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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第62話 入れ替わりパニック(中)

 パンパンッ! と僕(中身玲姉)が大きく手を叩いて注意を引いた。


 僕も「まどかの身体の神秘」の妄想から一気に引き戻された。


「皆、落ち着いて。まずは何が原因でこうなったのか検証してみましょう」


 僕(中身玲姉)が腕を組みながらそう言った。ちょっとした優雅な仕草をする僕にかなり違和感がある……。声にも艶があるような気がして何だかおかしい……。


 そして、女の子の言い方をする僕(中身玲姉)に全く慣れない……。

 ドッペルゲンガーでも見ているような気持ち悪さがある……。


 そもそも僕はこんな声だったのか……確か骨伝導によって自分が聞こえる声と他人が聞こえている声が全然違うんだっけか……。

 

 確かに玲姉が今は統制しているから何とかなっているものの、僕が話している時は何だか間の抜けた声で聞こえるのかも……


 そりゃオーラが無いだのなんだの言われるわな。


「私の意見だけども、先ほどの濃霧の後にこんなことになってしまったので、あの霧に何かあるのではないかと思っているのだけども」


 僕の声(中身、玲姉)に引き戻された。


「私も同感です。この霧の成分を検出してみましょう」


 輝成(中身為継)がそう言って、何やら鞄の中を探し始める。こういう時に為継は非常に頼りになる。


「為継、そんなチマチマしたこと言ってねぇで、もう1回全員で霧の中に入っちまえばいいんだよ! まどろっこしいんだよぉ!」


 玲姉(中身島村さん)は景親が叫ぶと嫌な顔をする。そんな言い方を絶対にしないからだろう……。


 現在僕たちのいる砂浜の辺りは霧が晴れているが、森の方の霧はまだ晴れていない状態だ。


「私はお断りですね。例えば伊勢さんに私の体には入られたら大変ですから。元の体に戻れる保証もありませんし」


 建山さんが真っ先に反対した。景親よ。こんな言われ方をして可哀そうな奴だが、真っ先に“あんなこと”やってたらそりゃ女性陣から警戒されるだろう……。


「ええ、私が被害を受ける分には監視しておけばいいですからね」


 玲姉(中身島村さん)が鋭い目つきで島村さん(中身景親)を視線で鋭く射貫く。

 僕が睨まれているわけでもないのに怖すぎんだろ……。


「ただ、時間制限があると思います。霧が今後無くなってしまうリスクがありますので。

 皆さんもデータが取れないまま今のままでは不都合でしょう。

 やはりここは一刻も早く行動するべきかと」


 そりゃそうだとばかりに皆頷く。特に男に体を占領されているまどかや島村さんは緊迫感が違う……。


 為継はそんなことを歯牙にもかけず、荷物から機械を2つほど厳選して手元に持つ。


「ですので、早速行動に移そうかと。ただ、誰かとまた入れ替わってしまっては大変です。

 あの霧から皆さんは離れてもらい私一人で行ってみます」


 と言いながら輝成(中身為継)は早速歩き出している。


「しかし、為継1人で大丈夫か? 為継がもし倒れれば終わりの状況なんだが……」


「それなら私も一緒に行くわ。小早川君と入れ替わるのなら問題ないし」


 僕(中身玲姉)はサッと為継の隣に移動する。自信満々の口調で言っている。

 もしかすると、大体何が起こっているのか推測はついているのかもしれない。


 それが他人に説明しても理解できない時は自分から言ってくれないんだ――なんかズルいんだけど(笑)。


「分かりました。いざという時のボディーガードに適任ですからな。

では、10分ほどで戻ると思いますので、お待ちください」


「じゃぁ、皆。大人しく待ってるのよ~。更に何かあったら困るからね~」


 玲姉と為継は恐れることなくひょうひょうとした足取りで霧の中に入っていった。


 入れ替わるだけならまだマシで、さらに追加で何が起こるか分からないのによくそんな躊躇なく行けるなと思った……。


 玲姉と為継の足取りは軽くアッという間に霧の中に消えていった。


「2人共、大丈夫かな……」


「そりゃお姉ちゃんもいるんだし。歩ているだけで足がボロボロになっちゃったお兄ちゃんよりかは全然、大丈夫でしょ」


 美甘(中身まどか)がそんなことを言った。まどかから見たらその程度の評価のようだった……。


 玲姉はどんな時でも頼りになる――が、逆を言えば近くいてくれなければ不安にもなるわけだ。


 今の僕たちに何が起こるか分からないという事だ。


 冷静な2人が消えてここからさらに入れ替わってしまえば、どんなパニックになってしまうのだろうか……。


「虻輝さん。大丈夫ですって。玲子さんがいなくてもこの私がついています!」


 ただでさえ建山さんは普段から何を考えているのか全く分からないのに。


 景親の姿、声の低さのまま迫ってくるとか不気味すぎんだろ……。


「ひぃ! 建山さん離れてくれぇ! 景親のまま姿だと不気味すぎるぅ!」


 どっちかって言うと特攻局にいる建山さんが監視役だと思ってしまうので一番の心をざわつかせる原因とも言える。


「それなら私と替わって下さいよ! そんな言い方あんまりじゃぁないですかぁ!」


 だから低い声だと怖いんだって! 僕は思わず玲姉(中身島村さん)の後ろに隠れた。


「いや、指定して代わる方法はまだ分からないみたいだから……。」


「虻輝様! 俺をそんなに邪険するだなんてあんまりじゃねぇですか!」


「いや、景親は島村さんの中にいるんだろ!? お前を避けているわけじゃないって!」


「でも、俺が迫ってるから嫌なんですよね!? 普段建山が迫っても嫌がらないじゃねぇですかい!」


 と、島村さんの声で景親の口調で叫んできた。


 もう色々とややこしすぎるよ……。頭痛くなってきた……。


 でも、確かに建山さんに普段近づかれるとどっちかって言うと嬉しい。

 しかし、中身が建山さんだと分かっても景親の見た目だと嫌だと思うのは景親に失礼だったのか……。


「いや、それについては謝るが。景親の中にいる建山さんがそれ以上に不気味なんだ……」


「そんな! 虻輝さんに見放されたら私生きていけません! 少なくともこの場にいれませんよ! 玲子さん達を追います!」


 建山さんが僕(見た目はまどか)の首を絞めにかかって半狂乱状態になっている。


「ぐはぁ……く、苦しい……」


「ここは皆さん落ち着きませんか? パニックになっても仕方のないような……」


 玲姉の中に入っている島村さんが景親(建山さん)の腕を取った。


 それと同時に締まりかかった首が緩められた。


 うわっ! という声と共に景親(建山さん)は玲姉(島村さん)から離れ、表情が引き締まったのが分かった。


「す、済みません。虻輝さん。正気を失っていました……。大丈夫ですか?」


「う、うん……。何とか。常に冷静でいようね……」


 建山さんは僕が言うのはどうかな? と思うけどかなり独特な気がする……。


「そうです。迂闊に動くのは危険ですよ。むしろ、落ち着いて見ていかないと。

 為継と玲子さんを待ちましょう」


 為継(中身輝成)が何とかなだめようとしている。


「それより、その肝心のお二人が遅くありませんか? もう、私たちの下を去られてから20分近くになるような……」


 確かに、建山さん達と“とんだ茶番”をやっている間に時間は過ぎ去っていた。確かに遅い気がする。


 しかし、この状況になってどうしたら良いのか分からない。


 沈黙が僕たち残る7人を支配した。


「でもやっぱり動かない方が良いですよ。

 “ミイラ取りがミイラになる”になりかねないかもしれませんからね……」


 玲姉(中身島村さん)が静かにそう結論付ける。何人かがそれに同調した。


「ま、まぁあの2人があと20,30分して戻ってこなかったらまた議論しよう。

 何か遅くなっている理由があるかもしれない。そして何事も無かったように無事に戻ってくるかもしれないし」


 正直、前例のなさすぎる事態の前に答えが無かった。

 不安が無いと言えば嘘になるが、一番信頼できる2人なんだからそうそう簡単にやられるとも思えない。何か理由があると思いたいが……。

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