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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第10話 回避訓練

 地下訓練場に向かうと爺が何やら瞑想をしていたのか目を瞑っていた。


 僕が目の前まで行くと目をカッと見開いたのでギョッとした……。


「どうも虻輝様お久しぶりですな。バカンスは楽しかったですかな?」


「いやぁ、爺。本当に随分久しぶりに会ったような気がするよ。南の島にバカンス――と言うわけには全くいかなかったよ。

 難破したり、食料調達に困ったり無人島かと思ったら人がいて取り囲まれたりと散々だった……。

 初日に遊んでいる時ですら玲姉達からボコボコにされていたんだから……。

 とにかく一人でゲームをさせて欲しいというのが僕の本音の全てだよ……」


「虻輝様らしいですな……ですが、時期にゲームが出来ないほど体が弱くなってしまいますぞ」


 玲姉と同じようなことを言ってくれるな……。


 もはや抵抗することは無駄だと散々分かってきたので、受け容れることにした。


「うん、分かったよ……。それで今日はどうする?」


「やっぱり虻輝さんはVR空間で体の動きを覚えた方が良いと思いますよ。

 意外と体力面においては心身ともに試される場面と言うのが次々と来ていますからね」


 建山さんは相変わらず気配なく僕の隣に存在していた……。


「ホント、何かに憑りつかれていてお祓いでも行った方が良いんじゃないかって言うぐらい命の危機を覚えるようなイベントが襲来してきているよな……」


「確かにゲームの影響からか思った以上に判断能力もあるようですから、

 実際に体に教え込む方向の方が良さそうですな。

 リアルの身体にも反映されるかもしれません」


「虻輝さんはとにかく最近は心身のご負担を気にされているようですから。

 少しでも軽くしてあげることが大事だと思います」


 建山さんが何を考えているのか相変わらずだが、リアルの世界でこってりと絞られて筋肉痛に苦しむより遥かに良い提案と言えた――まぁ、今だって全身の節々が痛いわけだけどね(笑)。


「うん、うん。そうなんだよ……」


 建山さんは僕への“理解度”が高いような気がする。


「何か憑きモノによるお祓いについては日本宗教連合に頼んでみたらどうですか? 何か解決してくれるかもしれないですよ?」


「いや、あれは半ば冗談だからね……」


 そんなことを話しながらVR空間に飛び込んだ。建山さんも冗談がイマイチ通じない上に、冗談を言っているか分からないからかなりやりにくい……。


 今日はサバンナの草原のような開けた平野が広がっている場所だった。


「これまでは攻撃方法について行ってきましたが、今回は攻撃を避ける訓練を行いましょう」


「実は虻輝さんに習得していただきたいコンテンツですね。

 玲子さんや私がいない時に駆け付けるまでの時間稼ぎをする手段として大事ですからね」


「確かに――むしろどうして、この訓練が優先的に選ばれなかったんだ……?」


「それは私の趣味ですな。ご隠居様からも虻輝様に虻利流を継いでもらい虻利家の党首になる用意をするように仰せつかっておりますから」


 爺がサラリと言ってくれた。


「えぇ……そっちの都合だったのかよ……」


「ですが、私の趣味ばかりでは問題ではないか? と玲子さんや建山さんから助言されました。

 何せ虻輝様は様々な危機が押し寄せる段階のようですからな」


「全く望んでいないんだけど、成り行きでそうせざるを得ないんだよな……」


 玲姉や大王と言った僕が逆らいにくい人たちがある種の“見えない連携”をしているようにすら感じるんだけどね……。


「ということで、回避する訓練を行いたいと思います。

この背景に相応しいモノを呼びましょう」


 グウォォォォォ! と言う雄たけびと共に、なんとライオンが出現した!


「これは飢えたライオンでこの半月何も食べていません。例えあまり肉の無さそうな虻輝様であっても襲う事でしょう。このライオンから3分逃げてください」


「えっ!?」


 ライオンは真っ先に僕に向かって口を大きくあけながら突進してくる。

 

「ちなみに私と建山さんは、そのライオンが認識できないようになっています」


「いぃぃぃ! 高みの見物かよ! ズルすぎるぅ!」


 僕は身を翻して逃げようとするが爪が僕の背中に直撃した!


 ズルズルと僕は引き摺られ口の中に飲み込まれそうになる――。


「グワーッ! 死ぬぅー!」


「ご安心ください虻輝様。痛みはリアル社会の3分の1ほどに設定してありますし、肉や骨が砕かれることはありません」


「それでも痛いって!」


 僕は必死になってライオンの口の中から脱出した。VR空間とは言えライオンの意の中に納まりたくはない……。


「痛い思いをしたくなければ必死で逃げてください」


「うわあああああ!」


 ライオンは猛然と僕に向かってくる。ようやく“餌”にありつけるというところなのだろう……。


 開幕に足をやられているために転がりながら回避し、後ろ脚に捉まったりしてとにかく口の中に入らないようにした。


 ―

 ――

 ―――

 ――――


 途中からはあまりの痛みの連発で意識が飛んでいた……。


「地獄のような3分だった……。二度と味わいたくない……」


 最後の方は泥まみれで何をしていたのか全く覚えていないほどだった……。


「思ったよりも良い動きでしたな。リアル世界では2回ほど死んでいたと思いますが」


 僕の評価低すぎ……。まぁ、仕方ないんだけど(笑)。


「やはり虻輝さんは窮地に陥ると力を発揮されるタイプなんですよ。

 VR空間なので本当に死ぬわけでは無いのですからドンドン、死地に送り出すべきです」


 とんでもないスパルタコンビで鬼の化身にすら見える……。


 建山さんは特に普段優しい言葉をかけて“理解者”だと思っていたのに対応なのでダメージが大きかった……。


「あの……もう腰の力が抜けて訓練続行不能なんだけど……」


「仕方ないですね……。今度はライオンに私だけを認識させますので見ておいてください。

 村山さん。ライオンを10頭出してください」


「分かりました」


 先ほどよりも一回り大きいライオンが10頭出現した……。

 細い建山さんと比べれば太い大木のようにすら見える……。


「えっ……嚙まれると痛みを感じるよ? 大丈夫?」


 飢えたライオン1頭でも相当圧力と恐怖を感じたのに10頭だなんて正気じゃない……。


「ええ。大丈夫です。虻輝さん、私の雄姿を見ていてください」


 華麗に宙に舞いながらコマのように回転すると回し蹴りで2頭のライオンの頭めがけて強烈な蹴りをいれた!


 そして、ライオン2頭は吹き飛びながら消滅していった……。


 因みにこの空間で消滅したということはすなわち「死」を意味する……。


 しかし、建山さんの体勢が崩れたのを見てか次のライオンが迫るが、建山さんは――


「とうっ!」


 なんと片手を軸に飛びあがり、そのまま踵落とし(かかとおとし)で1頭消滅させた……。


 その隙を見てさらに2頭が挟み撃ちのようにして迫る! 

 しかし、建山さんはバランスが崩れたように見えた状態から身体を捻り、空中でバク転しながら着地し、そのまま2頭の頭を片手でそれぞれ握ると一気に潰して消滅させた。


 リアル世界ならさぞかしグロイ光景が展開されていたことだろう……。VR空間で良かったと言える……。


「さぁ! かかってきなさい!」


 建山さんがそう叫びながら睨み付けると残るライオンは建山さんを恐れて動けず、そのまま霧散した……。

 VRの存在なのに“恐れながら死亡“とかがあるんだな……。


 色々とよくできているなとある意味感心したが建山さんがそれだけ強烈だったとも言える……。


「とまぁ、このように避けながら攻撃をするというのが理想形だという事です。

 必ずしも逃げるだけでは無く、攻撃の次の体勢を作ることが大事になります」


「そ、そう……凄いね……」


 それ以外の言葉は出ない。流石は玲姉が対抗心を燃やすだけの存在だ……。


「明日もまたこの回避訓練を行いましょう。今日とはまた違ったテーマで行う事にしましょう」


「は、はい……」


 改めてとんでもない人たちと一緒にいるんだなと思った……。


 大王の問題もあるし、一体僕はこれからはどうなるんだ……。

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