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第10話 少子化対策の闇

 朝食を食べ終えると、島村さんと共に飛行自動車で依頼者の高橋さんの家に向かう。

ところが高橋さんの自宅が思ったよりも入り組んだ場所で、しかも飛行駐車場が近くに存在しなかったので、近くから歩かなければならなかった。


「えっとね、高橋清美さんは法学部3年生。最近は、就職活動で忙しいらしい。いつもは専門のベビーシッターさんが来てくれるらしいんだが、今日に限って急に親御さんが危篤になってしまい来てくれなくなったんだってね」


 先ほどはメールの内容を途中で切ってしまったために、改めて島村さんに説明した。


「そうですか」

 って気が付けばめっちゃ離れてるー! 今の返事も辛うじて聞こえたぐらいで、これじゃ、会話もまともにできないだろ……。


「何でそんなに離れてるの……?」

 脚が悪い島村さんの速度に合わせてペースは遅めだったはずだが、おおよそ5メートルは離れているだろう……。


 しかも、僕が足を止めると島村さんも足を止めたので距離は全く縮まらなかった。この距離は単純に島村さんの足が悪いせいだけではない。僕たちの心と心の距離感と言って良かった……。

「単純に、あなたと知り合いだと思われたくないからです」


「いやいや、実際に知り合いでしょ……。せめて今日のことは打合せしようよ……」


「仕方ないですね……」

 ようやく僕の隣――から2メートルぐらいの距離のところまで来てくれた。

しかし、そこからは動こうとしない。だが、これ以上の要求をすれば確実に今以上に酷い扱いを受けそうなのでとりあえずのところはこれで良しとするしかないだろう……。


「で、高橋さんの話に戻るけど、今9時14分だけど9時半から16時半まで頼みたいということらしいよ」


「私は別に子供嫌いではないですから構いませんが……家事とかはそこまで得意ではないです」


「へぇ……几帳面そうだけどね。何だか意外な気がする」

 女の子なのに――とか続けようとしたけど男女差別みたいだし、また怒られそうなのでやめておいた。


「あまりそういうことは必要としていなかったので。虻成を倒すことそれだけを目指してこれまで生きてきましたから……」


 まぁ、あれほどの特殊な弓道の技術を会得するまでの間、他のことがある程度おろそかになっても仕方ないだろうな。

むしろ、勉強ができて学業と弓道の両立というのはとてつもなく凄いと言うべきだろう。

 

 今はまだ話してくれなさそうだが、どうやって反虻利と繋がりながら学業と弓道の両立を行ったのかゆくゆくは玲姉から又聞きでもいいから知りたいぐらいだ。


「そういや、今日は平日だけど大学の授業大丈夫なの?」


「玲子さんのご命令ですから仕方ないです。あなたと違って1日ぐらい出ないだけで私の評価は下がりません」

 ホント、玲姉のこと好きだよな……。僕も好きではあるけれども、島村さんの玲姉に対する“好き”は半ば“信仰“に近いモノすら感じる。


「あ、ちなみに僕の評価も下がらないよ」


「……あなたは、もう最低評価だからではないですか?」


「くっ……バレてたか」

 もう僕の成績は低空飛行で辛うじて玲姉の助けと虻利の力で進学進級しているに過ぎないからな……。

 何分か歩くとふと目に入った児童公園でも兄弟と思わしき組み合わせが何組もある。


「ところで、最近子供が増えてきた感じがあるよな。公園とかでも見かけるようになったし」

 そういえば僕も男3兄弟、島村さんにも弟がいるらしいし、今日行くところも3人の子供がいる。


 実際のところ日本の合計特殊出生率は近年上昇傾向にあり昨年遂に1.6を超えた。

流石に人口が増加に転じる2.0を超えるに至るまでにはまだ時間がかかりそうではあるがね。

 かつての人口予測では2050年には日本の人口は1億人を切ると言われていたがまだ1億1千万人いる上に人口ピラミッドも幾分マシになっており、以前と比べれば随分未来の展望は明るくなっている。


「それは……虻利家が暗にいいこともやっているということを言いたいんですよね?」

 虻利家から具体的に政治家が出ているということはほとんどない。

しかし、圧倒的な資金力がある虻利から資金提供を受けている議員が大多数を占めているので事実上の裏の支配者となって政財界を裏から握っていると言っていいのだ。


 つまり、日本の政策は虻利家が行っていると言って良い。

 そういう発想になっても仕方ないなと島村さんの言葉を聞いてアッと気づいた。


「いや、そういうつもりはなかったのだが……」

 僕は本当にそういうつもりは無かったのだが、島村さんの頭の中は虻利への憎悪で満ち溢れている。

 僕達2人は再び立ち止まり沈黙した。その沈黙が嫌だった。


「で、でもさ、人口維持に成功しているのは虻利家のお陰であることは間違いないよね?」


 虻利が推し進めた具体的な政策は凄く簡単に言えば少子化対策のためにひたすらお金を配りまくった。財源を税金で頼ると将来に禍根を残すことになることから、お金を刷ることになった。


 本来、お金を刷ることは貨幣発行権がある日本ではいつでも可能な事なのだが、国際的な関係上円の相対的な価値の大幅低下が予想され容易にはできない状態だった。


 しかし、第三次世界大戦で優位な立場を築いた日本はいち早く世界中の通貨発行権を抑えた。これによって、日本円をいくら刷って配りまくったとしても、どの国も文句を言わず、円の価値が下がらなくなったのだ(ただし、勤労意欲が下がらない程度にお金を配ったのだが)。

 それを良いことに様々な政策を実現することが出来た。


「確かに、子供の人口が増えていくことは日本にとって絶対的にいいことです。

 ですが、それ以上に自分の反対勢力を弾圧する行為は許されないと思います」


「でも人間誰しも良いところと悪いところが表裏一体で一長一短な感じがあるじゃないか?」


 虻利家が推進した政策として、子供が増えるたびに給付金、大学まで学費全額免除、10歳までのお稽古事も全額支援などの政策が中心となっている。


 更に男性にも育休を取らせる政策も前面に推し進め、会社と育休を取った本人両方に対して育休をとった瞬間、復帰させたときにそれぞれ補助金を出した。


 そして、皆で子供たちを育てている感じを出すために月に1回、育休を取っている人が育休報告会で皆に報告する機会も半強制的に存在している。


「ですが、その悪いところにも限度があるというものです。

 自分達に都合の悪い人物を消していっていたら結局のところ都合のいい人物しか残らないです。

 皆、普通に生活しながらでも影ではどうしたら特攻局に引っ張られるんだろうと怯えているんだと思います。

 よく悪いことをしてお金儲けをした人が寄付などをして“慈善家“だと評価されることがあるでしょう? あれと変わりないと思います」

 

 島村さんはしっかり前を見据えている。その眼には一片の曇りも感じさせない。こういう発言は誰かに似ていると思えば玲姉だ。島村さんが玲姉を憧れる理由が分かった気がした。


「確かに、どうしたら捕まるとかいう明確な基準って言うのがないからな……。特攻局による究極の監視社会のディストピアというわけか」


 ディストピアというのはユートピアの対義語と言えるもので、表面上は完全無欠の理想社会のように見えるがそれは建前だけで中身は最悪の支配体制だったりすることである。


「それよりもっと悪いかもしれません。目をつけられた人物は“悪いことをした”と捏造されてしまうのでしょう?」


「確かに……。更に言うなら、子育て政策や経済政策で“強い日本“というのを作り上げていることで、虻利を信奉している勢力って言うのは少なからず存在しているからな。彼らは闇の実情を見て見ぬふりをしている」


「そうなんです。だからいいことをしているからって支持できるものでは無いです。

あ、依頼があった高橋さんのお宅はここではないですか?」

 

 そう話しているうちに依頼主である高橋さんの自宅前まで来ていた。僕はあまり初めていくところに到着するのは自信は無いのだが、コスモニューロンのナビのお陰で何事もなく到着できた。


 こうして便利さを求めて魂を売る人間というのも存在する。全てを知っていながらこれに依存してしまう僕がその代表格と言える(笑)。


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