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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第57話 波がある中での船出

2055年(恒平9年)11月18日 木曜日


 僕はここにいるはずなのに、鏡があるわけでもないのに、なんと目の前に僕がいる!


 そして僕が手を開いたり閉じたりしたと思ったらなんと随分と小さい!


 この何だか頼りなく柔らかく薄っぺらい感じだけどどこか力強い手は――まどかか?


 僕がまどかをコントロールしている!?


 な、何がどうなってるんだ!?


「ちょっと輝君大丈夫?」


 “僕”が話してくるがその口調やしぐさはどう見ても玲姉だ。


 僕がまどかになって、玲姉が僕に!?


 意味が分からん……。


「おいふざけるなよぉ! ただでさえ遭難して大変だってのにぃ! 誰か助けてくれぇ!」


 そう叫んだ途端に“外”から声が聞こえてきた。





「おぉーい! お兄ちゃんっ!」


「はっ!」


 目を開けると女の子たち5人が心配そうに僕を見下ろしている。


「随分とうなされていたから心配したわよ。また目を開けないんじゃないかと思って……」


「あ……あぁ……ちょっと悪い夢をみて……」


「随分とSFみたいな夢をみたみたいね。そんなふざけたことにはならないから安心して」


 玲姉が僕の思考を読んでそんなことを言いつつ安心した様な表情をしている。


 まどか、島村さん、建山さん、美甘もホッとした様な感じになっている。


「ところでまだ暗いけど、もう出るわけ?」


「そろそろ動き出さないと、ここは比較的暖かいけど冬の日没時間としては日本と変わらないし、一日は早いわよ?」


 昨日の話だと暗くなったら危険だと言う話だったな……。


 しかし、海を見つめていると波が何とも言えない状況だった。


 昨日より更に波が荒れているようで、リスクがありそうだったのだ。


 雲もまだ暗いながらもドンヨリとした感じを受け、いったい何が起きるか分かったものでは無い。


「どれほどあてになるのかは謎ですが、私の予報では今週の天気では今日や明日が一番マシな部類になりそうです。土日にかけては大しけになるようで、船を出せるレベルでは無いと思われます。

 ちなみに、その先の予報は全く分かりません」


 そう為継が言った先から、ビューっと風が吹き去り枝が僕の顔を直撃した。


「ぐはっ! これでマシな方なのぉ? ホント、どうなっているんだこの海域は……」


 枝は一部口に当たり土の味がした。


「不安になる気持ちは分かるけど、私がいるから安心しなさい。


 玲姉が言うと信憑性がいつもあるからな……。

 この地上で最強と言ってもいいんだから……。


 玲姉は見た目こそ淑女らしいけど、性格は強引でやってることはパワフル過ぎるよな……。

 僕みたいに主体性の無い人間からしたらこんなにも頼りになるものは無いけど……。


「輝君。言っとくけど、私は基本的には“ごく普通の一般的なか弱い女の子“なんだからね? やむを得ずに色々と強引にやっているだけで……」


「えぇ~。流石に玲姉が一般的でか弱かったら、この地上の人類全てが虫けら以下なんじゃ……」


 玲姉はムスッとして何か言おうとしたところを、建山さんが割り込む。


「お二人ともコントは良いんで聞いてください」


 建山さんがいつになく真剣な声になったのでここで終わりにするしかなかった。

 僕と玲姉はコントをやっているわけじゃないんだけど……。


「皆さんも――覚悟を決めてください。決断しなければこの状況は打開できません。

 ある程度のリスクは負うべきです。

 私と玲子さんが基本的には何とかしますけど、やっぱり皆さん一人一人の“無事に帰りたい”と言う気持ちが一番大事なんです」


「まぁ、言いたいことは分かるけどねぇ……。でも中々難しいんじゃないかねぇ……。

 ここに来るときは最新鋭のクルーズ船だったのに駄目だったんだしねぇ……」


 大きな身振りを交えた勇ましい建山さんの演説のような話を聞いても僕の心は奮い立たなかった。


「ただ、クルーズ船は最新の機器を詰め込み過ぎており、磁場が想像だにしない振れ幅になってしまう状況に耐えきれませんでした。

 案外、何も電波を発する機器を積んでいない方が何とかなるかもしれません」


「ふぅん、そう言うものなのか……」


 専門的なことは一切分からないので為継のいう事を信じるしかない……。


「そもそも輝君。この程度で怯えていたら一向に日本に戻れないし、12月に開催されるゲームの世界大会にも出られないわよ? それでもいいの?」


 僕はハッと我に返る思いがした。

 確かに今のうちから試行回数を稼いでおかなければいつになったら戻れるか分かったものでは無い。


「よし、行こう。こんなところでグダグダしている暇はない」


 たとえ失敗したとしても玲姉の経験値を上げることや為継のデータ確保のためにもここでダメ元でも行くしかないのだ。


「ゲームって単語が絡んだ瞬間目の色が変わるんだからホントある意味単純と言うか。お子様と言うか……」


「理由はどんなことでもいいので虻輝さんが日本に帰る気になれたなら何でもいいです。

 何だかんだで虻輝さん無しには私たちは語れませんので、虻輝さんの士気は非常に重要ですからね」


 僕を代表のようなポジションになんで据えたのか全く分からない。


 玲姉を中心に据えた方が絶対にうまくいくだろうに……。


「では、この鎖をお腹に巻いてしっかりと締めてください。締めすぎると苦しくなってしまいますからそこのあたりは注意してください」


 鎖で繋がれたとき、まるでここにいる全員が囚人にでもなったような気分になった。


 でもこの地球全体が大きな牢獄だとしたら――あながち間違っていないのかもしれない。


「いや、虻輝さん。現実逃避して止まっていないで船に乗って下さい。ゲームできなくなりますよ?」


「け、決して怯えていたわけじゃないぞ? 決して!?」


 ゲームが出来なくなると聞いて船に乗り込む。ガタンとちょっとだけ揺れてまたそれが全身を震わせた。


 波が少し高くなってきているような気もする。


 正直言ってこんなに不安定な船に乗るのは人生で初めてだ。


ついこの間船から落ちて溺れたこともあって、船に対して拒絶反応が出ているのかもしれない……。


「私だって本当なら倒れたくなるほど乗り物酔いが凄いのに耐えるんだからね?

 むしろ、輝君はどっちかって言うと“絶叫系“大好きなんだから。ジェットコースターにでも乗ったとでも思いなさいよ」


「いや、ジェットコースターはシートベルトや安全装置が適切に働いてくれる命の保証があるけど、この船やこの海域にはそれが無いから……」


「そう――」


 玲姉の雰囲気が変わった。何をしてくる? と身構えていると突然僕の頭を押さえつけてそのまま――。


「ゴボゴボッ! ゴボッ!」


 何とそのまま海に押し付けた! しかし10秒ぐらいですぐに引き上げられる。


「れ、玲子さん何を……」


 島村さんが止めてくれたようだった。ただ、僕は顔や髪が一気にずぶ濡れのドザエモンのような気持になった……。


「どう? 少しは船の恐怖無くなった?」

 

「あ、あぁ……目が覚めた気がする。溺れてもこんなものかと……」


 玲姉から渡されたタオルで顔や髪を拭いた。僕に対して言っても聞かない時は“荒療治”するのが玲姉の定番だ……。


「お姉ちゃんは強引過ぎるなぁ……」


 まどかは比較的落ち着いていた。玲姉に対する信頼があるからだろう。こういうことをしてくることが“日常化“しているのもあるだろうけど……。


 その他の面々は何が起きたのか理解できずに目を丸くしている……。


「よほどのことが無い限り死ぬことは無いわよ。私がいるんだからさ。もっと信用して欲しいな。今度は近くにいるんだし。私が輝君の安全装置よ」


「あぁ……そうだな」


 玲姉がそう言うと安心感があった。

 この状況で死ぬときはみんな一緒だとも思えた。1人で寂しく死ぬかもしれないと思った時もあったんだ。このメンバーで全滅なら仕方ない。


 って言うか――どっちかって言うと玲姉に殺される可能性の方が高いんじゃないかとすら思えた。そう思えた時、謎の安心感も浮かんできた。


 玲姉に伝わったのか大変不機嫌そうな顔をする。


 何か玲姉が口を開こうとすると建山さんがオホンと咳払いをする。


「では、落ち着かれたようなので運航方法について説明します。

 基本的には手で漕ぐことになりますが、オールの数が2つしかないので交代で操作することにしましょう」


 建山さんは軽々と綿棒のように扱っているが、僕の腕の3倍ぐらいの幅がありそうで、とてもまともに持てそうにない……。


「そのオール重そうじゃない? 大丈夫?」


 その重さで最悪は海に引きずり込まれそうである……。


「俺と建山さんの2人を中心にすりゃ良いんじゃないんですかい?

 俺もたまには活躍したいっす!」


「景親はただでさえ存在しているだけで食糧難を発生しかねない体格ですからな。

 ここで役に立ってもらわなくては困りますな。私は計器での分析を見ていますので」


 為継がずっと見据えている機械を覗き込むが、色々な数値がせわしなく変動している――しかし、その数値が意味することは何一つ全く分からない(笑)。


「虻輝様は手持ち無沙汰でしたら、B班と距離が離れすぎていないか常時確認してください」


「そうだな」


 今電源が全部為継の計器に繋がっていてゲームが出来なくて暇になりそう……とか思っていたのが見透かされた……。


「あの! あたしはどうすればいいのっ! こう見えても結構力あるんだけどっ!」


 為継はまどかの細い体から判断して、全く役に立たなさそうな“お子様”カウントなのだろう。


「ふむ……建山さんが疲れた時のバックアップで良いでしょう」


「はぁ~い」


 まどかは体を動かしていないと落ち着かないタイプだから不満そうだった。


 そしてチラチラと視線を送ってくるが何を言いたいのか分からん……。


 最近何が言いたいのか分からん場面が増えた気がする……。


「では、出発しましょう! 目指すはこの海域を脱出して日本です!」


 建山さんが威勢のいい声を張り上げながら、大変元気よく船を漕ぎだした。

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