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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第67話 原住民の考え方

 暫く走り回ると、僕がバテてまどかに捕まってしまう。

 ポカポカとまどかに殴られた。表面上はもう頬っぺたを引っ張らないと約束したが、それはすぐに反故にすることだろう(笑)。


 こうして平和な雰囲気になって、危機も取り敢えず訪れない様子なので安心してきて頭が回るようになってきた。


 皆、思い思いに自由にしながら周りを警戒しているような印象を受けた。


 そんな中でふと素朴に浮かんできた疑問を玲姉に聞いてみることにした。


「ちょっと質問していい?」


「いいわよ~」


「ねぇ、逆にどうしてあの仮面の集団に今まで気づかなかったんだろうか? 特に僕たち3人は3日もここにいたのに一度も遭遇しなかったんだが……」


 そのために、てっきり無人島と勘違いしていたほどだ。


 だからこそ誰にも迷惑にはならないだろうとムシャムシャとそこら辺の食べ物を食べたり、まどかにヘンな思いを起こしてしまったわけだが……。


「この方たちはどうやら、普段はこの島の下の地下で暮らしていたようね。

 輝君も最初来た時に穴があることに気が付かなかった?」


 はっ! と思い出したことがあった。


「あっ! そういえば、島村さんと食糧を探している時に僕が穴に落ちたんだけど――もしかしてあれがそうだったのか?」


 確かに人工的な穴のような気もしたが、あれが住居だとは全く思わなかった……。


 その直後に、正気を失った島村さんにボリュームのある胸を押し付けられたことは今でも忘れないが……。


「イテテテ! 玲姉! 何、僕の膝をつねってるんだよ!」


「知美ちゃんのお山のことを考えていたからよ」


「うぐぅ……」


 実際にそうだったのだから言い返す言葉が無かった……。

 

 で、でも玲姉とも島村さんとも付き合っているわけじゃないしね?


「それはそうだけど、

 私と輝君で話してるのに、他の女の子のことを考えるのはマナー違反ですぅ~」


 更に玲姉が指の力を強めようとする雰囲気が分かった。


「は、はい……。し、失礼しました……」


 これ以上つねられたら、二度と立てなくなる可能性すらあったので承知するしかなかった……。


 それでようやく玲姉の手から膝が解放される。


「そ、それで話を地下に住んでいる原住民について戻そうか」


「そうそう。輝君が落ちたという穴の奥を探っていたなら誰かにか遭遇したに違いないわ。

 恐らくは普段は地下で生活して、たまに地上に出ると言う感じの生活をしているんじゃないかしら?

 私たちが来ていることはとうの昔に気づいていて、どう対処するか地下で協議していたのかもしれないわね」


「うーん、でも僕たちはただこの海域を調査に来ただけだしねぇ。

そんなに警戒すること無いんじゃないかなぁ」


「でも、彼らはそんなことは知らないじゃない?

 西洋人が初めてアフリカに来たときはそれこそ調査で立ち寄っただけのはず。

 でも、原住民の方たちは探検家たちが持っていたそれまで耐性無かった感染症にかかって多く亡くなったの。

 そして領土も自然も文化も家族も奪われた――ここの方たちも無意識のうちにそう言ったことも考慮されて、警戒していたこともあるのかもしれないわね」


「なるほど……。原住民の立場からすると警戒するに越したことは無いわけだ……」


 僕の認識は一面的で、短絡的で、甘かった……。


 僕たちの感覚で言えば“地球を侵略しに来た宇宙人”とも言える存在なのかもしれない。

 

 クルーズ船で海岸を荒らし、勝手に木の実や魚を捕ってはムシャムシャと食べていたのだから……。


 そんな僕たちに対して極限まで警戒度を高めて、彼らなりの綿密な作戦を立てたのだ。


 それでもこうして僕たちが無事でいるのは玲姉達が異常なまでに強過ぎただけと言える。


 改めて玲姉と建山さんが味方でいてくれて助かったし、僕の見えない考え方を教えてくれて心の底から感謝できる瞬間だった……。


「玲姉は物事を立体的に見ることが出来て凄いね……。僕は一面的にしか見ることが出来なくて情けないよ……」


「引き籠っている輝君とは経験値が違うからね――あ、年齢が行き過ぎているとかじゃ無いわよ!」


「い、いや……何も思ってなかったよ……」


 考えた瞬間に殴り飛ばされることは分かっているから、もはや考えることを脳が拒否しているレベルだ……。


「私が輝君と違うのは、普段からコスモニューロンに頼ることなく暮らしているのも大きいのかもしれないわね。

 でも一番大事なのは“心構え”だと思うけどね。

 多面的や立体的に見ようと思う気持ちが次の成長に繋がるんだから」


「確かにツールが無いと本当に何も出来ないな……。

 アクセスして調べるという事ばかりやってきたから……。

 これからは少なくともそういう視点を無くさないように努力する……」


「私だって“あぁ~短絡的だなぁ~”と思う事は多々あるのよ?」


「へぇ、信じられないな。例えばどういうこと?」


「輝君を鍛えようという話をするたびに逃げてきたでしょう? 

 今思えばね。ちょっと強引過ぎたなって思ったのよ……。

 建山さんみたいな輝君に価値観が近い子の方がやりやすいんじゃないかって思って最近は譲っているという感じね。

 私じゃ、VR空間で訓練するだなんて絶対に思い付かなかったものの」


「なるほどね……。

 確かに玲姉は僕のことを知り尽くしてはいたけど、コスモニューロンが無い以上多面的に捉えることが出来なかったわけか……」


「そうね。でも、過ちをすることは仕方ないと思うけど。

 同じタイプの過ちを繰り返さないことが一番重要なのよ。

 そうでなければ、何のために過ちをしたのか分からないんだから。

 これからは輝君の良さそうなやり方を他の皆の意見も聞いて行動するわ」


「確かに、ゲームの業界でも同じところでミスっている人は次のステップに中々上がれないよね。

 何か“癖“みたいな同じミスをするプレイヤーは抜本的な方向性を転換した方が良いと思うんだよね。

 例えば、コスモニューロンでアバターを動かすときに右回転は得意でも左回転が苦手な選手がいて――」


 僕がそこまで話すと玲姉はピッと僕の唇を指で止めた。


「あぁ……もうその話はそれぐらいで充分よ……。

 とにかく、大人になってもその短絡的な過ちをする頻度が減るだけに過ぎないのよ。

 後は次の過ちを犯す可能性が減るだけね」


 スッと、指が唇から離れた。指だけでも何か柔らかくてずっと触れていたかった……。


「なるほどね……。僕もそのことは同感だしね。クヨクヨするより未来的思考の方が生産性が高い」

 (第2部73話、第4部52話で虻輝は同様のことを発言)


「そう。そのためには多面的な思考をすることで回避できる可能性が上がるという事よ」


「話は戻るけど、玲姉は現住している人たちの存在に最初から気づいていたの?」


「そうね。上陸してすぐに私たち以外の人の気配を感じたわ。

 だからなるべく集団で行動するようにしたのよ」

 

「へぇ~凄いや……全く分からなかった」


「経験値が全く違うからね。

 でも、私か建山さんがいればどうにかなるレベルの相手だとも思ったからね。

 “最終局面”まで伝えなくていいと思ったのよ」


 玲姉はいつも自分独自の能力を使って知りえた状況を何も教えてくれないが、作戦を実行して終わってみれば気が付けばいつも上手くいっている――悔しいし、寂しいけど最も信頼できる点だと思った。


 願わくば、玲姉の知りえている情報を共有できるような間柄になりたいものだが――。

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