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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第7話 ロストされた存在

 下らないやり取りをした後に島村さんがアッと思いだしたような表情をして荷物から何かを取り出す。


「ところで、あなたたち2人はこの模様については知りませんか?」


 そう言って島村さんは僕が見せて回っている大王の痣の写真を正平とカーターに見せる。

 “知り合いに聞いて回って欲しい”と為継が印刷して皆に配布したのだ。


 そして、島村さんは“言葉によるセクハラ“を受けたためか少し高圧的であり、正平とカーターも押されている……。


「ん……? こんなのをどこかで見たような……」


 正平とカーターには一欠片の期待感も抱いていなかった。

それは島村さんも同じなようで“ノルマを果たすため”に機械的に質問をしているだけのようだった。


 しかし、2人は興味を持ったのか、体を乗り出した。


「これ、この間介護をしに行った中本さんの居間に似たようなのがあったような気がするな……」


「あぁ、そうだったそうだった。これと全く同じでは無かったが、印象的だったから覚えているんだよな」


「中本さんと言う家庭はどういう職業のご家族なんだ?」


「うーん、確か神社関係の仕事だった気がするなぁ。

 最近は週1回水曜日に行っている感じだな」

 

 “神社”という言葉にピンときた。日本宗教連合に話を聞こうとしているのだから


「恐らく契約上で勝手に物に触れてはいけないと思うんだが、

 中本さんのところに出来るだけ注意して周囲の物を見ていって欲しい。

 実を言うと大王からの依頼で――」


 大王からの痣の一件について簡単に話した。

 無人島の下りは省略したが、頭が上がらないという事については暗に伝えた。


「お前も本当に大変なんだな……」


「命が一つしか無いのに何個も失った気分だよ」


「お二人もただ単にヘンタイと言うだけではなくちゃんとお仕事や周りに注意を払ってやっていたんですね。

 念のため聞いただけだったのですが、良い情報になりました。ありがとうございます。

 今後も介護のボランティア頑張って下さい」


 島村さんはすっかりこの中で一番上の立場を手にしたようだ……。

 本当に1つ年下なんだよな……?

 

「折角だから中将も介護体験してみるか? 重労働だけど感謝をされた時の高揚感はある意味病みつきだぜ」


 ある意味カーターは“調教”されてしまったのだろう。

 ここも玲姉が時間の合間を縫って仕切っているらしいからな……。


 ただ、思ったより真面目にやっていそうだという事は分かったのは良かった。


「いや、最近心身共にボロボロなんだ……。さっきも言っただろ、こちとら色んな任務が洪水のように押し寄せてきて押し流されそうなんだよ」


 来月は年間王者を決める大会があると言うのに合間を縫うようにしてゲームをしなくてはいけないんだからホントに大変だ……。


 最近は現在のように会話をしながらでも時折ゲームを行うスキルが身についているほどである。


「お前の声に抑揚が無いところを見るとよっぽど大変なことが続いているんだろうな……

 でもここは気分転換でいつもとは違ったことをやるのもいいぞ!」


「いや、何で僕に介護体験をさせたがるんだよ……。

 正平やカーターよりも遥かに体力が無いんだから速攻で戦力外だよ……」


「ハハハッ! それもそうだな! むしろいられると足を引っ張ってきやがりそうだぜ! お前がむしろ介護される立場かもな!」


「言えてるっ!」


 カーターが言うと正平が乗る。この感じは中学時代からずっと変わっていなかった。


 大学に入ってから同じ教室にいる機会が減ったために何か懐かしい感じすらあった。


「酷いな、その言い方は……。そっちから誘ってきたくせに……。

久しぶりに“待ち”の状況なわけで、大王から連絡があるまでの間ぐらい休ませてもらわないと――あっ!」


 “噂をすれば影“と言う奴なのだろうか大王から早速連絡があった。


 着信拒否できるものならやりたいところだが……。


「ちょっと皆ゴメン。大王から連絡があった――今大丈夫だが、どうした?」


 結局のところ出るしか選択肢は事実上ない……。


「お喜びください。日本宗教連合と虻輝様との会合を明後日にもセッティングすることに成功しました」


「えっ……。早すぎだろ……」


 全く喜ばしいことではない……。思わず視界がグラリと歪んだ。


 どうやらリアル世界では島村さんが一足先に寄る場所があるようで先に帰るようだった。丁寧に挨拶をして立ち去っていくのが分かったが僕は適当に反応することしかできなかった。


「折角虻輝様が頑張って下さっているようなので、私もお膳立てをいち早く行おうと関係各所に連絡を取っていたという事です」


「とか言って本当はただ単に痒いのをさっさと治したいだけなんじゃ……」


「確かにそれもありますな……ただ、私としては“分からない“と言う事態を一つでも減らしておきたいのです。

 科学者でありながら自分の身体のことすら解明できないのであれば失格ですからな」


「人間の身体って意外とまだ解明できていないことが多いみたいだけどね……。

 ところでこちらからも情報があるんだけど、僕の親友の正平とカーターが介護ボランティアでの訪問先の中本さんと言うお宅で似たような模様を見たって言うんだよね」


 大王は目がキランっと光ったような気がした。


「ほぅ――今簡単に調べてみたのですが、中本家と言うのはどうやら本宮神社という神社の宮司を務めていたそうですな。格式としては中の上ぐらい。現在は息子夫婦が宮司を引き継いでいるそうです。

 もしかすると、”ロスト”している呪いの類なのかもしれません」


「ロストって?」


「ここ30年ぐらいに関して言えばこの私の情報収集の範囲内にあり、まず漏れていることは無いです。

 ところが口伝などで伝わる方法論の場合で私でも捕捉できていないのです。

 若い世代に関しては問題無いですが、現役から退いた世代の方が危険なのかもしれませんな。

 コスモニューロンを導入していない層も子供世代以外ではやはりお年寄りの方が多いですから」


「大王すら把握していない技術をまだ持っているという事か……」


「ええ。引退したご老人たちについてはこれまで比較的自由にさせてきましたが、

 今後は情報網をもっと厳しくしていく必要がありそうですな。

 医療や介護のために義務化するなどの措置、コスモニューロンはむしろ健康に良いというデータを作成するなど“工夫“が大事になってくることでしょう」


 大王がとても楽しそうに背筋がゾッとするようなことを言い放っている。


「お役に立てたようで何よりだよ。それじゃぁ、明後日のための心の準備しておくよ」


「ええ。虻輝様も最近急激に経験値を積み、場数を踏まれているような気がしますのであまり心配いりませんな」


「えぇ……そんなに過大評価されても本当に困るよ? ちゃんとモニタリングしてアドバイスしてよね」


「勿論です。期待しておりますぞ」


 こうして大王との連絡を終えた。心配だ……心細い……。


 しかし、僕はひょっとするととんでもない情報を提供してしまったのではないだろうか……。


 僕の祖父は“ああいう方”ではあるのだが、年配の方に対する敬意と尊敬の念はある。

 “使えない”など何かしらを理由に排除されてしまったりすればそれこそ優生思想にも繋がっていくだろう。


 だが、僕としては島村さんの生殺与奪についてや、先日の島民のことで完全に大王に弱みを握られている。ここは“取引”としてある程度対価を支払うしか無いんだ……。


 これがきっと玲姉が言っていた「大人の判断」なんだろう……。


 苦しくて厳しい判断でとてもやりたくないんだけど……。

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