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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第55話 シャワー室の音

 アイマスクから謎の音が流れて目パッと覚めた。


「んぅ~! 良く寝た~!」


 日が落ちかけているが、ぐっすりと眠ることが出来た。


「そのアイマスクは虻輝様の体の状態が回復すれば自然に起こしてくれます。

 あまり寝過ぎるのも逆に体調に悪い影響を与えますからな。

 アイマスクが認めるレベルの体調に戻られたという事でしょう」


 目の前に為継がいたので正直ギョッとしたが、

 最新の技術は体力の状況も測り安眠ももたらしてくれるのか……体調が優れない時は活用させてもらうとするか。


「船の最後の役割としてシャワーを使いましょう?

 お風呂はダメみたいだけど大浴場のシャワーは使えることを確認したから」


 玲姉もスッと暗くなりつつある闇から突然現れてまたしてもギョッとした。

 一気に目が覚めた感じがした……。


「確かに、砂や泥で煤けている感じが凄いな……」


 もうシャワーなんて浴びることができないと思っていたから汗と土まみれで不快な状態であることにもあまり考えないようにしていた。だからこそ、使えるのは本当に大変ありがたい。


 船には大浴場があったがシャワー以外は床がボロボロになっており危険のために使えなくなっていた。でも、贅沢は言っていられない。


 ガスは生きていたためにお湯を浴びることができた。体から泥が勢いよく流れていく瞬間は、至福の瞬間だった……。


「あたし、こんなに汚れてたんだ……」


「お湯が疲れも流してくれるみたいですね……」


 お、おい……隣の女子専用シャワー室から音がダダ漏れじゃないか……。

 

 恐らくは大浴場全体が壊れかけているから本来の防音機能が失われているのだろう……。

 

 それに気が付いた僕は思わず、壁に耳を当てた。


 それと同時に体を洗う事にした。我ながらこういう時だけ無駄に器用だ。


 しかしわざわざ僕に聞かせたいのか? と思えるほどによく聞こえる……。


「あー、あたしもうずっと浴びていたぃ……」


「私も変なにおいしてないか心配でした……」


「お兄ちゃんに嫌われるから?」


「そ、それは……」


 島村さんは言いよどんだ。


 まどかは何もわかっていないなぁ。宿敵の間柄の島村さんが僕のことを好きなわけ無いだろぉ? 頭がおかしくなったとき限定だってぇ~。 


「それにしてもホントに胸大きいよね……。ナマで見た方が大きいって、どいうこと?」


 ええっぇ! 水着や服の上からでも大きく見えるのに、更に着痩せしているぅだとぉ!?

 まどかと島村さんの裸(僕の妄想)が目の奥に浮かんだ――鼻血がポタリと出てきた……。


「水着でもハプニングが起きないように、ちょっと抑えていますので……。

 最近の値段が張る水着は凄いんですね。自動的に体にフィットするので、あれだけ激しい運動をしても揺れて痛いとかそういったこともありませんでした」


 確かにビーチバレーをしている時も滅茶苦茶揺れているという印象を受けなかった……。


 あれは最新水着の性能のせい――いや、お陰だったのか、チクショウ。


「あたしなんてそんな悩みなんて一度も無いや……。胸も無ければ身長も無いし……」


「私は小さい体でもいいと思いますよ。私なんてご飯を沢山食べなくてはいけないので燃費が悪いですし」


「でも、あたし女らしい体じゃないし。魅力が無いよ……」


「そうですか? 体のラインとか女性らしいと思いますよ?

 私はスピードはある方ですけど、小回りが利かないですし……」


 確かにまどかのお尻は結構いい感じだよな……。

 引き締まっているけど丸い感じがして……。


「でも、お兄ちゃんは知美ちゃんの胸ばっかり見てるよ! 絶対胸が大きい方が良いよ!」


 何でそこで僕の名前が出て来るのかよく分からんのだよな……。


 僕が男の代表だとまどかは勘違いしているのだろうか……。


 以前よりは改善されたとはいえ人見知りだから視野が狭いんだろうな……。


 今度からはそんなに胸ばかり見ないようにしないと、周りからバレているレベルって相当ヤバいな……。


「あらぁ、輝君。壁に耳を押し付けて一体、何をしているのかしらぁ?」


 その声にギョッとして振り返ると玲姉が亡霊のようにユラリとシャワー室前に現れた。

 僕は思わずタオルを巻いた。


「あ、いや。違うんだ。これは……」


 一番見つかってはいけない人に見つかってしまった……。

 あらゆる嘘を吐いても思考を読まれて無意味だし、僕の人生が半ば終了してしまったことを意味する……。


「言い訳をするなんて見苦しいっ! 男らしくないわ!」


 玲姉は一気に距離を詰めるとパシッ! と音を立てて僕を叩いた。


 僕はタイルに叩きつけられた。右肩が擦りむいてしまった……。

 だが、壁にのめりこんでいないだけ、これでも手加減してもらえたと言える……。


 この衝撃も久しぶりで激高している玲姉を前にちょっと申し訳ないが、妙に懐かしく感じてしまった……。


「お、お姉ちゃん! 何やってんのぉ!」


 まどかと島村さんが少ししてバスタオルを巻いた状態でこっちに走りこんできた。


「このヘンタイ輝君が、女子側のシャワーの音や会話を盗み聞きしていたのよ!」


「い、良いじゃん! 減るもんじゃないし。何なら生身を見せてもいいし……」


 まどかは完全に頭がオカシクなってしまっている。気の毒なことに極限状態のために頭がパニックになっているのだろう……。


 2人きりだったら確実にバスタオル剝ぎ取ってそれぞれ押し倒していそうな格好なわけなんだけど……。


「ダメよ! 知美ちゃんにも強く言うけど、体を許すのは両想い限定よ!」


 玲姉は目を血走らせて鬼の形相になっており、誰も有無を言わさぬ状況だ。


「はぁい」 「はい、玲子さん……」


「輝君も女の子の裸を見たいならホントに好きな相手だけにしなさい。

 そうじゃないと例え私の弟でも変質者・不審者として扱います。い い わ ね!?」


 玲姉は僕の顔すれすれのところで圧力をかけてきた。


「は、はい……」


「隠れている建山さんも良いわね?」


 そう言って玲姉がプラスチックの椅子をポンと物陰に向けて投げる。


「うっ……!」


 パラリと壁と同化していた建山さんが腰をさすりながら出てきた。気配を全く感じさせなかったんだが……。


「全く……女湯を覗く男の子はいるけど、男湯を覗く女の子は中々いないわよ……」


 僕の裸を見たいだなんて、建山さんは偏屈な趣味の持ち主なのだろうか……。


「いやぁ。虻輝さんがシャワーを浴びられていると思うと、思わず来てしまったんですよねぇ~。虻輝さんのナマのお姿を拝見したくって」


 建山さんはそう言いながら僕に引っ付いてきた。

 下着だけの状態でこの匂いと柔らかさを感じれば僕の頭はパニック寸前だ……。


「私の前でくっつくだなんて本当に建山さんは良い度胸しているわねぇ~」


 玲姉は指のストレッチを開始した。額には青筋が浮いている。これはやべぇ……。


 パッと建山さんも離れた。


「ははは……冗談ですって。でも、まどかちゃんも知美さんも良かったじゃないですか。

 虻輝さんからシャワー室の音を聞きたいって思われるんですからね?

 そう思われるうちが華なんですから」


「建 山 さ ん!」


 更に玲姉が恐ろしい表情になったので建山さんは顔を真っ青にして慌てて僕からパッと離れていった。


 一体建山さんは何をしたいんだ……。特攻局に何かしらのデータを持って帰ろうとしていると思うんだけど、僕は特に何の情報も持っていないからな……。


 せいぜいゲームが強いことぐらいか? そのデータが何の役に立つのか全く分からないんだが……。


「とりあえず、さっさとシャワー浴びなさい。私が門番になって周囲を監視するからね?

 輝君の思考は常に読んでいるからヘンな考えは起こさないように!」


 玲姉はそう言って僕の傷ついた肩を治し始めた。

 ホッとするような優しい気持ちになれるが玲姉が叩きつけてきたので、マッチポンプである。


「輝君のせいでこうなってるんだから自業自得なのよ? 大体、さっきまで疲れて休んでいたのに元気になったことは良いことだと思うけど……」


「は、はい……反省しております」


「さっさとシャワー浴び終えてよね。この船だっていつどうなるか分からないんだからね」


 大きな岩の前でギリギリのところで止まっているという事を煩悩のせいで忘れていたが、

 確かに、いつどうなってもおかしくはない。


 玲姉は、まどかと島村さんを追いだし、自分も出ていった。


 玲姉は極めて真面目だ。僕とまどかと島村さんの何だかちょっと「危ない状況」に釘を刺したのだろう。


 ある種の規律としては素晴らしいし、これでまどかや島村さんも露骨におかしなことにはならないだろう。


 でも何だか寂しいと思えてしまうんだからホントに僕は色々と異常だ。

 迫られたら毎回困りまくって言い訳を必死に考えているくせに――。


 さっきも思わずまどかと島村さんの会話を盗み聞きしたりして本当に何がしたいのか自分でも分からなくなっていた……。


 そんなことを思いながら再び体を洗い直していた。

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