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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第58話 お金について

 僕たちのいた島から出航してしばらくすると、今まで気づけなかったあることに気が付いた。


 ボロボロな難破船があちらこちらで見える。しかもそう古いモノではなく比較的新しいタイプの船のようだ。

 更に自家用ジェット機のような飛行機もある。一体全体何でこんなところに……。


「意外と今の時代の船や飛行機の残骸とかが多いんだね。こんな薄気味悪い所にわざわざ来る奴らがいるだなんて神経がどうかしていると思うんだが……」


「あれ。虻輝さんご存じないのですか? この島周辺には最近、埋蔵金が隠されているとかで話題になっているんですよ。

 何でも大航海時代に沈没した宝船が眠っているという話のようです。

 特攻局でもこの案件については対策会議が開かれていたほどでした」


 建山さんが振り向きながら漕ぎ続けるという大変器用な芸当をやってのけている。

あんな重そうな物をスイスイと動かしてスピードもそれなりに出ている。余裕が違うようだった。


 僕は船が揺れているだけで不安感が募っているわけだが……。


「へぇ、そうなの? 僕あんまり興味ないからなぁ。そんなこと……」


「お金には困っていませんからな――あ、女性にも困って無さそうですな」


 為継が意味深なことを言ってきた。


「え? どいうこと?」


 まどかと建山さんが溜息を吐く。僕だけ分かっていないってことなの?


「いえ……当人達の意図を知らずに呑気そうで何よりです。

 それよりも、宝船の話に戻りますと現在価値にして約10兆円ものの金が船に眠っているという噂があります。

 国家プロジェクトレベルで行っている国も東南アジアではあるほどです」


 一瞬で話題を引き戻されたのが気になるが、そこまで熱量がある話とは知らなかった。


「へぇ、確かにそれだけの金額が眠っているのであれば流石にやれることが違うよね。

 そうか、大王とかもそれを先に阻止する狙いもあったのか」


「それもあるでしょうな。ただ、虻輝様はお金にあまり興味を示さなさそうな感じがあるので、敢えてお伝えしなかったのかもしれません」


「確かに逆に興味を失うな。皆やっぱり金の盲者なのかなって思っちゃうからな(笑)」


「10兆円を手にした虻利家の脅威になる組織ともなれば、局長が放置しておくはずもありません。科学技術局としてはデータを収集しても分からなかったためにサブの任務として私に与えられていました」


「ふぅむ。埋蔵金ねぇ……でもどうにもお金について僕はあんまり価値を感じないんだよね。

 だって所詮はただの引換券でしょ?(笑)

 発行する側の信用が無くなれば紙屑じゃないか。

 それなら、お金にそこまでこだわって貯め込む必要ないかなって。

 全く無い貧乏だったらそりゃ問題だけどさ。

生活する上で、必要最小限度のお金を稼げれば良いんじゃないの?」


「お兄ちゃんはゲームのれーてぃんぐ? とかいう奴の方が賞金より気になっているぐらいだからね」


「いや、賞金も大事だぞ。年間獲得賞金総額で出れる大会や、賞金順で1回戦免除があることもあるんだからな」


「結局、ゲームに関する話じゃん……」


 まどかはゲームの話になると呆れっぱなしだ。最近は僕がゲームについて語っていると目がうつろにすらなる。


「そもそも、虻輝さんはお金持ちの雰囲気全く無いですからね……。

 かつては、小判や兌換紙幣と呼ばれる金本位制度で金との互換性があったけれども今はその要素もないので、

 ある意味、貨幣経済と言うのは“幻想”で回っている社会とも言えますね」


「人間がそもそもストーリーを共有できる唯一の生物だという話もあります。

 貨幣だけでなく宗教や理念、価値基準など見えないモノを共有し合えるのも幻影と言えるかもしれませんな。

 実際は札束だけでなく金塊も食べられませんから。生命維持活動をする上においては本来不要とも言えるわけです」


「確かにそうですね。本来は農業とか漁業の方が重要なはずなのに“お金で買えるから”という事で軽視されていますよね」


 建山さんと為継は僕の手から離れてもう別方向の議論に行ってしまった……。

 もう付いていける気がしない……。


「あのぅ……話は戻るけど、その埋蔵金を積んでいると言われている船を探すのもミッションの1つなわけね?」


「そうなりますな。ただ、今の状況では正直な話、余裕が全くありません。

 宝船につきましては忘れていただいて問題ありません」


「確かにこんなボートだと金塊がいくらあっても積んで帰れないよな……」


 食料や僕の荷物など最低限のものしか積んでいないので金塊積んだら沈むだろう……。

 せいぜい金のネックレスを持ち帰るとかそう言うレベルだろうな。


「場所が分かるだけでも価値がありますが、寄り道する余裕すらないと言えます。

 例え宝が眠っていそうな怪しい船を発見したとしても見なかったことにするべきかと」


「うん。それが良いよ。僕も興味は無いしね。本当に眠っているかも怪しいものに対して命を懸ける気はないね。

 お金なんかに囚われずに生きていける身分で良かった~」


「相対的に上位で無いとお金を稼げない世の中ですからね……。

 虻利家は最近絶対評価で各競技ごとに一定以上の数値をクリアすればお金が支払われるような制度を作り出しているので、努力が報われる世の中になっていると思いますけど」


「でもさ、各競技ごとの基準が果たして同じ報酬同士で対等の評価に出来ているのか?

 その議論がずっと行われているらしいんだよね。

 技術が進歩して人員が削減されているはずなのに何かそれはそれで生産性を感じないよね」


「相対評価だと“上から何人”と言う形だからある意味評価する側は楽だという事ですか……」


 またしても謎の方向性に議論が進んでいっている。


 これだから頭の良い人間の中にぶち込まれている状況と言うのは嫌なんだ。


 同じ場所にいるのに完全に置いてけぼりを食らっている……。


「我々科学技術局としては、過去の経験則や統計データから合理的な指数を出しているのですがね。

 中々競技をされる方々には受け入れてもらえませんので難しいところです」


「何か分かんねぇがスポーツは大抵でけぇ奴が圧倒的有利だぜ?

 俺なんてそんなに練習しなくてもあらゆる競技で比較的上位に入れましたから、結構楽に稼げましたからな」


 景親の体格なら確かにどんなスポーツでも大活躍できそうではある。


 そして、体格も才能の一つのように思える。親からの遺伝もあるだろうし、僕が景親のように食べることもできない。


「結局のところ公平公正な分配システムって言うのは存在しないんだな……。

 才能がある奴と金を握っている奴がどうやっても自然に勝ち上がる……」


「そうです。ただ、才能は誰もが持っていないのに対して、お金は誰が持っても大体効果を発揮する。だからお金をほとんどの人間が追い求めるという事です」


「なるほど……」


 為継はお金にドギツイ印象は無いが、ボスである大王は研究のためにエゲツないほどに金を追い求めているからな……。


「世知辛い世の中ですね。私はお金はありませんがどこでも潰しが利くほどには才能があってよかったです」


 建山さんは“潰しが利く“なんてレベルでは無いがな……。

 能力がある上に“得体の知れないしたたかさ“がある


「才能はお金にも社会貢献にも替えられますから一番万能かもしれませんな。

 それはそれはそうと問題はこのように難破船や自家用ジェットがどうしてこんなにも集中してあるか? です」


 今度は為継から議論を戻してくれた。僕が話に入り込める余地がない状況だったので助かった。


「やっぱり、ここら辺が電波が乱れているからじゃないのか?」


「確かにその要素は多分にあるでしょう。ただ、あちらの船をご覧ください」


 為継が指した船は中央が大きく抉れているが、人工的に破壊されたような雰囲気がある。


「なるほど、金に目が眩んだ者同士の戦いによる可能性があるわけか」


「そうです。結局のところ超常現象よりも人間が一番恐ろしいですからな。

 一応は、各国の領海に侵入しないような経路を通りつつ周辺国家に対して航行の申請手続きは取ってあります。

 ですが、我々の命が狙われないとは限らないのです」


「う、うむ……周辺の警戒を怠らないようにする」


 そもそもそんな配慮があることすら知らなかったが……。


「それか――他に何か原因があるのかどうかです。我々の科学で検知できない“何か”が」


「ほ、他にってまさか……ゆ、幽霊とか!?」


 まどかが勝手に妄想を初めて勝手に震え始めた。なんて想像力がたくましいんだ……。


「その可能性も否定はできません。基本的には人為的な可能性が高いと思っていますが、他の原因の可能性も捨ててはいけないでしょう」


「ええっー! こ、怖いよ~」


 為継は怖がらせるつもりは無さそうで淡々と話しているが、

 まどかは頭の中を“幽霊”に支配されるとパニックに陥ってしまうようだ。


 気が付けばまどかが僕の服にしがみ付いているのか謎過ぎるが……。


 為継が僕たちの方を見ている。


 鎖の位置関係からして、非常に邪魔なのだろう。


「まどかちゃん。私なら幽霊だのお化けだのは気迫で振り払えますよ」

 

 建山さんならどんな幽霊やお化けでも逃亡させることができそうだよな……。


 相手にしたら“ヤバイそうだ“ということは未知の存在でも理解できそうだから……。


「それより、隊列を乱さない手下さい。船のバランスも崩しかねないので」


「はぁい」


 まどかがホッとした様子で自分の元の位置に戻っていく。


 ふ、ふぅ……危なかった。最近僕はおかしくなりつつある。

 昔は一緒に寝たり一緒に遊んだりあんなにベタベタとくっついていても何にも思わなかったのに、今は興奮を抑えつけないとやっていけないんだから……。


 でも、船から落ちることを恐れていた先ほどの状況を考えると、下らない会話をすることや他のことに神経を奪われる状況は正直助かった。

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