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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第53話 見えにくい疲労

「虻輝さん。ゲームしませんか?」


 そう言って建山さんが腕を絡めてきて僕に体を密着させて来る。

 頬にかかる息がとても甘く、精神を正常に保たせなければ頭がオカシクなりそうなので、ほんのちょっと離れる。


 建山さんはちょっと残念そうに手を引っ込めた。


「え、ゲームなんてどうやってやるわけ? もしかして脳内同士で対決するの!?」


 個人プレイで想定してやるのは慣れているが、

それを対人で行うためには相手がどう想像しているのか互いに理解し合えなければ不可能な芸当だ……。


「いや、そんなことは私はできませんよ……。

 日中は太陽光で電源を蓄えているのでプレイできますよ。他に使い道も無いですし遊びませんか?」


 確かに、電力を消費するような電小機器は為継が持っているもの以外は無さそうだった。

 為継も小さくうなずいたので使って良さそうだった。


 建山さんは僕の荷物をハイッと優しく渡してくれた。


「おぉ! これは僕の部屋にあったゲーム類だ! 無事だったか!」


 貴重なレベルの奴は家の部屋においてあるものの、持ってきた物は無事だったのだ。


 僕はバッグの中からゲーム機を取り出す――この手にフィットする感触が再び感じることが出来るとは……


「ええ。時間に余裕があったので身支度をさせておきました。皆荷物が少なかったので、虻輝様が一番多かった部類ですよ」


「へぇ、そうなの」


 建山さんの声を聞きながら、ゲーム機を起動させたとき――動悸が早くなり、目の前がぱあっと明るくなるのが分かった。


 僅か2日ぶりだったのだが、はじめてゲームをプレイした時の感動を思い出した。


 あの3歳になったぐらいの時は父上と母上が毎日喧嘩をしていて、居場所が無かったんだ。


 そんな現実世界にある束縛された空間とは違い、

 ゲームを持った瞬間には僕の中の何か解放された無限の可能性を感じた――夢のような世界を手に入れたと思って熱中したものだった。


 あの感動を再び味わえるとは思わなかった。


 同時に当たり前になってしまうと感動が薄れてしまうのは悲しいなとも思えた。


「流石世界一のプレイヤーですね。2日ぶりにゲーム機を持っただけで目を輝かせるんですから」


「え? そんなに? まぁ、流石に脳内での再現だけだと限界があるからね。

 ありとあらゆるパターンについて考えていくから時間を潰すことは容易いんだけど」


 他の皆ならドン引きだろうけど、建山さんはウンウンと頷いている。


「1台貸して下さい。経験値が違い過ぎるようですけど、今日こそはハンデ無しで1勝ぐらいしてみますよ! 色んなゲームで挑戦してみせるんですから!」


「建山さんも僕と手の大きさが近いから使いやすそうだよね。

 フィット感が悪いと調子が出ないこともあるからね」


 そう言って建山さんにゲーム機を渡す。

 プロレベルとなればゲーム機の大きさは0.1ミリ単位で重要になってくる。


 僅かなコンディション差が命取りになりかねないために温度や湿度で違う材質のものに替える場合もある。


 建山さんがそこまでこだわるかは知らないが、そこで不満が出にくそうなのは良いことだった。


「なるほど、そう言うところも重要なんですね」


 建山さんは笑顔になった。僕とゲームができて嬉しそうだ。


 もっとも、まともに相手になる人間はおろか興味のある人間すら建山さんしかいないからな……。

 

 僕は半ば酸素を吸うようにゲームを一人でもできるけど、何だかんだでリアルで対人でするのがゲームだからな。


 建山さんはゲームをしている時、結構楽しそうにやってくれるので僕としても気持ちが入ると言うものだった。


「虻輝様は病み上がりですので、力を入れてゲームをやられるのもほどほどにして欲しいですがな……」


 為継が僕の様子を確認しながらそう言ってきた。


「まぁ、僕はこれが命の源みたいなもんだから……。例えるなら人工呼吸器や胃瘻いろうみたいな生命維持装置に近いのかな……」


「ふむ……。しかし、先ほどからかなり白熱されておられるようですから体の負荷もあるでしょう。

 虻輝様の体調に合わせて自動的にゲームがシャットアウトするような機能を付けておきますか……」


「えっ、即席でアプリを作れるの?」


「ええ。私のところにはオフラインのコスモニューロンのような機械がありますので。

 ただ、普通の方には中々適さない操作性だと思うので適しないと思うのですが」


 為継の持っている機械は無数のボタン、画面には意味不明の言語が並んでいる。僕とは別次元だった……。


 こうして何戦か建山さんを蹴散らしていると、またしても為継がスッと隣に現れた。


「虻輝様ちょっと貸していただけますか?」


 そう言われてサッとゲーム機を奪われた。見かけによらず力が強い。


「これをゲーム機に取り付けますと、所持者の呼吸、心拍数、血流などを総合的に評価し、危険水域になれば警告音が鳴り、シャットダウンします。

 ただ、キリの悪い段階でシャットダウンしては気の毒なので、試合が終わった瞬間から強制終了するようにしましたが」


 為継に返されたときに、

 ピー! ピー! ピー! と、直ちに警報音が鳴り出した……。


「えっ……どうして、僕に何も問題ないのにいきなり鳴っているんだ? 壊れているんじゃ……」


「では、私が代わりに持ってみますね」


 建山さんが僕のゲーム機を持つ警報音は止まった。


 どうやら機械が壊れているわけではなさそうだ……。


「これは、虻輝様ご自身は大丈夫だと思われていても、潜在的にはご無理をされているという事です。  先ほどまで意識が無かったぐらいですからな。お食事前でも控えていただかないと」

 

「そうですよ。凄く残念ですけど……大分日も落ちてきましたから太陽光で充電できなくなりますしね」


「えぇ……休みたくない。というか岩とか葉っぱの上だと全然休めないんだけど……」


 この島に来て休むたびに痛い箇所が増えていくという悲惨な状況になっている……。

 心労がかなり溜まってもそれを解消することが出来ていないのも大きな要因の一つだ。


「大丈夫です。非常用寝袋が人数分ありますので。ご自宅よりは不快かもしれませんが、岩の上で直接お眠りになるよりは格段に快適な寝心地を提供できるかと」


「心身ともにお疲れですからさっきみたいな“殺してくれ”みたいな下らないことをおっしゃるようになるんですよ。

 ゲーム業界で虻輝さんを失えば、目標を失って産業そのものの衰退に繋がりますからね。

 休めるときにしっかり休んでおかないと」


 そう言いながら建山さんがまた体を密着させて来る。

 

 建山さんが近くにいることによって僕の心拍数が異常値を叩き出しているんじゃないかと思ってしまうんだが……。


「そ、そうだな。業界から求められている以上、僕の帰る場所はある。

 脳内シミュレーションのみになってしまったから気弱になってしまった」


「このアイマスクを付ければコスモニューロンを強制的にシャットダウンすることが出来ます。

 その原理といたしましては、脳の想像力を司る部分を停止させますので、虻輝様の脳内シミュレーションも行えないかと」


 そう為継が言いながら僕に半ば強制的にアイマスクを付けた。


「そうなんだ。それは休めそうだね」


 脳内でシミュレートをやろうと思っていたところを先回りされたという事か……。


 本当にぬかりないな為継は。ゲームに飢えている僕としては憎らしいほどだが……。


 このように全員が遭難したために状況としてはむしろ悪化しているのだが、

 このメンバーなら絶対に無事に日本に帰れる。

 そう確信させるだけの頼りになるメンバーだ――。

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