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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第1話 久しぶりの帰宅

 2055年(恒平9年)11月22日 月曜日


 為継の手際が良かったことから昨日は無事に救出船と合流することが出来、

 深夜1時ではあったものの自宅に帰宅することが出来た。


 しかし、折角コスモニューロンが繋がったのにも関わらず、ゲームを起動した瞬間に、あまりの疲労の前に泥のように眠った。


 8日ぶりに久々のベッドで眠れたのも非常に大きかったのかもしれない。

 寝袋が途中から手に入ったものの、雨風に晒されながら寝るという今までにない経験をし続けたからな……。


 こんなにも自分のベッドの寝心地が良い物とは思わなかった……。


 今朝は、体を洗った後に早速風呂に入った。


 普段はシャワーで済ませてしまうのだが、最近まともに体を休めた記憶が無かったので弛緩した瞬間をベッドの上以外で体感したかったのだ。


「ふぅ……思ったよりもずっと良いなぁ……」


 入浴して“生き返る”とは聞いていたが今まで未体験だった。


 しかしこのように体から心身の疲労が染み出していくことを言うのだろう。


 体の中から毒素が抜けていき、新しい自分になっていくようだ。


 今まで風呂に入らなかったのを後悔するほどの快感だ。人生の損失だ。


 これまでは風呂でゲームに集中し過ぎてヘンな体勢になっていて溺死しかけたり、

 気が付けば長湯し過ぎて脱水症状に近い症状になったこともあったのであんまり入浴したいとは思わなかった……。


 かと言ってゲームをしていない時間をボーっと過ごすというのは考えられなかったのでシャワーと自動乾燥であっという間に便利に終わる方に頼っていたのだ。


 しかし、こんなにも入浴が人体の末端まで染みわたるほど有り難いとは思わなかったからな……。


「おはようございます。あれ……? 何か顔が“ホカホカ“しているような……?」


 廊下で島村さんと会うと早速そんな風に声をかけられた。


「あぁ、お風呂入ったんだよ。30分ぐらいボーっと入浴してしまった」


「おはよ~。へぇ~、珍しいねぇ。お兄ちゃんは時短だのタイパだの言ってシャワーしか浴びないのにさ。

 そういや前に溺れかけたこともあったっけ? 今日も溺れかけた~?」


 まどかが“ププププ”と笑いながら近づいてくる。


「流石に溺れねぇよ! 単なる気まぐれで入浴したくなっただけさ!

 それぐらい疲れていたってことだよ。

 僕のことにそんなに気になるなんてお前たちどうかしてるぞ!」


 何かを思い切って変えて完全にスルーされることも悲しい気もするが、こんな僅かな“いつもとの違い”すら指摘されると何も変えたくなくなる気分になってくるな……。


 せめて次に入浴する時は誰にも会わない時間帯にしておこう……。


「皆、おはよう~。輝君は逆に他人に興味が無さすぎなんじゃないの?

 服やアクセサリーを変えてもちっとも気づいてくれなくてホント呆れちゃうわ」

 

 玲姉はそういう仕事を生業にしているから尚更僕の感性が許せないんだろうな……。


「ゴメン、ファッションとか全く興味無いんだ……。

 流石に尋常ではないほどの色合いだったり、季節や場所に全くあっていない服装だったら気づくと思うけどね……」


「私の感情に気づいて欲しくない時に無駄に鋭くて困る時はあるんだけどね……」


「お兄ちゃんってそういうところ昔からあるよね……」


「大体皆が気付いて欲しいポイントって僕が気付かなくちゃいけないのかな? って思うし、そんなに気づいて欲しいのなら教えてくれって感じ」


 僕がそう言うと、“コイツ分かっていないな”と言う感じで皆一斉に大きな溜息を吐いた。


「もう、いいわよ……。私たちが悪かったわ……。輝君がそういう子だと思って諦めていかないといけないわね……」


 空気読めなさすぎ……とまどかが小さく呟いて3人は先にリビングに向かった。


「あ、そう……」


 しかし直球勝負で言ってくれないと本当に分からないものは分からないんだから、聞いて何が悪いんだろう……。


 女の子って本当に分からないよな……。





 リビングに遅れて入ると為継がすぐさま気づいて近づいてきた。


「おはようございます。虻輝様、報告書と大木の欠片の準備は出来ております。

 こちらを局長の下に持っていかれれば、何の問題も無いかと。

 データで先行して概要は報告はしてありますがな」


 為継が木の欠片を入れた箱と報告書を僕に渡してくれた。僕はすぐさま持っていたバッグの中にそれを入れた。


「ありがとう。一昨日から徹夜続きだろう? 本当に悪いことをさせているな……」


「いえ、特に問題はありません。慣れていますし、人生で使える時間は限られていますからな。虻輝様への時間の投資は悪くは無いと考えておりますので」


 僕が一人が場違いじゃないかって言うぐらい周りの皆が凄いよな……。


「大王から島民の命と引き換えに何かしらの取引を持ち掛けられたときにどうすれば良いんだ?

 対価として差し出せるものがこの資料だけで納得してくれるとは到底思えないんだが……」


 未知の50人以上の健康そうな命なんて大王からしてみれば格好の餌だ。

 しかもどこの国籍にも所属していないことを考えると「容易に消せる命」と思えば「相当な対価」を要求してくることは想像に難くない……。


 昨日からこれに対する“対価”を僕が支払わなくてはいけないことについてずっと怯えていたのだ……。


「局長は虻輝様のことを高く買っておられます。

 今回のⅩ海域でも実績を出されたことから、“新しいミッション“を提示される程度で済むのではないでしょうか?」


「うへぇ~。今回も心身ともに削り取られたのに、また新しいミッションとか寿命が200年ぐらい縮みそうだよ」


「お兄ちゃんの総寿命何年だよ……」


 まどかが椅子の背もたれから頭だけを逆さになりながら突っ込んできた。


「1億年ぐらい……?」


「じゃぁ200年ぐらい誤差じゃん……」


「お前はそもそも1億年の寿命について疑問を持てよ……」


「お兄ちゃんはあらゆることが異常だから、寿命ぐらいそれぐらいあっても不思議じゃないかなって……」


「お前は僕をどんな風に見てるんだよ……。流石にジョークだって、寿命が延びてきている世の中とは言え100歳ぐらいで力尽きるだろうし満足だろ」


「あたしは、お兄ちゃんが同じ人間だとはとても思えないんだよなぁ~」


 コイツはあまりにも純粋過ぎるから僕のボケに対して、玲姉や島村さんとかと違ってガチで反応するからな……。


 それはそれで面白いから良いけどな。


「お前の今の状態も独特だけどな……」


 椅子は回転するのだから首を背もたれから頭だけを見せる必要性は無いわけだ……。頭に血が上って体にも良く無さそうなわけだが……。


「ほら、輝君もまどかちゃんもヘンなコントしてないで! 学校に遅れるわよ!」


「えっ……! 大学行くの!?」


「当たり前でしょ! 輝君たちは学生なんだから! 知美ちゃんは弁当受け取ってから静かにリビングを出ていったわよ!」


「えっ!?」


 その言葉で僕が学生であることを今更ながら思い出した。僕は最近、事件とお友達になり過ぎて授業が免除され続けていたからな……。


「虻輝様、用意してあるのでこれ持っていってください。自分のお立場を忘れるとか、もうお爺さんなんじゃないですか?」


 烏丸は無意味に用意が良かった。

 コイツのニタニタした表情を昨日久しぶりに見た時は、こんな気に障るようなふざけた表情や毒舌でも懐かしく感じたものだ……。


 そして、気が付けば島村さんが霧のように消えていた……。と言うか、皆出社してしまったのか、10人いたのに気が付けば玲姉とまどかと烏丸しかいない。


 そう言えば島村さんと僕は同じ大学なんだから、せめて声ぐらいかけてくれよ……。

 

 僕は、急いでご飯を食べてから弁当を受け取り、あちこちぶつけたり躓いたり、まどかと口論になりながら、玄関に急いだのだった。

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