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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第5話 仲介者

 夕食が終わって風呂場に向かった。それの後で大王に先ほどの夕食の時の話をしようと思った。


 正直言ってあの大王に対してこの提案持ち掛けることはかなり勇気がいる。


 しかも、ある程度の譲歩という「手土産」を要求しなくてはいけないんだから、そこをどう思うか……。


 朝同様、風呂は快適で体から毒素が消えてなくなる気がした。


 それでも、体はリフレッシュは出来たが心は晴れなかった。


「大王、今いいかい? 玲姉達に大王の痣をどうすれば取り除くことが出来るのか話をしたんで、それを踏まえて今後の打ち合わせをしたいんだけど」


 大王に連絡をする前にゲームを少しして精神統一した。ゲームであれば“本来の自分”に戻れるからだ。


「虻輝様どうぞ。流石、動きが速いですな」


 期待に満ちた声をしている。提案しにくくなるから辞めてくれ……。


「玲姉達に大王の異様な痣を見せたところ、どうしたらいいかまでは分からないみたいなんだ。

 ただ、日本宗教連合に連絡を取ってみることを提案してもらったんだ。どうにも普通の人間ではお祓いをすることは困難みたいなんでね」


「そうでしたか……」


あからさまに落胆しているようだった。しかし、ここからが山場だ。


「その上での話なんだけど……何か“交渉材料“を持って行くことで日本宗教連合から祓ってもらうことは出来ないかな? 例えば宗教法人の非課税を復活させるとか?」


 大王が沈黙した。コスモニューロンに投影されている姿も停止し、まるで無表情の状態で連絡が途切れたかのようだ。


「ふぅ……そう来ましたか。玲子さんもとんでもないことを提案してきますな」


 たっぷり1分の沈黙を経てようやく返ってきた大王の返答は何かカラカラの雑巾から水を絞り出したような声だった

 

「いやぁ、別に非課税の復活でなくても良いと思うんだよ。

 あくまでも一例に過ぎないからね。

 ただ、それと同程度の交渉材料が無いとこういう無理難題にちゃんと向き合ってくれるとは思わないんだよね。

 獄門会と多少なりとも繋がりがある玲姉達に聞いても全く分からなかったわけなんだし、中々打開策は見つからないと思うんだよ」


 あまりに居たたまれない気持ちになったために早口でそう僕はまくしたてた。


「おっしゃることは分かります。ただ、我々としては宗教をそう易々と布教しやすくする施策と言うのは取りたくないのです。

 どちらかと言うとデジタル社会への陶酔やゲームの世界への没入を行わせ我々への依存を狙っています。

 日本宗教連合はその外にあるどころか、むしろ自然回帰や精神性を高める活動を記念続けており脱デジタル社会すらも訴えています」


 その一翼を僕も担っているのかと思うと何とも言えない気持ちになる……。


 そして、大王の考えていることがとにかく人類統治を行いたいのだという事だけは分かった……。


「大王は人類をデジタル領域と接続し、更にはそれに適した遺伝子に改変することで神の領域に到達する『人類半神化計画』だったね。

 でも、ある程度のところで妥協をしないと痣が広がっていくばかりなんじゃ……」


「……」


 またしても大王が沈黙した。やめてくれよ。毎度何を言われるのかヒヤヒヤして地獄のような気持ちを味わっているんだが……。


「――暫定的で一時的な措置として何かプランを考えましょう」


「あぁ……うん。それで良いよ」


 そういう気持ちで臨むと相手から見透かされそうで怖いけどな……。

 日本宗教連合だってここまで弾圧や金銭的な問題を乗り越えて存続してきたんだからさ……。


 ただ大王は直接交渉することは無く、実際に間を取り持つのが僕だというところがある意味良いのかもしれないけどね。


 間を取り持っている僕にとっては責任や負担が大きすぎてプレッシャーで潰れそうになっちゃうんだけど……。

 

 これが中間管理職の辛さってやつか……。僕は常にトップに近いポジションにいたからこんな思いをしたことが無かったけど上下左右からの圧力に耐えられるのだろうか……。


「ただし、彼らにとって大きくプラスになる政策について私の一存では決断できません。

 ですから、『委員会』と掛け合って決めようと思います。

 

「大王でもそこは決められないんだ」


「私はこう見えても官僚トップではありますが政治家そのものではありません。

 政治家に対して命令を出せるのも“仲介者”あってのことです。

 

「それが“委員会”ということか……」


「――様々なことに思いを巡らせてみたのですが、これまで“宗教上の聖域”とも言えた日本宗教連合を調査できるチャンスとも見ることが出来るわけですな。

 特攻局の捜査すらもあまり進んでいない“宗教上の聖域”が分かれば何かしら尻尾を掴むことも出来るかもしれません。一時的に解除することで彼らも気が緩むと思います」


「あの……それを調査するのは勿論……」


「虻輝様に絶大な期待をかけているという事です。

 この謎の模様を取ることを最優先にして欲しいですが、反乱分子の炙り出しをしていただきたいですな」


 僕は身内だし、使いやすいし、島村さんや島民と言う“人質“の生殺与奪権を握っているからこんなにも自由に言ってきて気軽に頼んでいるんだろう……。


「……科学技術局は人材不足なの?」


「研究に優れている人間はいますが、フットワークが軽い人間は確かに不足していると言えるでしょうな。

 それだけ虻輝様とそのお仲間が優れているという事です」


 大王にはあまり皮肉は効かないようだ……。刺さる言葉ばかりを連発する島村さんには遠く及ばないのか……。


「何か進展があったら教えてよ。日時が決まったらすぐに動くから」


「ええ、すぐに掛け合いますのでそう時間はかからないかと。今週中には訪問準備も可能かと思われます。

 ただ、交渉に向かわれるにしてもいきなり非課税を出されては困ります。

 向こう側の交渉条件を聞き出してからにしてください

 最初に提示できる条件としては日本宗教連合に所属している者の信用スコアの自然低下の軽減ですな」


 妙に積極的なんだな……よっぽど痒いのが悩みなのかもしれないんだけど(笑)。


 僕が心労で倒れなきゃいいけど……。


「ただ、僕が日本宗教の門の前に行っても文字通り門前払いされそうな気がするんだけど」


「部下に命じて虻輝様と日本宗教連合との間を取り持つことをさせましょう」

 

「えっ……対立していると思ったのに、何かしら繋がりがあったのか……」


「流石に直接の関係性は無いのですが、何人かの人間を介して話をできるぐらいの人脈は整えています。

 もっとも、最大の役割は何か問題行動を起こそうとしたときに真っ先に密告できるように潜伏させているわけなのですが」


 怖すぎるだろ……。


 とは言うものの僕の身近にも建山さんと言う何考えているかよく分からない特攻局の幹部がいるわけだから、あんな感じで普段は気さくで捉えにくい感じの雰囲気を漂わせて自然に存在しているんだろうな……。


 油断しそうになるけど気を付けないと……。


「また、虻輝様の会話は私がモニタリングさせていただきます。

 とんでもない方向性に飛んでいきそうな時には私がストップをかけますので」


「確かに、本来しょぼいものに対して対価を多く請求されたらたまらないからな……」


 大王も思ったよりかは前向きに検討してくれているようで一安心だ。

 それだけ痒いのかもしれないのだが(笑)。


 玲姉の独特の発想を大王に伝えられたのだから最低限僕の役割も果たせていると言えた。

 しかし、思った以上に色々と展開が早いな……。


 次のゲーム世界大会に備えながらそんなことを考えていた……。

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