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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第75話 予兆

2055年(恒平9年)11月20日 土曜日


 日の日差しが目に染みる――あっ! 朝だ! と思って一気に飛び起きると、


 イテテテテ! 太腿の筋肉がを中心に悲鳴を上げた!

昨日うさぎ跳びで身体の負荷がかかり過ぎたのだ。

 

 悪夢で目覚めが悪いのも嫌だが、こうして死んだように寝た後に体の節々がバラバラになりそうな痛みを味わうのも非常に嫌だ……。


 取り敢えず歯磨きでもしよう。昨日、この島の人から貸してもらった木の歯ブラシをもらった。


 この島は木の製品が多いようだ。この歯ブラシも何とも言えない感触で慣れるまで時間がかかりそうだ。


 ただ、これに慣れるようになってしまうと、脱出の方法が見いだせていない可能性が高い。


「お兄ちゃんおはよ――って、何そのゾンビみたいな顔!?」


「ここに流れ着いてからのストレスと、昨日の寝る前の特訓のせいだよ……。

 お前はうさぎ跳びがひょいひょいと出来て良いよな……。

 実は前世はウサギで、“ウサギまどか“や”ピョンピョンまどか“とかそういう名前が本名なんじゃ……。  あ、少なくとも芸名か何か持ってるだろ?」


「相変わらず意味わかんないことばっかり言って……。あたしは慣れてるからだよ。

お姉ちゃんと特訓をするのがね」


 僕は一生慣れたくない。


 慣れた時はもう墓場の下に埋まっているか神経が通っていないかもしれないからな……。


 命を代償にするのだ。


「ふぅ……僕はまどかと違って玲姉の弟じゃなくて本当に良かったよ。

 これ以上絞られたらたまらないね」


「いや、“玲姉”って呼んでる時点でお姉ちゃんだって認めてるじゃん……。

 ホント、よく分かんないことばっかり言うよね。

 アタマの中どうなってんの……?」


「いや、“玲姉”は敬称や尊称や称号であって“お姉ちゃん”と言う意味じゃないんだよ。

 僕にとって母であり、人生の道しるべであり、鬼教官でもあるんだ。

 つまり、様々な概念を包括した尊敬の念を込めているんだよ」

 

「あ、もういいよ……。でも凄いよね。ずっと一緒に暮らしているけど、意味不明で話についていけないことばっかりだもん……」


 もうまどかは褒めているのか貶しているのか分からないほど呆れてついていけないといった感じだった。


「昨晩、その玲姉が御神木を調査するために秘策があるらしいって話だったんだけど、

 お前何か知ってるか?」


 まどかの身体はピクッと反応した。


「んー、何にも~」


 途端に表情も引きつった。ははーん、どうやら玲姉から口止めされてんな。

 コイツはボロが出ないように隠し事をするときは返事が短く、表情が硬くなる。


 でも玲姉の言いつけなら口は割らないだろうからな……。

 つまり、隠し事があることが分かってもあまり意味が無い。


 でも、ここまで情報を封殺するとは一体玲姉は何をしようとしているんだ?


「ま、行けば分かるって言われてるし一緒に行こうよっ!」


「うわっ! 突然走り出すな! 体が裂けるっ!」


 まどかに引っ張られながら、砂浜辺りで皆で合流すると、どうやらまた御神木に行くという話になった。


 これは、何かあるかもしれないな……。


「どうやら。今日は月に一度祈りを捧げる会の日のようです。

 私たちも同席していいと許可をいただきました」


 為継はいつも感情が表に出ないが、玲姉やまどかの様子を見ると、

 どうにも一枚噛んでいる可能性が高い。


「為継、何を企んでいる? 何をしようとしている」


 蚊帳の外は嫌なので、もう率直に聞くことにした。


「私に任せて下されば、万事問題ありません。全面的にお任せください。

 急がなければ祈りを捧げる会に間に合わなくなりますので速やかに参りましょう」


 話を逸らされた……。これはきっと僕が聞けば真っ向から反対するような内容じゃないか? と思った。


しかし、その具体的な内容は全く見当もつかないところが僕の想像力の欠如を示している……。


「穴に落ちないで下さいね。ここら辺は足元が洞穴の入り口になっているところもありますから」


 島村さんが隣からやってきてそんなことを言ってきた。


「全く、僕を誰だと思っているんだ!? 穴ごときにこの僕が何度も落ちるわけが――ギャァー!」


 と、よそ見している間にものの見事に足を滑らせて穴の中に落ちていった。

何となくまだ寝惚けていてボーっとしていた感じが、土塗れになって一瞬で覚まされた感じだ……。


 そして、建山さんがサッとやってきて力強く引き上げてくれた。身長の高さも細さも僕と変わらない感じなのに物凄い差だと言えた……。


「だ、大丈夫ですか? 虻輝さんは単純な罠ほど引っ掛かりやすい習性でもあるんですか?

 ヴァーチャリストでも最初のステージで露骨に見えるトラップに引っかたんですよね……」

 (第3部14話)


 あれは、思い出したくもないほどの醜態だった……。

 知っているのが、よりにもよってこの建山さんと輝成と言うここにいるメンバーなのだからよっぽどだ……。


「しょ、初歩的過ぎると逆に注意力が下がるって言うか……。

 見えるところは逆に死角になるっていうか……」


「視力が悪いわけでも無さそうなのに見えないってどういう事なんですか?」


 島村さんが呆れ顔だ。建山さんも肯定はしないものの苦笑している。


「きっと、“誰かが助けてくれるから大丈夫”とかそういう甘い考えが頭の中にあるのよ。

 だから誰もが引っ掛からないところで間抜けに引っかかるんじゃない?」


「でも、それでよく難しい場面だと気づけますね……。

ゲームのプレイを見ても尋常では無さそうな動きをしていますけど……」


「緊迫している場面だと神経が研ぎ澄まされるとかじゃないの?

 小さい頃から何となくそんな感じがあるのよね~。

だからいつも本気を出していてもらわないと困るんだけど」


 玲姉と島村さんの率直で容赦のないやり取りは精神をボロボロにさせた……。


「は、はい。善処します……」


 僕は小さくなる思いだった……。


「あはは! お兄ちゃんあたしより小さくなってる感じがあるよ!」


「うるさい! お前より小さいことだけはアリエン!」


 まどかに小ささで馬鹿にされることは最も屈辱的だが、それを言われても仕方ないほどあからさまなところで落ちた(しかもこの島に来て2回目という)のは問題とも言えた……。


「楽しそうなお話のところ恐縮なのですが、

 もうすぐ到着しますので静かにしていただかないと困ります。

 彼らはそれだけあの大木を大切にしています。

 言葉が通じずとも、周りの雰囲気に合わせていただかないと……」


「はい……」


 為継が厳しい声で僕を叱責してきた。


 そんないつものやり取りをしながら、御神木の前に再び来たとき――僕は思わず息を飲んだ。


 僕は神様がいることを信じられない。


 世の中は戦争と嘘と欺瞞。僅かな虐げる人とそれに踏みにじられる大勢の虐げられる人で溢れている――こんな世界を作った神様がいるのだとしたらなんと残酷なのだろうと思ってならないからだ。


 でもそんな風に考える僕でさえも何か「崇高さ」みたい空気感をものを感じ、

 背筋が伸びるものを感じた。


 御神木の目の前には長老のような役割の人が昨日とは違った衣装を身に纏って跪いている。何かを口にしないまでも祈っているような姿勢だ。


 そこに斜め上から日差しがスッと差し込み、陽だまりと草木を模しているような衣装が神秘的な空間を作り出しているのだ。


 どちらかというと、荒くれ者の土建業者の集まりみたいな島民ではあるが、

 その彼らすらも厳粛に心を合わせているような感じだった。


 万物を創造した万能の神では無いかもしれないが、少なくとも「彼らの神様」がここにいるのだろう……。


 僕たちも蔑ろ(ないがしろ)に出来ないなと思った。


「私たちは末席ながら参列を許可されたみたいなの。

 いわゆる神様がいるかは分からないけどね。

でも、皆がまとまり、心が平穏になるのであれば、それで良いのではないかしら?」


「ああ……そうだな……」


 神や宗教はそう言った役割としては大きいのだろう。


 取り敢えずはこの場だけでも僕は手を合わせた。

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