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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第8話 育ての親

 虻輝さんが何やら大王と話し込んでいる様子だったので一足先に万屋の部室を出て、久しぶりに“家”に帰ることにしました。


 生家は虻成に破壊され、今の住まいは虻利家なのですが――それより前に住んでいたところがあります。


 高校以降は寮生活や一人暮らしをしていたのですが、それより前は島村さんと言う老夫婦に引き取られていたのでした。


 ……ただし、普通のご夫婦ではありませんでした。人々の“心を操ること“を生業としている方々でした。


 表面上は占い師のような看板を掲げていましたが、実情は陰で虻利家を打倒しようと獄門会と繋がっており、心の弱い方々を“占いで洗脳”すらしていました。


 皆さんの前ではこのことを言いませんでしたが、「大王呪い事件」について何か知っているのではないか? と直感的に感じましたので久しぶりに帰ってみることにしました。


 最後に島村さんご夫婦にお会いしたのは確か虻成を殺しに行く3日前でした……


 誰かに聞かれていないか心配だったのでそれとなく“これまでの人生のカルマを斬り捨てるためにもうこの世には戻ってこれない”と言う感じで伝えましたが、悲しそうな顔をしながらも『世の中の役に立つにはそういう事も必要なのかもね。頑張ってらっしゃい』と言われました。


「知美です。ただいま戻りました」


「入りなさい」


 白髪頭で眼鏡をかけた島村早苗さんと、杖を持ちクッションの上で胡坐をかいている島村熊吉さんです。


「お久しぶりです。お元気そうで何よりです。申し訳ありませんでした。啖呵を切って独断で行動したにも関わらず任務を果たせず……」


 私は土下座するような形で頭を下げました。


 2人からは殺気のようなものを感じ、頭を下げずにはいられなかったので……。


「風邪の噂で聞いたのだけども。知美さん。あなたは今虻利家にお邪魔になっているようですね」


「は、はい……」


「私は暗殺に失敗したことに関してはやむを得ないことだと思います。

 あなたの命が無事に済んでここに戻ってきたことはむしろ良かったことです。

いけ好かないのは、あなたが“取り込まれてしまった“ことです」


 早苗さんが手元にあった扇子を開いたり閉じたりを繰り返しながらそんなことを言いました。


「私、そんなつもりでは……」


「お前さんにそのつもりは無くとも、外から見れば虻利家の倅に心を奪われ、惚れこみ、本来の目的を忘れているように見えるぞ。一体どういうつもりなのかね?」


 熊吉さんは静かな口調で語っているものの、怒りが籠っていることは明らかでした。


 ご夫婦の人脈があれば私の行動や思考なんて筒抜けという事ですね……。


「それは、機を窺っているのでございます。

 何か不審な動きをすればすぐさま“新たな作戦”を実行に移そうと思っています。

 ただ、虻利家の権力機構と言うのは虻頼や大王と言ったそれよりも遥かに強大な人物がいますのでその子や孫の世代を始末してもあまり意味が無いかと」


「確かに、虻頼本人を倒すことと比べればほとんど無意味に近いことかもしれん。

 しかし、虻頼も人の子。子や孫が殺されれば心の中の波風も立つだろう。

 そのことが奴を倒す可能性にも繋がるのだ――が、お前はそのチャンスすらも失ったのだ」


「はい……確かにそうだったかもしれません……」


 虻利家によって生きながらえるということは、厳しい訓練を施してくれた私に対して厚遇してくれた方々から誹り(そしり)を受けてもやむを得ないということなのでしょう……。


 私に優しくしてくれたお二人からあそこまで言われてしまうことは辛いことですが、

 耐えていくしかないと思います……。


「我々とて虻利家を例え消し去ったとしても、その後ろに控えている勢力が出て来るだけだという事は分かっておる。

 しかし現在のデジタル監視社会による息の詰まるような状況を打開するためにはこの方法しかないのだ」


 熊吉さんは溜息を吐きながらそうおっしゃいました……。


「私たちはあなたに死んで欲しくは無かった……。

 あたしら夫婦には子供がいなかったから、アンタを実の子供だと思って珠玉のように育ててきたつもりだよ。

 強くなりたいと言ってきたら伝手つてを使って獄門会にアクセスし、特攻局からの追及だって免れられるように様々な工作をしたものさ」


「はい。生家を無くし、行き場のない私に対してとても良くしていただきました。

 その他にも衣食住や教育費など多大なるご支援をいただいたと思っています」


「それでも、あたしたちはこの国のために虻成が消えてくれるならばと思って送り出したのさ。

でも、今のお前さんは死んでくれたよりよっぽど悪い状態さ“魂を売り渡した”も同然の状況なんだからね」


 早苗さんにとって私は唾棄するべき存在なのでしょうね……。今までにない口調で叱責されているような気がします……。


「早苗の言うとおりだ。だが、まだ俺たちのところに戻ることが出来るし挽回することも出来るぞ?

どうだ? 今の立場を活かして、虻輝をはじめとした虻利家の面々を始末する気はないか?

 今度こそこの日本をどうにかして変革してから死のうとは思わないか?」


 確かにお二人の言われていることはその通りのご指摘なのだと思います。


 でも私としては玲子さんやまどかちゃんのことを考えたり、

 周りの暖かい雰囲気や何か変えてくれるのではないかといった期待感と言ったその場にいなくては分からないことも考慮するととても裏切る気にはなれませんでした。


「今の私は内部から虻利家を変えようという考え方に賛同したいです。

 虻利家を倒しても次の虻利家に近い存在が出て来るだけだからです。

 おっしゃる通り私は毒牙が抜かれてしまったのかもしれませんし、あの人たちの作戦に引っかかっているのかもしれません。

 それでも一度信じて見ようと思った以上は、余程のことが無い限り簡単に裏切りたくは無いのです」

 

 お二人のおっしゃりたいことは痛いほど分かります。


 玲子さんやまどかちゃんや虻輝さんのことをそう簡単に裏切るわけにはいかないですからね。


 復讐の鬼になっていた私を救い出してくれたのですから……。


 ここで説明しても納得してくれないと思うので詳しく説明はしないですけど……。


「お前の言いたいこと、意思はよく分かった。

……今、実行中の我々の計画を邪魔するのであれば、知美。お前が相手でも容赦しない――とだけは言っておこうか」


「そうですか……。そうならないことを心の底から願っております。それでは失礼します」


「待ちなさい。これを持っていくと良い。私たちもここをもうすぐ出ていくから、恐らくこれが最後の別れになるだろう」


 早苗さんはそう言って灰色の御守りを渡してくれました。

 私は鞄の中に丁寧にしまいました。


「今までありがとうございました。お二人だと思って大切にします。どうかご達者で」


 頭を下げて話しながら悟られないように周りを観察していましたが、やはり昨日見せられた“大王の痣”に近い模様が飾られていました。


 私は確信しました。“大王の痣”というのは島村さんご夫婦が遠くではあるものの関与していそうであるということ。そして、ゆくゆくは育ての親と対峙することになるということを……。


 でも、それだけ今の居場所が大事なのですから仕方ないですよね……。


 この決断をしてしまったからには覚悟を決めなくてはいけません。


 それだけ今の生活や気持ちがとても大事ですから……。

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