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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第17話 緊張感のある対談

「このようなところに遠路はるばるおいで下さるとは。虻輝様は何か勘違いされているのではありませんか? ここでゲームの世界大会は行われていませんよ? ゲームをされたいのであれば東京に戻られては?」


 僕が何と返答しようか考えているとさらに追い打ちをかけるようにそのような声が飛んできた。


 開幕から連続で皮肉を飛ばされて思わず委縮してしまいそうになったが、僕の肩に命を懸けてくれている皆のためにやるしかない!


 これまで玲姉や島村さんや烏丸から辛辣な皮肉を言われ続けてきたんだ。ここで受け流せなくてどうする! 口よ開け! 声を出せ! 役割を全うしろ!


「本日は科学技術局長であり、僕の親戚筋でもあります大王成輝の代理として参りました。こちら大王から挨拶の品です。どうぞお納めください」


 僕は頭を下げたまま玲姉が取り寄せた品を差し出した。


 確かこの中身には、東京駅にある創設150年の名店が1日あたりの販売個数限定の和菓子が入っていたはずだ――僕も機会があれば食べて見たかった奴だ(笑)。


「ふむ……」


 しかしそんな物には目もくれずこちらを見下ろすような恰好で観察している。

 

 いらないのなら返してくれ(笑)――と言いたくなったのを堪えた……。


「虻輝様、ここからは私がモニターして話す内容を表示させますので、それに沿って会話してください」


 大王がコスモニューロンを使って介在してきた……。“分かった”と軽く返事を出した。


 尚更緊張するわけなのだが……。


「本日お伺いしましたのは、大王が謎の症状に悩まされているんです。

 奇妙な痣がのようなものができて無性に痒いのだとか」


 大王から僕が話すべきセリフが一気に出てきたのでそれを把握しながら話した。

 この際“カンニング“していることを悟られないことが大事だ……。


「現状においてはそれぐらいしか影響はないのですが将来的にはどうなるのか分からない状況や、科学的に解明できないことに不満を持っているようなのです。

 現代医療をもってしても全くこの痣が改善されないために、もしかすれば何かお祓いをすれば解決するかもしれないと思って伺ったのですが……」


 早口にならないようになるべくゆっくり話すことに努めた。


 また、斎宮神主から上目遣いで目線を外さないことが大事になってくる。


「ほう、そうですか。どんなものかもっと詳しく教えて下さい」


 それと同時に僕は大王の痣を印刷した写真を渡した。斎宮神主が無碍にして何もしてくれないわけでは無さそうなので少しほっとした。


「なるほど……これは確かに既存の技術ではなかなか難しいでしょうな」


 写真を見た際に斎宮神主がニヤリと笑ったことを僕は見逃さなかった。


「と言う事は、日本宗教連合や本祭神社さんのお力を借りることが出来れば解決できるという事ですか?」


 何かしら分かっているのだろう。もしかするとこの神社が何かしら関係している可能性もある。


「虻輝様、あなたたちが我々にしてきた仕打ちを忘れたとは言わせません」


「ええ、分かっております。僕たちとしても交渉材料を検討することにしています。

 日本宗教連合に所属している者の信用スコアの自然低下の軽減も可能とのことです」

 

 少し表情が緩んだのが分かった。


「ふぅむ……ウチの組織がどれぐらいの儀式を使うかにもよりますね。

 如何せんお金がかかる場合もありますから、

 霊能力者が呪いを打ち消すのにもリスクが伴う場合もありますからね」


「そうなんですか」


 何か全てを分かっているといったそんな不気味な雰囲気を感じた……。


「確かにこのタイプですと最初は何の問題が無くとも、徐々に侵食していく――そう言った可能性も高そうです」


 大王はそれを聞いてか500億までならすぐに用意できるとレスポンスが飛んで来た。


 僕の総資産を軽く超える金額だ。流石大王、簡単に動かせる金の桁が違い過ぎる……。


 成果主義の虻利家では成果さえ出してくれれば自由裁量の金がいくらでも出てくる。

 大王の自由に使える金は兆単位かそれ以上だろう。


「大王によりますと、いくばくかお金に関しても出せるとのことです――10億ほどの依頼料でいかがでしょうか?」


 こういった交渉の時は出せる金額の全体からしてかなり低めに言っておくのが筋だろう。

 それでも普通なら10億だってとんでもない大金だ。


「金の問題ではありませんな。このことは日本宗教連合の会議で信用スコアや10億と言う金で頷くものがいるかどうか次第です」


「あなたの一存では決めることが出来ないのですか?」


 代表なのに? と言う言葉は飲み込んだが、そう言う雰囲気は出してしまっていることだろう……。


「その発言は意趣返しですかな? それならハッキリと申し上げましょう。

 私の判断、当神社の見解としては、多少のお金や条件ではお受けできない――とお返事させていただきます」


 目の前が真っ暗になるのを感じた……。


 ただ、ここで引き下がってはいけない。本当に命が危ないのだ……。

 僕は息を大きく吸い込んだ。


「そうでしたか……。ですが、交渉の窓口と言うのは閉ざされた訳では無いのですよね?

 ご存じの通り、日本宗教連合は政府のお墨付きの下で成り立っています。

 そして政府の首根っこは虻利家が握っています。

 総理大臣も最高裁判所長官も虻利家の意向で決まるのです。逆らった者はこれまで過去の不祥事を再燃させて更迭、突然死になった者もいる――三権に圧力をかければ一発で終わりですよ?」


 ここは敵地だ。こんなに強気の発言をしてしまう事にはかなりリスクがある。


 景親はかなり屈強ではあるが、多勢に無勢でやられてしまうだろう。


 しかし、ここでおめおめと引き下がって大王の実験台になることの方が御免だった。踏ん張りどころなのだ。


 僕がその発言をすると流石に斎宮神主の余裕の表情が消えた。


「……取り敢えずのところ今日はお引き取りを。ただし、交渉の窓口は閉ざさないことだけはお約束しましょう」

 

「はい……。では、またお会いできるのを楽しみにしております」


 そう言って退室した。


 景親は周りを警戒しながらピリピリした雰囲気をしている。


 話し合いの中で何も口を挟んでこなかったのは幸いだった。

 流石に、ここが敵地だという判断は出来ているのだろう。


「お疲れさまでした。何か色々と大変そうですね」


 大きな施設から出ると案内してくれた紋付き袴の青年がそう言ってきた。


「いやぁ、そうなんですよ。僕は所詮“パシリ”として扱われているだけでしてね。

 また機会があればもっとこの施設を案内してくださいね」


「ええ。私個人としては虻利家についてあまりいい印象は持っていなかったのですが、

 斎宮様にあれだけ言えるというのは凄いなと思いましたね」


「言えることは言わないと僕の身も危ないですからね……」


「なるほど。どこでも階級社会ということですか……」


 最後に春岡と名乗り連絡先を交換した。こういう下っ端であろうと仲良くなっておくことは地味に重要だ。恐らくは大王もこういう人間関係を使って今日をセッティングしたのだろうな……。


「あ……まだ、これがあった……」


 300段の階段を今度は降りなくてはいけないのを目の当たりにして眩暈がした。


 今度は地獄への階段にすら見えたのだった。

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