表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第2章 悪夢の共闘

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/379

第11話 悪ガキとの交流

「なるほど、なかなか良い家に住まれているのですね」


島村さんが高橋さんの家を見るとふと呟いた。

確かに、ベビーシッターを雇っているだけあってシックな西洋のレンガを意識した豪邸でなかなかの家住まいと言える。立地が不便なところ以外は魅力的な家と言える。

もしかすると、自分の境遇と比較しているのかもしれない。


「おはようございます、帝君大学万屋の者です。お子さんのお世話に参りました」


「お入りください」

 門が開錠された音がして僕たちは家の中に入っていった。


「ようこそ万屋の皆さん。お越しいただいて嬉しいです」

 目立った顔立ちではないが、この豪邸にあった清楚で品がある雰囲気の持ち主の女性だ。

この人が僕たちと同じ大学生とは思えない。

まぁ、島村さんも僕より年下とは思えないが……あれ、もしかして僕が幼いだけかひょっとして?


「おはようございます。帝君大学万屋代表の虻利虻輝です。本日はよろしくお願いします」

 そう言って僕は電子名刺を取り出す。電子名刺は便利でコスモニューロンを持っている同士ならば簡単にやり取りできる上に整理することも簡単だ。

また、自分の開示する情報を選択して自在に作ることが出来る。


 普段は会社の役職が入った名刺やeスポーツのチームの名刺だが、まさかの万屋のための名刺をわざわざ作ったのだ……。


「あら……あなた、もしかしてゲーム世界王者の方ではありませんか?」


「ええ、一応そうですけど。本日はそのために来たのではありませんので……」


「弟が、虻利5冠王の大ファンなんですよっ! まさかご本人に来ていただけるだなんて! 報酬は3000円なんて言わずにもっと受け取ってください」


 いやぁ、ようやく僕の価値を分かってくれる人が出てきてくれた。流石に家では蔑ろにされすぎているからな……。

しかし、ここで3000円を超えて受け取ってしまっては島村さんに何と言われるか分からない。


「いやいや、こちらとしてはボランティアみたいなものでしてお気になさらず。

そうでしたかぁ。きっと良い弟さんなんでしょうねぇ」


「まぁ、謙虚な方でもあるんですね。私はもう出かけるので。後のことはよろしくお願いします! 妹のオムツやミルクはリビングにありますからそれを使ってください!」

 高橋さんはそう言って荷物を背負って慌ただしく出ていった。


「はい、お気を付けていってらっしゃい」


「なかなか感じのいい人でしたね」

 僕が代表と名乗ったからか最初の挨拶をしてから何も発しなかった島村さんがそんなことを言った。


「じゃぁ、僕は弟のほうを担当するから。島村さんは妹さんのほうを頼むよ」


「分かりました」

 僕はそういいながらリビングのドアを開いた。


「くらえー!」


「え?」

 そう言われながら水を顔にモロに受けた。顔だけでなく服の上の方も濡れた。こういうのは乾かないと気持ち悪いんだ……。


「アハハッ! 水びたしになってやんの~」

 ガキが水鉄砲をもって爆笑している。


「おい、貴様シバクぞおらぁ!」

つい、口が悪くなり拳を突き上げた。普段はあまり怒らないつもりなのだが、先ほどまでの“僕のことを慕ってくれる弟”という理想像を一瞬にして打ち砕いてくれたので怒りの沸点に一気に到達した。格の違いというのを見せてやる……!


「お、落ち着いてくださいっ! まだ子供なんですからっ!」

そう、島村さんに僕の左腕を掴まれて止められた次の瞬間だった。島村さんの横顔もびしょ濡れになった。島村さんの顔面にも水鉄砲を受けていたのだ……。


「……お、落ち着いて私。スーゥ、ハーッ。私は、島村知美。ねぇ、君名前なんて言うのかな? お姉さんたちは今日1日君たちと仲良くするために清美お姉さんから頼まれてきたんだけどな」


 島村さんは怒りの表情を一瞬見せたがすぐに気を取り直した。流石と言わざるを得ない。

僕なら怒ってシメてそう……いや、島村さんがいなかったら“教育”と称して制裁を加えていたに違いない。僕より1つ年下でありながら島村さんのほうが“大人“だった。


「知ってるよ。法村さん来れなくなったから代わりの人が来るって」

 法村さんというのは本来のベビーシッターの人らしい。その人も相当苦労してそうというのが窺える。


「俺は祥太! んで、あっちで寝てるのは妹の灯里あかり


「僕は、虻利虻輝。祥太君よろしくね」

 僕も島村さんもハンドタオルで顔を拭いた。やっぱり、服の襟にも一部濡れていて微妙に気持ちが悪い。


「あぶかがあぶてる……へぇ、世界王者5冠王もそんな名前だった。最近流行ってる名前なんだ」


「あんのぉ~、一応は本人なんですけどー」


「えー、嘘だぁ。画面の向こうでしか見たことがないけどもっとカッコイイし! そんな間抜けズラじゃねぇーし! あ、それとも名乗ってるだけで本当は別の名前なんでしょ?」

 島村さんが横で顔を手で覆いながら笑いを堪えている。

皆でバカにしやがって……威厳というのを全く見せられていない。くそー!


「次元の違うプレイを見せてやる、何でもいいからゲームで勝負だ!」


「いいよ。なら、俺の一番得意なFVで勝負だ!」


「ほぉ、祥太もFVが一番得意なんだな。僕も実を言うと一番自信がある。せっかくだからハンデ戦にしてやろう」


「へっ、その必要はないぜ! 対等の条件で勝負だ!」


 このFVという格闘ゲームにはハンデ戦モードというのがあり、特に実力差が歴然としている者同士の対決だと弱いほうが同じ攻撃を受けてもダメージが軽減され、逆に弱いほうの攻撃はダメージが増幅するというモードが存在する。


 ちなみに公式レーティング戦でも導入されており、ダメージ倍率が高ければ高いほどレートが多く貰えたり逆に負けてもレートの減りが少ないので僕は好んで戦っている。


「ふぅん、そう。なら折角だから生のプレイを見せてあげよう」

 僕はそう言ってリアルデバイスを取り出してゲームを起動した。


「へぇ、ダッシュ・ウルフ使うとは偽物でも分かってるじゃん」

 ちなみにダッシュ・ウルフというキャラは玄人向けのキャラの一つでコンボ重視の攻撃を得意としている。


 連鎖コンボが決まれば大きなダメージを与えられるが決められなければ全く与えられないという程に練度が要求される。相変わらず偽物だと思われているのはとても心外だが祥太がある程度このゲームをやりこんでいることは窺い知れた。


「いつまでそんなことを言っていられるかな?」

 僕はここまでコテンパンにやられたのだから、手加減など一切しない。1戦目2戦目共に20秒弱で祥太のキャラを一方的にねじ伏せた。他愛もないことだった。


「マ、マジか……」


「どうだ? 分かったかね次元の違いを!」

 本来ならこの程度のレベルの相手に勝ったところで何の感傷も湧かない。

しかし、最近は家じゃ散々馬鹿にされているし、祥太にも水を浴びせられるし、偽物扱いされるしでストレスが体中に蓄積していっていたので、それらのストレスが全身から解消されていったのが分かった。


「あ、あの……もう1回お願いできますか? 今度はハンデ300%で……」

 祥太も僕がホンモノの世界王者だということが分かりつつあるのだろう。

先ほどとは言葉も態度も全く違う。


「もともとそういうつもりだった。構わんよ」

 今度は40秒前後かかったが手数がかかっただけで一方的な展開であることには変わらない。


「つ……つぇぇ……」

 正直あまりにも実力や動きに差があるから一方的になるのも当たり前だった。


「本当に世界的プレイヤーだったのですね……。ゲームについてよくわからないですけど、その指の捌き方は並の動きではなく、凄いということだけはわかります」

 

 島村さんも気が付けば僕の後ろから見ており、これまでの中で一番距離が近いのではないだろうか……。

「ハハハ! 島村さんも分かっただろう僕の実力が!」


「まぁ、分かりましたけど。だからと言って調子に乗っていいわけじゃないと思います」


「あ……そうですか……」

 島村さんはあっという間に立ち去っていき、灯里ちゃんのほうに向かって何やら声をかけているようだった。く、くそ……いつか見返してやる……。


「なぁなぁ……カノジョと上手くいってないの?」

 祥太の奴が肘で僕をつついてそんなことを言ってきた。愚かにも何も見えていないらしい……。


「いや、そもそも島村さんは彼女でも何でもないんで……。

万屋のメンバーという以外一致点は存在しないね。むしろ犬猿の仲だよ」

 ここで肯定してしまったら島村さんがここぞとばかりに聞きつけて穴だらけにされることだろう……クワバラクワバラ……。

 

一緒に暮らしているとか言うと余計な情報になりそうだから言わないでおこう……。


「あ、そうなんだ。虻輝さんでもモテないわけ?」

 気が付けば偽物呼ばわりから“さん付け”に昇格していた。まどかや島村さんもこれぐらい物分かりがよくなれば話は早いんだがな……。


「ファンレターとかは星の数ほど来るけどね。僕はほとんど中身を見たことがないけど(笑)

 これでも色々と大変なんだよ」

 

 半分は僕のファンが確かに送ってくれたものなのだが、残り半分は“ファンレター“という名のやっかみみたいなのも多い。刃物などの凶器が入っていたり、「死」と赤文字で大きく1文字だけ書いてあったりしたこともあった。


 大半は美甘が処理してくれて僕は目に触れることがないが、そういう”特別な”報告だけは存在しているのだと情報は貰っている。

 

 虻利家にそれを伝えれば“消して”くれるだろうけど、僕はそこまではしたくない。

 ……いずれにせよこの子にはいろいろと早すぎる話だからそこまでは話さないでおくが。


「へー、意外だなぁ。それだけ金持ちの家に生まれてそんなにゲームで稼ぎまくってたらもっと幸せなんかと思ってたよ」


「まぁ、今日明日のご飯に困っているわけじゃないのは確かだけどな。

 その点は十分恵まれているとは思う。

でも、現実はそんなに甘くないし、地位があったり有名だったらそれだけ別の方向で色々なことがあるんだよ」


 いわゆる“有名税”という奴である。


「フーン」

辛気臭い話は僕も嫌いだし、祥太も聞きたくないだろう。


「ところでさ、もっとFVがうまくなる方法教えてあげようか?」


「えっ! ホント!?」


「うん、ちょっとNPC相手に戦っているところ見せてよ」


「わかった!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ