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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第13話 隠れ訓練の成果

夕食の後にはデザートを食べながら恒例になりつつある懇談を行っています。


 夕食を食べている間は私語を禁じるように玲子さんに言われていますからとても静かに皆さん食べています……。


 でもそこまで緊迫している感じはなく純粋に料理を愉しんでいる感じがあるので、この食事の時間は結構好きなんですよね。


「いやぁ、今日は大変だったよ。何てったってまた命を狙われたんだからね……」


「虻輝さん。私がお誘いしたのに危険な目に遭わせてしまい本当に申し訳ありませんでした」

 

「えっ!? 知美ちゃんいつの間にお兄ちゃんの子と名前で呼ぶようにしたの!?」


 あっ! しまったと思いました……でも、2人きりの時だけ名前で呼ぶというのも何かおかしいような気がしますのでこのように皆さんに分かってしまう事はやむを得ないのかもしれません。


 それに玲子さんには私の思考なんて筒抜けでしょうしね……。


「えっと、今日の大学の放課後に……」


「あぁっ!? デートしてたんだ!」


「い、いえそんなつもりは……」


 実際のところはデートするつもりはあったんですけどね……。


「島村さんには、かつての訓練場を見せてもらっただけだよ。地図では分かりにくい場所で、こういうところで隠れて集まっていたんだという事が分かってとても良かったよ。

 良い経験だったから島村さんも気にしないで」


 “島村さん”という言い方に何か引っかかる気がしたのは私の気持ちの問題なのでしょうかね……。


「えぇ~! それはやっぱりデートなんじゃ!」


 まどかちゃんが私と虻輝さんを見ながらブー! ブー! 言い始めました……。

 

 でも、抜け駆けしたのは事実ですから仕方ないですよね……。


「まぁ、良いじゃない呼び方ぐらいはさ。その場の自動狙撃によって命を狙われた以外は島村さんとは何も無かったんだし」


「え~! でも呼び方が変わったじゃん!」


「まどか。それならお前の呼び名だって名前だろうが」


「いや、あたしは名字が“虻利”だからね……? 誰を呼んだか分からないじゃん?」


「そりゃそうだけど、どうしてそこに拘るのかが分からんのだよ……」


「まぁ、でもお兄ちゃんが知美ちゃんを名前で呼んでいないみたいだからまだいいか……」


「お前はホントによく分からんな~。呼び方ぐらい何だって良いだろうが~」


「あたしはお兄ちゃんのアタマの方が異常だと思うけどっ!」


 私たちは虻輝さんとまどかちゃんのやり取りを横目に訓練場に向かっています。


 私はあの訓練場は結構雰囲気があって好きなんですよね。玲子さんが手加減をしているのに崩れそうになる時があるのが少し怖いですけど……。


 しかしこうなると虻輝さんが鈍感過ぎることは良いことなのか悪いことなのかよく分かりませんね……。助かっている面もありますけど、進展しない面もありますから……。


 未だに女性の方が男性に合わせて名字が変わることが多いので、「名前で呼ぶ」という事の意味は男性と比べてとても大きいんですよ。距離がとても縮まったことを意味しますからね……。


「話を戻すけど、知美ちゃんがどうやってそれだけの訓練を受けてきたのか気になるところではあったよね……。

 今はお姉ちゃんから色々と教えてもらってるけど、それでも基礎が出来ている感じがあるからね~」


「いえいえ、そんなこと無いと思います。本当に恐縮です」


「秘密の訓練場で頑張ってたんなら何となく納得だね~」


「ええ。見つからないように短時間でノルマをこなさなくてはいけなかったので結構緊迫感がありましたね」


「意外と訓練は時間ではなく“密度”が大事になってくるわよね。

 折角だから、最近の特訓の成果を輝君に見てもらったらどうかしら?

 輝君は最近VR空間での訓練ばかりだからね」


「えっ……!」


 顔が赤くなるのが分かりました。流石に好きになった人を前に技を披露するのは緊張しますね……。


 これまでどんな大会でも緊張しなかったんですけどね……。

 どうしても虻輝さんの前では顔が赤くなっちゃうんですよね……。


「最近足の状態も良くなってきたと思うのよね。ベストな動きが出来るのではないかしら? 輝君! 的を4つ用意して!」


「は、はい! 島村さん撃ち殺さないでよね」


「そんなことしませんよ。安心して下さい」


 私はもはや的1つを真ん中に命中させることぐらいは当たり前なので、4つを中央に当てることが目標なのです。


「では――」


 ここは周りに誰もいない静かな森林――そう思う事にしました。


 川のせせらぎの音や鳥のさえずり、木々がサワサワと心地よく聞こえてくるような気すらしました。


 そんな静かな気持ちで弓を引き、


「――!」


 一気に解き放ちました!


 4本の矢はスーッとそれぞれの的に直進していき――。


 パンッ! と乾いた音を立てて突き刺さりました。


 私は結果を見て足元を見直しました。


「……惜しいですね。中々薬指と小指をコントロールするの大変なんですよね」


 3つは中央に当たりましたが、残り1つは右端の方にギリギリ当たっている感じでした。


 皆さん恐らくは儀礼的でしょうけど、大きな音で拍手をして下さいました。


「それじゃ、次は電撃の弓を作って狙撃してくれない? ここの電子を強めておいたから」


「分かりました」


 私は目を瞑り、指から鋭利な弓が生えてくるようなイメージを描きました。


 そして、また先ほどのような大自然のせせらぎの中にいるような落ち着いたイメージを持ってから的に向かいました。


「はっ!」


 バリバリバリッ! という音を立てながら 2つは先ほどの弓の当たった個所と全く同じだったために当たっていた弓が黒焦げになりました。


「おおおお!!!!」


 先ほどよりも大きな拍手が巻き起こり、“こりゃ凄い“と次々と声が上がりました。

 お世辞だとしてもちょっと照れますね……。


「大したこと無いのに恐縮です」


 私は頭を下げながらそう言いました。


「いや、でもとんでもないことだと思うよ……。まず普通の人は1つ中央に当てるのが競技なわけでしょ? 競っている次元が違うよね」


 頭を上げると虻輝さんは目を丸くしています。

 特に虻輝さんに褒められると嬉しさが違いますね。顔が真っ赤になっていないか心配です……。


「で、でも――正直これではお話にならないんですよ。

 実践では相手はよほどのことが無い限りは静止してくれませんし、接近戦に持ち込まれたら弓を引くポーズを取っている暇も無く、対処できませんからね

 ただの競技パフォーマンスに過ぎないんです……」


 玲子さんやまどかちゃんは実戦練習をしているのに対して、私は“競技レベル”にとどまっている感じが否めませんからね……。


「それは最終目標で良いのよ。取り敢えずは今ある実力を伸ばすことの方が大事だからね。

 最近足の状態が本当に良くなって踏ん張りがしっかりしてきているからね」


「玲子さんのご指導の賜物です」


「私は弓道について指導は何も出来てないわよ。知美ちゃんにやったのは、足の治療についてと、精神的な問題と体の柔軟性についてだけよ」


「足の神経が完全に断絶していたので玲子さんがいなかったら二度と復帰できなかったと思います。

 今回も100点満点では無かったですけど、実力は出せたので少しでも恩返しできたような気がして良かったです」


「恩返しなんて思わなくて良いのよ。私もできることをやっただけに過ぎないからね」


 玲子さんはその精神性が素晴らしいですからね……。


 玲子さんとの訓練はとにかく「精神をブレさせないこと」に尽きました。

 どんな状況でも冷静で、自分の力を100%発揮することが大事だと切々と語られていました。


 後は怪我をしないように体の柔軟性を指導していただきました。

私は身体が柔らかい方だと思っていたのですが、玲子さんと比べたらガチガチですね……。


 玲子さんは軟体動物なのかもしれませんけど……。


「実践的なことはおいおいやっていきましょう? 焦らずステップを積んでいくことが大事なんだから」


「はい。そうします」


 現状、実戦に向けてはどうしたら良いのか全く分からないので玲子さんに従うしかありません。


 心の底から尊敬していますから多少の厳しい要求や訓練も乗り越えられますけどね。


「では、虻輝さん。今日もVR空間での訓練行きましょうか」


 虻輝さんは建山さんに手を握られながらVR空間に飛んでいきやすい部屋に連れていかれます。


 建山さんの意図することにはなっていなさそうですけど、それでも自然に触れ合えるだけで羨ましいです……。


 一体、虻輝さんはどんな訓練をVR空間の中で受けているのでしょうか……。


 今からコスモニューロンの技術を体の中に入れることは抵抗感がありますし、

 上手く操作できるか自信が無いです……。


 こうなるとやっぱり、私が立ち位置としては一番下で特に遅れているような気がします……。


 それでも焦らず自分のできることをやっていかないといけませんね……。


 私は私、他の皆さんはそれぞれ他の皆さんなのですから……。

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