそうなのかを調査させます。

 調査が終わり次第虻輝様には次の神社に伺って欲しいのです」


「わ、分かった……。しかし僕なんかで本当に大丈夫なのか? 人選ミスじゃないのか? 次回からは玲姉あたりに頼んだ方が良いような……」


 一刻も早く解放されたい……今日だって正直言って肝が冷えた……。


 まどかに言ってることが冗談じゃなくなって、ホントに寿命がある日無くなって、突然死しそう……。


「柊玲子にはあまり顔が広くなって欲しくないわけです。

思わぬ連携で我々の足元が救われる危険性がありますからな。彼女こそ何を考えているのかもっとも分からない存在です」


 大王が玲姉を警戒しているのは知っていたが、それを考慮しても交渉事なら絶対的に玲姉とかの方が上手いだろう。


「でも、それにしたって科学技術局で交渉できる人材は他にいないの?」


「人脈を繋ぐ要因や潜入捜査をする者はいますが、具体的に交渉をしてくれる者は不足しています。虻輝様はしかめっ面をしていなければ何か親近感を覚えるような警戒心を無くさせるような力を持っているような気がします。そのお力をお貸しいただきたいのです」


 僕のように初めての相手と会話をして心臓バクバクさせているような小心者に対してどうして大王はそこまで期待しているのかは謎だ……。


「あ、そうなの……。そんな力が本当にあるのなら良いのだけど……」


「虻輝様はそうそう怒られない方ですし、そんなに偉そうにしていないところも良いのかもしれませんな。と言うわけで期待していますぞ」


「ああ、うん。分かった……。また連絡お願い……」


 こうして、大王の謎の感覚に助けられて今日については切り抜けることが出来た……。


 ふぅ~っと大きく息をついた。


「あの大王から評価されたみてぇだから、良かったっすね~」


 運転席で飛行自動車を操縦している景親が呑気そうな声でそう言った。


 景親は内容自体について聞いていないと思うのだが、僕がホッとしたのを見て分かったのだろう。


「なんか何も成し遂げられなかった気がして、凄い不甲斐なかったけど僕の評価が低いのか大王の期待以上の交渉だったらしいよ(笑)」


「いや、あんなふざけた野郎はあれぐらいガツンと言ってやんねぇとダメですって!」

 

「そうなのかもな……」


 まぁ、内容はどうあれ結果としては良かったんだろう。

 

 一瞬怯んで声が出ないのではないかと思った瞬間があったのを乗り切ったのが良かった。

 挨拶の品を出す前後が最も身体がこわばっていたぐらいだ……。


「ちょっと笑ったのが大王があの神主がサドだからジワジワと苦しませる作戦だと言っていたことだった。

 大王自身もサドだと思うんだけどな(笑)」


「ある意味、同族嫌悪みてぇなことかもしれませんぜ。

 ほら、玲子さんと大王だって仲が悪いじゃねぇですかい?」


「確かに玲姉もドが何個も付くほどのSだよな……。

 SとSは磁石が反発し合って合わないのかもな(笑)」


「はっはっはっ! そうかもしんねぇですな! この話絶対聞かれたくねぇ!」


 2人で腹が捻じれるぐらい大爆笑した。


 完全に笑い話になったので、これまで肩に入り過ぎた力が抜けていくのが分かった。


 ただ、大王が僕に自分の身に関する重大な交渉をさせるのには何か意図があるはず……。


 一体何だろう……。ゲームをしながら考える――アッ! と気づいた瞬間ミスって負けかけた。何とか勝ったのは奇跡と言える。


 もしかすると“失敗するの待ち“で僕を始末したいのが本音なのかもしれない! と思った。


 もはや僕は賞味期限切れで「処分対象」なのかもしれない。

若しくは僕がミスって、僕が庇っている人たちを実験材料にするためなのかも……。


 いずれにせよ大王と関わっている間は常に油断がならないことだけは確かだ……。


 しかし問題はその大王と血縁関係でどちらかが死なない限りは一生切っても切り離せない関係であるという事だ……。


 血縁ほどこの世で縛り付けるものはないのではないかと思う。どうしたって覆すことが出来ないまるで呪いのようなモノなのだ……。


 僕はその「血族の恩恵」も十分に受けているからそんなに文句を言う事も出来ないんだと思うけど……。

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