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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第64話 “ガスマスク”より嫌なこと

2055年(恒平9年)11月19日 金曜日


 ハッと気づくと、得体の知れない化け物に囲まれていた。


 人間ではあるのだが、不気味な様相はこの世のものとは思えないセンスの仮面を被っており不気味だ。


「ひぃえええええ!」


 僕はパニックになって逃げだそうとした!

 しかし、弓矢が一斉に僕をめがけて殺到してくる。一心不乱に走った!


「あっ!」


 しかし、石につまずいて倒れた時にまず足に当たり、しまった! と思った瞬間に次々に当たっていく。


 それは単純に弓矢ではなく毒が塗ってあることが分かった。


 体がマグマを帯びるように熱くなった後、逆に何の感覚も無くなったのが分かった。


 あぁ……僕はこうして呆気なく死んでいくのか……。


 み、皆――また勝手に――迷惑をかけた……。


 何も考えられなくなってきた。地面に溶けていく感じがする。これが――死か……。


「――はっ!」


 次に視界に入ったのは地獄や闇の世界ではなく青い空だった。


 ゆ、夢だったんだ……。


 でもこういった『悪い夢』と言うのはどうも最近”似たようなことが起きる警告“のような気がしてきた。


 つまり、今日明日にも先ほどのようなことが起きかねないのだ。


 あんなことが起きるとは到底思えないんだけど……。


「輝君。随分とうなされていたようだけど? 大丈夫?」


 玲姉の声が聞こえる。また心配をかけてしまったようだった……。

 そして昨日早く寝た主因でもある“入れ替わっていた問題“について思い出した。


 手を開いたり閉じたりする――いつも通りの自分の手や足が目の前にある!


「おぉ! 元に戻った! 僕は僕だし、玲姉は玲姉! まどかはまどかだ!」


 それぞれ指さし確認をして感動すら覚えた。


 こんな当たり前のことを確認することが嬉しいだなんて自分でもビックリした(笑)。


「もっとも、私からすると最初から誰も変わっていなかったんだけどね……」


「ははは……さぞかし滑稽に見えただろうね」


「そうは思わなかったけど、“仕掛けている側”がどんな気持ちでいるかは分かったわね。

 どっちかって言うと動物園の動物たちを外から見ているような? そんな感じがしたわね」


 それはある意味滑稽に見えていたより酷いような……。


「まぁいずれにせよ、あんなちっこい姿のままじゃ例え本当に姿が変わってなかったとしても、不便な感じしかしなかったからな……」


「ちっこくて悪かったなぁ! あたしだって好きで小さいんじゃぁ無いんだよぉ!」


 まどかが半泣き状態で僕に迫ってくる。


 あっ……。“しまった!”と思った……。


「輝君は誰を対象に言っているのか、どういう事を思わせてしまうのかもっとよく考えた方が良いわね……。

 というより言語表現能力が低いのかしら……。

 我慢も足りないからすぐに口に出しちゃうし……」


「玲姉も今この瞬間、結構辛辣なことを言っているような気がするが……」


「私は事実を述べているだけだから良いのよ」


 確かに、その発言が事実では無いと反証する表現能力も実績も持ち合わせていない……。


 これでも十分気を付けているつもりなのだが、ここぞという時ほど口を滑らせているような気がしなくも無かった……。


 特にまどかには申し訳ないことを言いまくっている気がした。


「ご、ごめん……まどか。でもどっちかって言うと驚いたところも大きかったな」


 まどかの顔を上げさせた。涙の跡があって凄く可哀そうなことをしてしまったように思えた。


「驚いたって何をさ?」


「僕の中の想像上のまどかだったとはいえ、あんなに小さいのによくいつも頑張ってるなって……。嫌になったりしないの?」


「そりゃ、どうしたって身体が急に大きくなったりしないし。

 今できることや、やれることやるしかないでしょ。

 身体についてはもう“こんなもん”だって思ってるよ」


「ふーん。思ったより割り切れてるんだな……」


 玲姉もまどかも根底に流れている考え方は一緒なんだろうな。


 玲姉は幼少期を過酷な状況に耐えて過ごしていたとあまり思っていなかっただろうし、

 まどかは体の小ささにハンデがあるとか思っていない。

 その時に出来ることをやっているだけなんだろう。


「輝君もまどかちゃんを見習ってほしいわね。ゲーム以外の場面では本当に頼りないから……」


「ま、まぁそのうちね……。この旅に出てから本当にやれるだけの余力が無いから……」


 “そのうちが”いつ来るかどうかは不明であるが……。


 しかし、玲姉がいないと心細くなる。

 だが、いればいたで小言がウザく感じるんだからホント僕はどうしようもないよな……。


「コントはその辺りにしていただいて、あの大木の調査についてのお話をしたいのですがよろしいですかな?」


 為継が静かにそう言う。他の皆もちょっと笑っていた。


「は、はい……」


 こう言われた時にいつも思うのだが、僕はコントをやっているつもりは無いんだがな……。


「まず、あの濃霧に再び遭遇しないとも限らないので、取り敢えずはマスクを着けておきましょう。このマスクはウイルス研究所の一番厳しい基準すらもクリアするほどの優れものです――ただし息苦しいですけど」


 そう言って為継はガスマスクみたいな、いかにも暑苦しそうなものを箱から取り出した。

 四次元ポケットじゃないかって言うぐらい、そこには本当に色々なものが入っているがこれも上手い具合に折り畳んであったみたいだし、収納が上手いんだろうな……。


「ちょっとの間だから我慢するしかないな……」


「いえ、木の原理が解明するまでの間我慢していただく必要があります。

 何せ木に近づくだけで何が起こるか分かりませんからな。

 本当は無菌状態、電磁波を完全に弾くフル装備で挑みたいぐらいです。

 ですから、長期的に我慢していただくことも覚悟してもらう必要があります」


「た、確かによく考えてみれば危険なんだな……」


 原因が分かったかもしれないという事でかなり楽観的な気分になりつつあった。


 しかし、まだあの木の解明は全くできておらず、未知のものに命運を握られているという状況は何も変わらないのだ……。


「そのために皆さんにはご不便と苦痛を感じられることもあると思いますが、

 これも日本に帰還するための過程の一つだと思っていただければと思います」


 こうなるとまずあの木の下に行くことすらもウンザリしてきた。


 ただでさえこっちは足がボロボロだというのに……。


「あのぉ~、僕はここで待っているという選択肢は無いの?」


「別に自由にしてもらって構わないけど日本にも連れて帰らないわよ」


 玲姉がサッと僕の隣に寄ってきた。無駄に爽やかな笑顔なのが何とも言えない……。


「えぇ……どうしてそうなる……」


「サボろうとしてるのが明白だからよ。リハビリも兼ねて歩くぐらいしてくれないと。

 ドンドン体が弱くなるわよ」


「そんな高齢者みたいな扱いをしなくても……」


「でも、輝君は大事なこともすぐ忘れる。裸足で歩くこともままならない。

 体調不良で動けなくなる――こうなるともう実年齢が若いだけで高齢者の方とそう変わらないんじゃないかしら?

 高齢者の方は年齢を重ねていることが問題なんじゃなくて、

 動けなくなって体の機能が衰えているってことが最大の問題なんだから」


「うっ……」


 言い返せる言葉は一つもない。確かに僕は年齢が単にまだ19歳と言うだけで、実情はボロボロなのだ……。

 

 これがゲーム世界王者の実情、コスモニューロンも使えない残骸の有様だった。


「だから歩くだけでも重要なのよ。普段動かないのなら尚更ね。

 大体生物学的には24歳ぐらいから筋肉は鍛えなければ衰えてしまうんだから、

 もともと肉体的なスペックが低い輝君は24歳過ぎたらもう歩くこともできないんじゃないかしら……」


 そんなことになるだなんて怖すぎるだろ……。

 でもやっぱりそれ以上に面倒だしサボりたかった。まだ24じゃないんだしね……?


 もしかしたらそうならないかもしれないしね? 何か逃れられないものか……。


「いやぁ、でも足手纏いになったりしないかなぁ? やれることも何もないような気がするしなぁ……」


「大丈夫ですよ。あなたが具体的に何かできるだなんて誰も期待してないですから」


 島村さんが笑顔で言うが、それは何の励ましにもなっていないことに本人は気づいているのだろうか……?


 それともその発言を笑顔で言い放つことで精神的に追い詰めようと思っているのだろうか……。


「いえ、虻輝様は一応はリーダーですから。最終的な決断をしていただくこともあると思います。例えば、あの大木が問題の根源だとほぼ確定した後に、切り倒すかとかどうかそういうご判断です」


「あぁ、そう……」


「納得していただけたところで、皆で参りましょう。

 多くの見識があることで良いアイディアも浮かぶことでしょうし」


「そうそう。このまま砂浜の岩の一つになるだなんて問題よ。それに私がいないと心細いんじゃないの?」


「た、確かに……。分かったよ……」


 こうして渋々ながらもマスクの付け方と呼吸方法を教えて貰った。酷く窮屈だ。


「では行くわよ~」


 先頭を歩く玲姉だけは木の幻惑に惑わされなかったので素顔でルンルンとステップを踏みながら歩いている。

 ガスマスクの8人とは開放感が違った……。

 しかし、明るい雰囲気の中でも目ざとく周りを見回しているのは流石だ。


 それに対してこちらは、“呼吸のコツ“を覚えるのすら大変そうだった。


 でも、それ以上に嫌なのは最終決定をしなくてはいけないことだ。


 大木を切り倒すかどうかなんて自然を破壊しているようで誰も決断したくないことだ。

 この島のシンボルのような存在とも言えるためになおさら嫌だろう。


 そんなことを任されるかもしれないというのは非常に気が滅入るが、

 それぐらいしか役立ちそうにないと言うのも事実だった……。

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