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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第69話 引けない籤

「それじゃぁね。皆、私たちが翻訳システムを作っている間に良い笑顔を頼むわよ~」


 と、玲姉が為継を引き連れて仮面の人達に向かって歩いていく。


 未知の言語を解読するという超重要任務であるにも関わらずいつも通りだ。

 むしろ足取りは全く臆することなく、テキパキと為継に指示を与えており、自信に溢れていた。


 僕は正直、先ほど弓を向けられた相手。しかも縛り付けられて唸り声を上げているような人に対して笑顔でいられるかすら分からなかった……。


「やはり組み分けが重要かと。見回り班とは別に“笑顔グループ”を作るんです。

 ということで、また籤引きで決めませんか? 勿論引くのは私が最後で構いませんから。

 この中では虻輝さんだけ誰かと組まれるようにしておきます」


 建山さんは籤引きが好きで、いつの間にか籤を用意しているわけなのだが、

 ここに来てから籤引きをして班分けを決めることが増えたな……。


 どうにも“僕と誰を組み合わせるのか問題“というのがあるらしく、

 その問題を回避するためらしかった――僕にはどうして僕と一緒に組みたいのかサッパリ分からないわけなのだが……。


 もしかすると、僕を“イビる”ことをこぞって狙っているのかもしれない……。

 何と恐ろしいことなんだ……。


「次、虻輝さんの番ですよ」


 気が付けば残る籤は3つになっている。


 僕は一番右の籤を引こうとした――が、建山さんはギュッと握って引かせることを明らかに拒んでいる……。


「――あのぉ。この籤引かせてくれないの?」


「え……? どうしてもこの籤が良いんですか?」


 建山さんは平静を装っているが、明確な拒否反応を示している。


「特に拘りは無かったけど、こんなにも拒否されると逆に興味が出てきて欲しくなるって言うか……」


 建山さんが握力が強すぎるのか1ミリも引き抜けない。


 しかし、建山さんに対して僕がインセンティブを握っているというのはかなり異例な状況と言える。

 いつもかなりリードされているためにちょっとでもここで立場を改善しておかないと……。


「……どうしてもこの籤が欲しいですか?」


「……拒否されると逆に欲しくなっちゃうな。意地悪したいわけじゃないけどさ」


「なるほど虻輝さんらしい天邪鬼ぶり――仕方ないですねぇ。でも、後悔しないで下さいね? 返品はお断りします」


 地面に組み合わせが書き出されているが、完全に空白の組み合わせが一つ。島村さん(C-1)の隣が一つ空いていることを今知った。


 そして引いた籤はC―2と――島村さんの隣だった。


 残る1組も自動的に決まったために、解散する運びとなった。


「ね? 良くない相手だったでしょう?」


 建山さんが別れ際にそう耳元に囁いてきた。


 この籤が僕と島村さんとコンビになることを建山さんは分かっていたのだろうか……。


 気が付けば僕と島村さんだけが残された。





 虻輝さんが嫌そうに籤を確認して固まっているのを見て改めて自分の立場を自覚しました。

 私と同じ空気を吸いたくも無いのでしょう……。他の方と一緒の時はこんな反応をされないですから……。


 虻輝さんは玲子さんやまどかちゃんは勿論のこと、建山さんも自然に話せているのに……。


 私だけ虻輝さんとの間に見えない分厚い壁があるような気がします。

 胸が大きいことは多少のアピールポイントになっているみたいですけど、

 それだけでは全く届きそうにありません。


 こんなにも身体が触れ合えそうなぐらいに近くにいるのに――。


 そもそも嫌われているんですから仕方ないですよね。


 私が当初は避けていて邪険に扱っていたのですから、その後掌を返したように好きになったからって、近づき直して全てが上手くいくはずが無いです。


 そんなことは当然分かっているんですけど、どうしても諦めきれません……。


 自分の命も虻輝さんに救われましたし、一挙手一投足が気になって仕方ありません。

もうあなたがいない世界なんて私は考えることが出来ないんですよ……。


 でも、どうしても手に入らないものだと分かっているのに、忘れることが出来ない。

そんな私はもう狂っていっているのかもしれません……。


 例え“負け戦”だとしても、これから心がボロボロになることが分かっていても、

 私は向かっていくしかないんです。


「あの……島村さん? 大丈夫? 焦点が定まっていないみたいだけど――体調が悪いなら玲姉や為継に申告したら?」

 

 私が色々と考えていると、虻輝さんは心配しているような言葉をかけてきますが、体のいい1人になる言葉を紡いでいるようにしか見えません……。


 それだけ私と離れたいんでしょうね……。


「いえ、大丈夫です。それより、私たちの任務を全うしないと」


「そ、そう……無理しなくて良いんだけど……」


 折角の籤でのチャンスをこんな形でふいにしてしまうかもしれないだなんて私は本当に駄目ですね……。


「ちょっとぉ~! お兄ちゃんたちっ! なんかカップルが初めてぎこちないデートしたみたいになってるけど、笑顔で安心させるのが役目なの覚えてる~?」


 まどかちゃんがパタパタと足音を立てて走ってきました。

 伊勢さんと同じ組み合わせだったので、あまり相性が良くないのかもしれません……。


「そ、そ、そんな! カップルだなんて!」


「そうだよ! 島村さんに悪いじゃないか! 島村さんは僕となんて絶対にお断りだよ!」


 思わず倒れそうになりました……。私は嬉しい方で動揺しているんですけど……。


 むしろ、恋人同士になることを希望しているんですけど……。


 本当に空気が読めない人なんですね……。


「え~? そうかな~? そういう風には見えないけどなぁ~」


「お前は本当に気楽そうで良いよなぁ~。頭の中がお花畑だからそういう風に見えるだけじゃないのかぁ?」

 

 まどかちゃんはムッとした顔になりました。


 まどかちゃんは虻輝さんの前だからユルユルな顔をしているだけで、

 本当は凄く色々なことを考えて、悩んで、苦しんでいるのに……。


 そんなことを露とも知らない虻輝さんの方がよっぽど頭の中がお花畑のような……。


「お兄ちゃんたちがフクザツに考えすぎなんじゃないの?

 お姉ちゃんが言ってたよ。“輝君と知美ちゃんは頭の中で色々と考えて行動しないのが問題じゃない?”って」

 

「プフッ! お前、“玲姉のモノマネ“下手すぎだろ!」

 

「確かに声の音域が違いますけど、笑う事はないじゃないですか?」


「そうだよ~! あんまりだよ~! って知美ちゃんも素直に言いすぎぃ~!」


 虻輝さんとまどかちゃんは仲が良さそうにじゃれ合っているのを見て嫉妬しかけましたが、似ているところがあると聞いてちょっとホッとしました――あまりいいところが似ているわけでは無いようですけど……。


 でも、頭の中でウジウジと考えているだけで行動しないというのは一番問題ですよね……。


「で、頭の中で考えていないでどうすりゃいいのさ? 何も考えずに行動したり発言したりしたら僕なんて“失態・失言祭り”なんだが?」


 確かに虻輝さんもデリカシーが無いですよね……。


「でもさぁ、ウジウジと悩んでいるばかりだと何にも関係は改善しないよ?

 苦手意識や距離感が掴めない状態だと辛いでしょ?」


「そりゃ、日本に帰っても同じ家で暮らしているわけだしね」


「ま、簡単に言えば2人共、心の中じゃ仲良くなりたいってことだよ! それを声に出せばいいってだけっ! じゃぁね~!」


 まどかちゃんが笑顔で手を振りながら立ち去っていきました。


 私と虻輝さんは顔を見合わせました。


 また、玲子さんとまどかちゃんに助けてもらっちゃいましたね……。

 少なくとも先ほどの会話できないような雰囲気では無くなりました。


「あのっ!」


 虻輝さんと私の声がちょうど被りました……とっても恥ずかしいです……。

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