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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第76話 計画された「神」

 ずっと祈り続けていた長老がスッと立ち上がると何かを話し始めた。

厳粛な雰囲気で他の島民が聞いているのを見ると、重大そうなことだと思うのだが――全く分からない(笑)。


 いかに崇高な話や重大な話であったとしても意味が分からなくては何も意味をなさない。


「為継、何を言っているのか翻訳してくれ」


「ええ。たった今、遠隔機能を使って翻訳を行っています――どうやら、これからあの長老は“神様の声”を聞くそうです」


「……え? この島の神様って話せるの?」


 てっきり、“御神木”として祀っているだけかと思っていた……。


「実際のところは“そんな気がする”程度だと思いますぞ。

 粗暴な男女が揃っている中、一つに統率するためには神の役割は大きいのでしょう。

 昨日の宴会で私はこの島の歴史を聞きましたが、かつては200人ほどいた島民がいたのですが、食料が不足し、争奪のための殺し合いによって10人まで減ったそうです」


「え……確かに“武闘派“かもしれないと思ったけど、そんなに血みどろの争いがあったのか……」


「その際に御神木が平穏と安らぎ、そして食料採取方法を与えてくれたためにその10人は最後の1人なるまでの最悪の戦いをすることを避けられたそうです」


「そういう歴史があったのか……。と言うかいつの間にそんな話を……」


「データを集めれば集めるほどそのコミュティがどういう方向性なのかが分かります。

 そして方向性さえわかれば、我々がどう対処すればいいか分かるという事です。

 万能な処方箋と言うのは存在しませんから、情報を収集した上で個別の処方箋を作っているという事です」


「なるほどねぇ……」


 “僕に対する処方箋”が密かにあると思うと何だか怖いけどな……。


「ただし、この手の話は“神話”に等しい話なので話半分に聞いた方が良いでしょう。

 誰もが“神話”を聞いて“本当に起きたことそのまま”とは思わないでしょう?」


「確かに、多少の誇張はあってしかるべきだろうな。実際のところは生産能力が上がる方法か保管方法を閃いただけに過ぎないとかだろうね」


「ただ、そう言った“信頼性が低い神話“と言う判断が我々に出来ているのは文化レベルが上がったことや、情報化社会で様々な情報を精査する力が身についているからです。

 文化レベルが低い地域では“神話”は非常に効果的だと思います」


「確かにそれしか情報が無ければ信じちゃいそうだよね。

 支配者は情報を絞りがちなのもそういう事か……。それで今はこの島の人口はどれぐらいなの?」


「今現在は人口60人ほどまで増えたそうです。

 ただ、私の分析では100人程度が食料自然生産の臨界点のような気がしますから、その付近まで人口まで戻れば再び諍いが始まると思われます。

 そのために平和な期間は一時的で、終わるのは時間の問題とは思いますがな」


「なるほど……僕たちを含めてもまだ“食料生産の臨界点に到達していない“から受け容れられたという事か……」


「原始的な生活をしている集落ほど食料や領土が重要になりますからな。

 臨界点が来るたびに争いと和平を繰り返して今まで過ごしてきたのでしょうな。

 それを“神の信託“で例えば”子供を生贄“など理不尽で強硬的な施策を行ってきたのだと思います。

 見たところこの島の子供世代は少なそうですし」


「“神様“ってそういう活用の仕方をするのか……。

 確かに“子供を口減らしのために殺せ!”と言われて受け容れにくいからな……」


「どんなに不都合で理不尽な要求でも“神様のためなら”許容できるようになるのですな。

 神話や宗教はそう言ったコミュニティ維持と発展のために政治的に活用されてきました。


 ただし、信託を受けている人間の信頼度が嘘、賄賂、好色、腐敗などで下がれば一気にその風習は見向きもされなくなるでしょう。紀元前のエジプト、ギリシャ、近世のローマ教皇などが最たる例だと思います。

 そうやってこれまで至る所で近代以前の歴史が動いてきたのです」


「上の人の高潔さが前提条件としてそう言った国家や共同体は成り立っているというわけか……。

 ここは閉鎖的な島だから近代以前の独裁的、宗教的な方法で統治しているという事なんだな。

 しかし、“良い独裁“と言うのはどうして崩れ去ってしまうんだ?」


「大抵、代が進むにしたがってその“統治方法の良さ”と言うのが分からなくなり、

 為政者の傲慢さから贅沢を好むようになり下の者たちを虐げるようになっていきます。

 国民側の教養が高まるとこの統治方法の“嘘”に気づいてしまうこともあるでしょう。

 これは地動説が真実なのにもかかわらず天動説を流布してきたカトリックなどに言えることです」


「なるほど……」


「また、外部からの侵略、気候の変化、経済の悪化など様々な影響が、同じことを続けることが出来ないという要素もあります。

 これは日本の江戸時代などに言えることですな」


「そうなると、“統治方法の悪さ”が目立ってくると、革命みたいなことが起きてしまうという事か」


「あの長老は皆から慕われているようですから彼が生きている間はコミュニティとして安定してそうです。

 民主的な政治制度は一見すると良さそうに見えますが、あくまでも“相対的に良い人物”が投票によって選ばれるに過ぎません。

 頂点に立つ人物が高潔な人物であれば独裁政治の方が良いのです。

 中々そう言った人物が続かないから独裁政治は終わっていったのですがね。

 権力は人を惑わせますから」


 この島の外の世界でもご隠居である虻頼が世界を“影”で制覇している。

 あくまでも“表向きの統治方法“として独裁制度が無くなっただけなのだろう……。


 人はどこまでも権力を求めるのかと思うと嫌な気持ちになった。ご隠居なんてそんな金や権力求めなくていいと思うのにな……。


「輝君、小早川君……雑談は後にしなさい……」


 小声で話しているつもりだったが玲姉から注意を受けた。

 

 腕を組んでいるため威圧感がスゲェ……。


 でも、正直なところ為継の話は難解過ぎて相槌を打っているだけで頭が割れそうな感じがしていたのでちょうどよかったとも言える……。


「――聞け」


「え?」


 そんな雑談をしていると、空から声が聞こえた気がした。


「お前たち聞け」


 ズンッ! と体の奥に響き渡るような低音が響き渡る! 勝手に背筋がピシッと伸びるのが分かった。


「明日、この島に100年に一度の厄災が降り注ぐ、決して外に出るな」


 島民の人たちは動揺しているのが分かった。

 皆跪いて祈ったり、頭を抱えたり、地べたを這いずり回ってみ悶えたりしている。

 かと思えば謎の歌を歌ったりしてお祭り騒ぎの一団もいる。


「もしも外に出るようなことがあれば、洗い流され! 永久に起き上がれなくなるだろう! 良いな!」


「〇△◇☆!」


 島民の人たちは一度に応答した。


 言葉は分からなくても何となく“承知しました!”と言っているような印象を受けた。


 しかし、この一連の流れには何となく表現できないものの“違和感”があった。


「為継……これは一体どういうことだ? 今何が起きたんだ?」


「どうやら“神様のお声”が聞こえたようですな」


「え……? さっきのやけに低音の声がそうだったの? 何となく“凄そう”という事だけは分かったんだけど……」


 確かに腹の底に“ドシン“と響き渡るような今まで聞いたことが無いような声ではあるが、日本語だったために違ったと思ったのだ。


「ええ。玲子さんが島民から聞いた話ではたまに“本当の声“と言うのが聞こえるとか」


 確かに島民の人たちは非常に敬服しているような雰囲気があった。


 しかしその話ではまだまだ違和感があった。


「でも、ここの島民に向けてなら日本語って言うのはおかしいんじゃないか?」


「それぞれの言語になって頭に直接的に響き渡るようです。

 今回はそれを再現するために電磁波を使って周りの木の上に機器を設置して脳に向かって直接的に働きかけるようにしました。

 コスモニューロンの小範囲版のような形です」

 

「え……そうなると、さっきの“声”って言うのは偽物!?」


 為継は少し“しまった!“と言う顔を一瞬した後に押し黙った。


 沈黙はある意味雄弁とも言える。


 僕は玲姉の方を見ると、余裕のある笑みを浮かべていた。


 これは悪巧みが成功した時の顔で、“してやったり”と言う感じで僕が絶叫している時などに浮かべるものであまり見たくないものだ……。


 僕が見ていることに気づくとその笑みをヒュッとひっこめた。


 そして、聞かなくても分かった――これは、神の声なんかじゃない。


 これが玲姉の”秘策”で、「計画通り」なんだ……。


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