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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第74話 歓迎会

もう夕方になりつつあったのでそのまま夕食のご相伴預かる――歓迎会に参加することになった。


 この間落ちたような穴を進んでいく。進めば進むほど、天井は低くなり、息をするのも困難になる――正直こんなところをで暮らしていけるのが凄い。

 

 ただ、彼らにとって選択肢がそれしかないとも言える……。

 案外長く住んでみれば都なのかもしれないけど……。


 洞穴の中は至る所にランプのようなものが一定間隔で備え付けられており、薄暗いものの慣れればどうにかなる程度の暗さだった。


 僕達がこの島に流れ着いてから食べていたモノとほとんど変わらないわけだが、

 盛り付けが花などや綺麗に焼かれた焼き物が違ったものに見せてくれた。


 恐らくはこういった宴会のような雰囲気は毎日ではないだろうから、僕たちをもてなしてくれているのだろうという事は分かった。


 だが、僕としては疑念が拭いきれなかった。

 どうにも信頼関係がこんなに早く構築されるとは思えない。


 未だに僕はお尻を地面に付けられないでいた。


「玲姉……彼らは大丈夫そうなの?」


 僕の隣に座る玲姉に囁くように聞いてみた。“宴会と見せかけた襲撃”が無いかどうか気になったからだ。


 そのために、僕たちの“いただきます”にあたる挨拶があっても安心できなかった。


 実際に、誰も容易に手を付けようとしていない。


「ええ。彼らは思ったよりも純粋そうね。戦った際に関節を外す程度にとどめたことと、何もせずに人質を解放したことを信頼に値すると思ってくれたみたい。

 どうやら今付けているお面も友好関係の時に付けるものみたいなのよ」


「へぇ。感情によって使い分けてるんだ」


 今の島民は、どちらかと色彩が豊かな自然を描いたような仮面を被っている。

 確かに先ほどのおどろおどろしい仮面とはかなり対照的だった。


「食べ物も大丈夫そう?」


 毒物の混入について懸念したからだ。この世の中には笑顔で死屍累々の殺戮するようなサイコパスも存在する。彼らがそう言った存在でないと否定する材料は存在しないからだ。


「先ほど翻訳を通じて話をしたところ、一緒にご飯を食べるというのは友好を結ぶという事を意味するそうよ。

 だから、そんなに心配すること無いと思うけど……。

 毒を気にするなら、先に食べようか? 私なら青酸カリや有機ヒ素化合物ぐらいなら大丈夫だし」


「あ、ああ……」


 玲姉の身体は毒物検査機かよ……。肌は透き通るほど綺麗だし信じられない……。

 

 僕はそんな玲姉がゆっくりと噛んで食べている姿を見守った。


 うーん、一つ一つの所作が改めて見ても洗練されていて美しい……。


 って! それどころじゃない! 体調に変化が無いか気にしてあげないと!


「うんっ! 美味しいわ! 味付けは独特だけど調理の仕方はちゃんとしているわね!」


 玲姉は頬っぺたに手を当てながらそう言った。


 そんなに言うならと思って、ようやくちゃんと座った。

 無意味に緊張して足が痺れていた……。


 そして、木のスプーンを取ろうとしたら手元で空を切った。玲姉に奪われたのだ。


「輝君も食べてみてよ~。あ~ん!」


「って! 食べさせるんかい! い、良いよ! 自分で食べられるんだからぁ!」


 僕が必死に抵抗するが、玲姉との力の差は歴然で口の中に強引に押し込められてしまう。


 咀嚼しながら何か周囲から強烈な視線を感じた……。特にまどかや建山さんの方向からは強烈な気がする……。


「あ、美味しい! 味付けも今まで味わったことが無いけど合ってるねぇ……」


 玲姉の感想と同じではあるが、事実なのだから仕方なかった。


 島の人たちは笑いながら僕たちの方を指さして何か言っている。


 とても気になった。


「為継、島の人たちは僕たちを何と言ってるんだ?」


「翻訳してみましょう――」


 為継がしばらくやり取りをして戻ってくる。


「どうやら、お二人の夫婦のような関係を微笑ましく思っているようです。

 当然実情は違いますので夫婦漫才ではありますが」


「そ、そんな……め、夫婦だなんて……」


 玲姉は顔が赤くなって身をくねらせ出した。しかし、漫才だとそんなに嬉しくもないような気も……。


「でも、それに近いものはあるだろうな。長年連れ添った老夫婦のような安心感が――」


 僕が言い終わる直前に玲姉が勢いよく立ち上がって僕に掴みかかってきた。


「わ た し はそんな年じゃないわよぉっ!」


 玲姉は目をギロリと目を剝いて僕に掴みかかる。

 僕は手足をバタバタとさせるが当然無意味な行動だ……。


 そんな僕たちを見て更に島民の人たちはドッと笑いが起きた。言葉は分かっていないにしろ、何かしらツボに入ったんだろうか……? 


 僕たちは完全に“見世物“となってしまっているようだった……。

 

「もぅ、恥ずかしいわ。こんなに笑われるだなんて……」


 玲姉は顔を真っ赤にして僕を席に座らせて自分も身だしなみを整えた。


「いや、玲姉が掴みかかってこなかったら騒動にならないだろ……」


「輝君が空気が読めないからでしょぉっ!」


 玲姉が小声ながら僕の耳にダイレクトで話しかけながら僕の膝をつねり上げた。


 グオッ! 叫びそうになった。足は痛みに耐え、耳は玲姉の息で快感に耐えた。

だが、無意味に注目の的にはなりたくなかったのでグッと堪えた。


 玲姉の考えについては熟知しているつもりだが、

 怒りの沸点が振り切る瞬間だけはどうにも掴めない。


 玲姉が怒っている時に毎回思うが、“ここで怒るか?”と思えるようなタイミングばかりだ。

 こちとら玲姉を最大限尊重しているつもりなのにさ……。


 そんなこんなで歓迎会は終わった。玲姉はお酒を飲みそうになったのを止めることに成功したのが最大の功績だった。

 お酒に劇的に弱いのにどうして飲みたがるのか全く理解が出来ないのだが……。


「ま、輝君がしょうも無いことを言ってくれたおかげで和やかなムードで歓迎会を終えることが出来たわ。

 恥を忍んで座り続けることになったけどね……」


「でも、歓迎されているみたいで良かったよ。

 ご飯は美味しかったし、お土産も貰ったしね」


 ここら辺の植物を使った花の冠を被せてもらった……玲姉をはじめとして女の子たちはより可愛さを強調してくれていいのだが、僕には到底似合わない(笑)。


「輝君もその冠可愛いわよ?」


 僕は思わずその冠を触った。


「僕は可愛いというよりSSS級イケメンの筈なんだが……。

それより、こんないい人たちなのに僕は疑って本当に嫌な奴だ……」


「警戒心が強いことは良いことだと思うけどね。無謀に突っ込んで死んでいったらリーダーとして失格だしね。

 ゲームと違って命は一つしかないものね。

 ゲーム大好きなのに意外と輝君はそこのところの理解をしてくれて助かるわね」


「せめてリアル社会でも“残機制度”にしてくれたら楽なんだけどね……」


「そういう制度になっても輝君ならすぐに残機“1”にしちゃうんじゃない?」


「ハハハ、言えてる! 定期的に残機が回復してくれると助かるんだけど」


「いずれにしても“残機”を無駄にしかねない輝君は今の状況の方がまだ命を大事にしそうで良いわね……」


 会話しているうちに外に出た。地下の密閉されたような感じと違って空気が美味しい。そこら中に穴が多いのも空気を補給するためなのかもしれないと思った。


「否定できないのが僕の性分でもあるしどうすることもできない……。

 しかし、どうしたものかね。御神木とやらを調査できなければどうにも脱出できる気がしないのだが……」


「そのことだけど、私に妙案があるわ。明日以降に実行しましょう」


「一体どんな方法なのさ?」


「う~ん……取り敢えずは他の皆と打ち合わせしてみるわ」


 玲姉は目を伏せながらちょっと困り顔だ。

 こういう時は僕に何か伝えたくない内容がある時だ。

 そして無理やり聞いても教えてくれないんだ。


 “嫌な妙案”な気がした。


「そう……僕はどのみち見守るしかないからね」


 何か嫌な予感がするが、玲姉はいつも僕より遥か先を行っている。きっと何か言えない最良の手段があるのだろう。


「それじゃ、最後にスクワットとうさぎ跳びをしてから寝るわよ~」


「えぇー!」


 本当に最後までシゴイてくるなと思った……。

 でも、笑顔が綺麗なんだから憎めない……。


 満天の星空の下でうさぎ跳びをしながら、つくづく自分の弱さを痛感させられた瞬間だった……。

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