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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第73話 友好への話し合い

 何やら集団を後ろに従えて僕たちの前に現れたトニーさん一行を見て僕たちは総毛だった。


 しかし、そんな中でも玲姉と為継は冷静そうだった。

 思わず飛び出そうとした建山さんを制止したのだ。


「建山さん。まだ判断をするには早すぎるわ。襲ってくるようなら攻撃をすればいいのよ。

 私なら多少の飛び道具ならすぐに対処できるから」


「は、はい……」


「輝成、景親早まるな。まずは対話をして、それから人質をどうするか決めることにしよう」


 為継が真っ先に動いた2人の肩に手を置き、他の6人に向かって言った。


「お、おう……為継がそう言うのなら」


「私たちは島民と話をしていないからな2人の判断に任せる。

 それまで何もするなよ景親」


「さ、流石に何もしねぇよ……」


 どうだかな……と為継の眼は語っている気がした。

 確かに景親は突発的に何をしでかすか分からない感じがあるからな……。


 建山さんと景親と輝成は鋭い目つきのまま人質の周囲に待機するのみとした。

 

「交渉は私がするわ。翻訳機を貸して」


 為継がサッと荷物に移動してパッと投げて玲姉に渡した。


「皆はなるべく笑顔で待っていてね~」

 

 そう言って玲姉が相変わらず自信がありそうな足取りで歩いて行っているので自信があるのだろう。

 手を振って近づき握手をしている。


 一方残る8人の僕たちは固唾かたずを飲みながらその推移を見守っているので随分と対照的だ……。


 皆、玲姉の言いつけを守りつつ、不安と緊迫が表に出たような引きつった笑顔をしている……。


 玲姉は翻訳機を使いながらも楽しそうに話している様子が伺えた。


 15分ほど話をしているのを見守っていると終始和やかな様子であり、緑色の羽を持つ鳥が玲姉の肩に一時は留まったほどだ。

一触即発の状況になら無さそうだという事だけは分かった。


 玲姉がブチ切れたら鳥が止まるどころか、周りの植物が死に絶えるんじゃないかと思える殺気が放たれるからな……僕が怒らせることが多いわけだが(笑)。


 そうなっていないことから見ると色よい返事があったことが推測された。


「みんな~! こっち来て~! 大丈夫そうよ~」


 玲姉が左手を口元に据え、右手をブンブンと振っている。


 僕たちはそれぞれ見合った。

 隣にいたのは建山さんだったが、その顔は整っているが眉を寄せている。

 半信半疑なのだ。


「玲姉の判断にミスはない。ここで戸惑っている方が悪い相談をしていると誤解されて悪い結果になるかもしれない。皆、行くぞ」


 そう言って僕は先頭を切って歩き出した。僕が行くとなればやむを得ないといった形で後に皆続いていくのが分かった。


「玲子さんに限って騙されることは無いと思いますけど、諸手を挙げて歓迎してくれるとも思えないんですよね……」


「そりゃ、そうだ。彼らから見たら僕たちは侵略者なんだからな。

 その上に仲間をボコボコにして拘束までしたんだ。

 良い感情を持っていると考える方が異常だ」


「この僅かな時間でそんなに説得が出来たんでしょうか? 翻訳している時間を含めたら実質的に半分の交渉時間ですよ?」


「確かにそうだよな。何か魔法のような口上を述べたのだろうか……」


 僕と建山さんがそんな話を小声でしながら玲姉の下に着くと、


「ほらほら~。口角を上げて~! 笑顔! 笑顔!」


 と、無理やり口角を上げさせられ、眉間の皴を伸ばさせた。


 建山さんは不気味とも言える笑顔に強制的にさせられている。

 きっと僕も他人のことを言えないだろう。


「それで、どういう話し合いだったんだ?」


「お互いに戦う気持ちは無いという事で一致したわ。

 食べ物については私たちの人数分に見合った量を保障してくれるみたい。

 ここを脱出する方法についてはよく分からないし、そもそもこの島から出たいと思ったことも無いというお話だったわ」


「おぉ……そこまで話し合いがついたとは……」


 理想的な条件が並べられている。


「長老さんが来てくださって最終的な会話をできたのが大きかったわね。

 トニーさんは素晴らしい働きをしてくれたわ」


 確かに白いひげを蓄えた人が彼らの中心にいた。

 結構なご年配のようだが、背筋がピシッと伸びているのが特徴的だった。


「つまり、あたしたちのここでの生活は安泰だってことだね!?」


 まどかはジャンプをしながら喜んでいる。相変わらず単純な奴だった。

 こんな能天気な思考でいられたら僕もどんなに楽だったか分からない。


 玲姉の雰囲気からは、何となくそれだけでは済まされないことが分かる。


 次から言われることは聞きたくない気がした……。


「ただ、一つ絶対に守らなくてはいけない条件を提示されたわ。

 あの大木――御神木には絶対に触れてはいけないという事よ」


「え……」


 それは頭を抱えたくなるぐらい困る話だった。


 あの大木を分析できなければ、この島を脱出するきっかけを掴むこともできなければ、

 島民を救出する交渉もできない……。


「なんと……その条件は吞まれたのですか?」


「ええ。勿論よ。そうで無ければただちに島から出ていって欲しい! とそこだけは凄い剣幕だったから、私たちの居場所は無さそうなのよ。

 あの御神木は命よりも大事な存在みたいで、島民の中でも村長以外は触れることすらも許されないみたいね」


 為継は大きく溜息を吐いた。無理もない。僕もそうだが、最大のポイントだと思っていたからだ。


「えぇ……それじゃどうするのさ……」


「どうやら私たちのために歓迎会を開いてくれるみたいだし。

 美味しいご飯を食べてから考えましょう~。

 捕まえた人たちを解放してあげて~」


 何とお気楽な。そんなノリで大丈夫なのかよ――と言おうとしたが、玲姉の瞳は全くお気楽そうな感じではなく緊迫しているような感じすらした。


 そして――私に話を合わせて。と、瞳が語っているような気がした。

 

 ここは笑顔でやり取りしているという事で相手に対して安心感を与えたいのだろう。

 言語が通じないために僕たちが戸惑っていることも伝わりにくいのは大きい。


 納得のできる話は、後で問質す(といただす)しかないように思えた。


「……分かりました。全面的に納得は出来ていませんが、時間も無いようですし、

 この判断が総合的に見て大丈夫だというあなたを信じることにします。

 いずれにせよ玲子さん無しではこの局面を打開できませんからな。

 輝成、景親。人質の解放を」


「はいよ」


 為継達3人は不承不承と言った様子で、人質を拘束しているロープを切り始めた。

 為継もきっと僕と同じことを玲姉から感じ取ったのだろう。

 

「みんな、協力ありがとね~」


 玲姉は相変わらず口元と目元はニコニコと笑っているが、頬は固くなってきていた。

 

 これは表面上の笑顔に近い状態だ。

 体は半歩前のめりになっており、何か起きた瞬間に反応できるようにしている。

 何かしら警戒をしているに違いない。


 人質になっていた人たちは、仲間の下に向かいその後で互いに抱き合っている。


 よく分からない言語を叫びながら涙を流す者もいた。


 全く知らない相手とは言え感動的な場面だな。ほとんど誰も怪我をしていないようだし良かった――と思いつつも、一方で僕たちの身の保障はどうなるのか不透明になった瞬間でもある。


 複雑な気持ちでその様子を見守っていた。

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