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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第72話 アメとムチの交渉術

 ふぅ~、と玲姉は一息ついた。


「取り敢えずは、なんとかなりそうね」


 僕たちは走り去っていくトニーさんを見送った。

 トニーさんは何度も、何度もこちらを振り返りながら走って遠ざかっていく。


 恐らくは背後から攻撃されることを懸念しているのだろう。

 

 時期に穴に入ったのか姿が突如として消えていった。


「ちゃんと伝えてくれると良いんですけど……」


「大丈夫よ。トニーさんは当初は敵意を剥き出しにしていて暴れかねない雰囲気があったけれども、今は私の意図を汲み取ってくれている感じすらあるわ」


 本当に相手の思考が分かるというのはメリットが大きい。

 特にこの島の人たちは玲姉の能力について全く知らないから尚更効果があるだろう。


 知ってしまえば不気味に思ってしまう可能性があり、信頼関係を築けないからだ。


 ――結局のところ、一番交流が出来ているトニーさんを活用して島の人を説得する方向になった。

 

 ただし、残る捕縛した島民はそのままであるために、人質解放と引き換えに僕たちの安全を保障するというものだ。


 身代金を要求して脅迫しているような感じで嫌ではあるが、こちらの身の保障も無ければあまりにも怖すぎる。


 お互いに生存のために必死なのだ。極限状態では綺麗事を言っていられないのは悲しいものだ……。


「途中何言ってるのか分からないことがあったんだけど……あれは何だったの?」


「時折インプットできていない単語についてはこのように翻訳してくれないことがあります。その都度修正を行い、適切な用語を探すことを行っています」


「これは確か前も翻訳できなかったわねぇ……多分お面のことだと思うわ。

 この島独自の言い方だから、認識できていないのかもしれないわね」


「ふむ、修正しておきましょう。もう大丈夫だと思っていたのですが、私の作り上げた言語学習AIにも穴があったという事ですな」


 為継が眉間に皴を寄せながらモニターを操っていた。


「しかしたった2時間でこんなにも出来るだなんてちょっと信じられないレベルだね」


「暫定的に用語を探しているので、翻訳ミスも多くあると思います。

 ただ、大筋では間違っていないと思うので、このように会話として成立しているという事です。

 明らかに間違えたことがわかる場合にはこうやって修正していきますが」


「ふぅむ。それにしても大したものだねぇ。

 ところで先ほどの会話で気になったのは、

 この島を脱出した際の“この島の人たちの保障”というのはどうするの?」


「正直な話そんなことは出来ないから“信頼”で何とかするしかないわね」


「えぇ……そんなので大丈夫なの?」


「そこで輝君が活躍するんじゃなぁ~い! 今こそ“虻利家の力“を見せるときよ☆」


「そ、そんなぁ……」


「一番良いところを持っていくと思って前向きに捉えなさいよぉ~」


 とんでもない仕事を任されちゃったぁ~。

と続けようとしたが、一番とんでもない“言語の壁“や”島民に殺されてしまう事”は越えてしまったのだからそんなに文句を言ってはいけないのだろう……。


「私も全面的にバックアップしますのでご安心を。

 局長に島民の保障と危険な実験をさせないことに対して全力を尽くします。

 しかし、そのためには“取引材料”が必要です。

 この大木を解析しなくて局長を納得させるデータを収集しなくてはなりません。

 この島を脱出するためにも必要なことですしな」


「この大木についても独特な言い方をしていたわよね――日本語で発音するなら“マンジュ“とでも言えばいいのかしら? ”御神木”と翻訳するようにしたんだっけ?」

 

「ええ。とても大事にしている様子で、中々解析させてくれそうにありません。

 私たちが襲われたのも大木に近づいたからだと言っていましたからな」


「なるほど、それはとても厄介だな……。

 確かにそれまでは全く接触しようとすらしてこなかったんだからよほど大事にしているという事なんだろう」


 僕で例えるならレアモノのゲーム機やグッズを奪われるようなものか? でも、僕にとって大事でも周りの皆にとって大事じゃないからなぁ……。


 僕の範囲のモノでは形容できないのかもしれない……。


「でも、今現在はそんなに焦る段階では無いと思うのよ。

 生死が関わるような状況になるかどうかは、どちらかというと島の方たちを怒らせた場合ではないかしら?

 ここは友好関係を結んで、相手との信頼関係を構築することの方が大切ではないかしら?」


 僕としては一刻も早く日本に帰って安心できる場所でゲームの練習をしたいのだがな……。


「しっかし、彼らから見たら僕たちはむしろ“侵略者疑惑”があるわけだろ?

 しかも、このように人質まで取って脅迫じみたことをしているわけだ。

 一体その状況からどうやって信頼関係なんて構築していくのさ?」


 僕が相手ならこんなやり方に対しては断固として抵抗したくなる――もっとも、その抵抗する力が存在しないわけだが(笑)。


「交渉事には優しくするところと強く出るところを分けなくてはならないわ。

 いわゆる“アメとムチ”と言う奴ね。

 笑顔は優しさを見せるため、人質は交渉のテーブルにつかせるためよ」


「玲子さんは経営者としても成功されていますから、そのシビアな判断が出来ますよね……」


 建山さんはしきりに感心していた。

どちらかと言うと、目星をつけている相手を直線的に捕まえに行ってそうな印象を受けるからな……。


「私は相手の思考が分かるメリットが大きいのがあるわね。

 先回りして相手が喜びそうなことを言えば、それだけで友好関係を築けるからね。

 友好関係さえ築ければ交渉することは簡単なことよ」


 小さい頃はこの力を恨んだものだけどもね。と、小さく付け加えたのを僕は聞き逃さなかった。


 僕がそんな力を持っていたら活用する前に、相手の思考が聞こえている時点で発狂しちゃいそうだからな……。


 お前! そんなこと考えてるのかよ! とか、言って掴みかかりそう……。


「でも、皆が皆玲子さんのようになれるわけでは無いので、私たちはそれぞれの役割を果たせるように頑張りますね」


「うん! そうだよ! お姉ちゃんだけに良いところ独占させないんだからっ!」


 島村さんとまどかはそれぞれ“らしい”前向きな発言をしてくれた。


「いずれにせよ、トニーさんの交渉が破綻すれば終わりかもしれないのか……」


「終わりでは無いと思うけど、振出しには戻るかもしれないわね」


「最悪の選択肢は取りたくないですけどね……」


 建山さんの言う“最悪の選択肢”と言うのは“相手の皆殺し”を意味するのだろう。

 ここは法律の及ばぬ領域、人として認知されていない人たちを“正当防衛”として殺しても罪に問われない――そんな目覚めの悪い選択肢は誰も取りたくなかった。


 ブルッと体が震えた。悪寒が走ったのかもしれない。


「そんなことにはさせないから大丈夫よ。私に任せてくれれば短期で決まるか長期戦になるかの違いでしか無いんだから」

 

 そんな会話をしていると、ガヤガヤと話し声が聞こえると共にトニーさんを先頭に一団が戻ってきた。


 しかも、先ほどとは後ろに従えている島民の仮面が何か違う!


 ま、まさか……! トニーさんが裏切ったのか!


 景親と輝成がすかさず人質に向かう。少しでもヘンな動きをすれば人質の命は無いという姿勢を示すためだろう。


 島村さんと建山さんは目つきを鋭くし殺気を漂わせた……。


 再び戦いが始まってしまうのだろうか……。

 今度は血で血を洗うような戦いになってしまうのだろうか……。

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