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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第4話 痣への手がかり

 僕は科学技術局から家に向かうまでの間、美甘の迎えの車に揺られながら、皆に何と説明するかについてずっと考えていた。


 正直言って、大王の言っていた内容が難しすぎて僕の頭脳では消化不良だったのだ……。


 こんな時は一人で悶々と悩むのではなく、AIに聞いた方が良い。

 大王の痣の状況と解決方法、そして呪いの情報について入力してみた。


“痣の作った原因の者から聞くと良いでしょう。誰か分からない場合は、その原理を追求することが大事です”


 とAIは答えた。


 そして肝心の「大王の痣」については、のらりくらりと色々な理論を立ち並べた後「分からない」「恐らくは大丈夫でしょう」という曖昧なもので終わった。肝心な時に役に立たないんだな……。


 所詮は科学技術局の技術で出来たシステムだから大王が解決できない問題を解決してくれるわけ無いんだ……。


 つい昨日まで皆には太平洋の未開の島に出張させたばかりだというのに、またお願いと言うのは正直気が引けたのだが、僕単独で解決できるとはとても思えないので兎に角周りの皆に聞くしかなかった。


 クリームシチューや豪華な盛り付けのあるサラダを堪能した。

皆がいる前で、聞くことにした。


「皆、先日は遠路はるばる太平洋の調査に付き合ってくれてありがとう。

 最近それぞれ大変な目に遭わせた直後で大変申し訳ないんだけど――」


「あぁ~そういう演説じみた言い方を聞くとなんか厄介ごと持ってきたんだろうなぁ~。って言う事だけは分かったよ」


 まどかが、突っ伏して頬っぺたを潰しながら唸るようにしてそう絞り出した。


 流石に僕の妹を長年やっているだけのことはあって、よく理解している……。


「まどろっこしいことをされずに、どの道直球で話してくれた方が良いですよ。

 あなたの話術ではどの道話す内容や印象にとりわけ変化は無いですから。

 本日は科学技術局にうかがわれて、大王局長とお会いしたんですよね?」


 島村さんも相変わらず辛辣だな……。


「オホン……皆さんお察しの通り、大王局長はやはり島民の安全と引き換えに“取引”迫ってきたわけだ」


 鬼畜だな~、とまどかが呟くがスルーする。


「この模様について見たことは無い? 大王の痣を取ることが条件らしいんだけど、何かしらの呪いみたいなのをかけられているみたいなんだ」


 景親や烏丸は首を横に振った。まぁ、この2人には残念ながら元からあまり期待していなかった(笑)。


 為継はもう知っているのか沈黙している。


「うわぁ~、何それ? 何だか薄気味悪い模様だねぇ。何か大きなムシみたいで嫌だなぁ……」


 まどかが見た瞬間そう言った。大喜利では無いが確かに言われてみればそんな気もした。


「島村さんはどう? 何か首をひねってるみたいだけど……」


「そうですね……見たことあるようなないようなそんな気がします」


「へぇ、どこら辺で見たことあるの?」


「うーん、獄門会の関係でしょうか? でも、似たような模様だとしても、この模様では無かったような……。玲子さんはいかがですか?」


「そうね――私も子供の頃にこんな感じのものを見たことがある気がするわね」


「具体的にどう言う時に使われそうなの?」

 

 ズバリこの模様で無かったとしても参考になることは聞き出したかった。


「そうねぇ……何かを封印する時かしら? 結界を張ったりするときに使っていたような気がするわね。私はその専門家では無いからよく分からないのだけども」


 獄門会がどういう世界なのかよくわからん……。

 取り敢えず住んでいる世界が違い過ぎるという事だけは分かったが……。


「実は今日、大王によるとこの模様の周辺が無性に痒いらしいんだよね」


「お兄ちゃんそんなことを聞きにわざわざ行ってたわけ?」


「まぁそうなるな(笑)。でも、当事者としては気持ちが悪いと思うけどね」


 しかし、データでバンッ! と送られても何となく切迫感みたいなことは感じにくいから、説得する際とかには直接会った方が合理的のような気がする。

 特に僕はゲームで忙しくてデジタル上で話をされてもスルーするんで(笑)。


「あなたも結構色々な問題が次々と来て大変ですね」


 おぉ、島村さんにしては珍しく僕を憐れんで――。


「あまり処理能力が無さそうですから。科学技術局や特攻局の見る目が無さ過ぎますよね」


 いつもの毒舌だったー!


「輝君本人と言うより、背後にいる私や小早川さんなどとの総合的解決を狙っているんじゃないかしら? 輝君はただの仲介役として私に泣きつくのが役割なのよ」


 もうホント散々な言われようである……。


「お兄ちゃんは悪運だけは良いから、何か難題を押し付けても大丈夫なんじゃない? っていう雰囲気があるんじゃないの?」


「お前ら、僕をどういう風に見てるんだよ……」


「周りに恵まれていると言うことでしょうね」


「無能だけと運がいいとか?」


「まぁ、頼られるだけでも良いと思った方が良いんじゃないの~?」


 島村さん、まどか、玲姉が三者三様の追い打ちをかけてきた……。


「で、本題に戻るけど具体的に何をしたら解決できると思う?」


 ここが、一番大事なのだ。対処方法が分からなくてはイジメられているだけになってしまうんで(笑)。


「私も正直なところ専門では無いから、“専門家”に聞いてみるに限りと思うわよ。

 呪いのことなら日本宗教連合にいってみてはどうかしら?」


「日本宗教連合ねぇ……」


 確かに神社とかでお祓いとかをしているわけだし、“呪い人形“みたいなことは古典的なことをやっているイメージがある。


 だが、EAIの一件(第4部全体)で虻利家や僕に対する印象はかなり悪くなっただろう。

 そんな中で、どの面下げて訪問するんだ? と言う感じはした。


「輝君の気まずい状況の中行きたくないという気持ちは分からなくは無いけど、私でも痣をどうすることも出来なさそうなんだからね。正直なところ、気持ちの上での整理だなんて相当な年月が経たないと解消されないのよ? 知美ちゃんも分かるわよね?」


「そ、そうですね……」


 急に話を振られたためか島村さんは困惑気味の表情だ。

 だが、玲姉の指摘は的確だ。島村さんの憎悪は最近はあまり感じないが当初は体を突き破らんとするほどの視線を感じたからな……。

 人によって憎悪が解消されるまでの時間の長さは変わっていくだろうが、期間を空けることで解決できるとは限らないというのも理解できた。


「ということは、多少気まずい状態でも頑張るしか無いと言うことか……」


「ビジネスの基本として、こういう時は“手土産”が大事になるのよ」


「手土産ぇ? 例えば10万円のお菓子とかを持って行くの?」


「……私がそう言う意味で言ったと思う? 勿論そう言った普通の手土産も必要だと思うけどね」


「うーん……そう言われても他に何かあるかな?」


 この流れからとても普通の手土産とは思わなかったが、何の見当もつかなかった。

 特に僕が出来ることがあるとは思えなかった。


「現在のところ日本宗教連合は事実上の“宗教弾圧”を受けていることを問題にしているわ。

 だから、それの一部解除を求めるの。

 例えば、かつては宗教行為に関しては非課税だったけど今は課税状態よね? かつての状態に戻すとかそう言う“手土産”を持って行くのよ」


「え!?」


 意外なところから弾が飛んできた気がした。2040年頃に非課税の特別措置は完全撤廃され、普通の企業と全く同じ課税になっている。そして寺社仏閣は一気に解体され、日本宗教連合が立ち上がったきっかけでもある。


「大王さんを通じればその程度のことは可能なのではないかしら? 大王さんは正直なところ“最高権力者”に限りなく近いわけだしね」


 ご隠居はそんなに細かい政治に関心があるわけでは無い。全体管理社会を作ろうとしているのは「委員会」の人々や大王や特攻局なのだ。

 そうなると大王の悩みを解消するためなら多少の融通は効くことになる。

 

流石玲姉、この世界での生き抜き方を心得ていた。


「確かに、日本宗教連合はお菓子やお金を求めているわけじゃ無く、“信仰の自由”を求めているわけだからな。少し譲歩すると言うことか……」


 大王の悩みを解決するわけなんだから、それぐらい譲れと言うことなんだろう。


「そういうことよ。これなら話を聞いてくれるとは思わない?」


「確かに」


 気が付けばデザートが並んでいた。とても美味しそうな取れたてのフルーツ盛り合わせだった。その中からリンゴの切り分けをフォークで取って口に入れる。

 とても甘くてシャキシャキして美味しかった。


 本当に玲姉に相談するといつも袋小路の中から明かりが急に灯ったかのように解決口が見つかる。

 大王に取りあえず再び連絡してみようと思った。

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