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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第52話 居場所はあの世?

 ずっと何か閉ざされたカプセルみたいなところにいた気がした。


 でも、逃げるようにして自らそこに入ったんだ。


 自分自身が果てしなく嫌になって……。


 何もできない無力だからこの世にいても無意味なんだよ……。


 もう気が付かないうちに精神だけの存在になって体は朽ち果てたのかもしれない。


 ここは電脳世界なのかもしれない。だとしたら、何かゲームにアクセスできないかな……。


 そんなことを思って体を動かそうとするものの、蜘蛛の巣に張りついた蝶のように全く体の自由が利かない。

 脳内でのゲームの再現も上手くいかない……。


 くそっ! 僕はもはやゲームすらすることが許されないのか! 


 僕に場所はもうどこにもないのかよ! ゲームもできないだなんて精神的に厳しすぎるよ……と絶望的な気持ちになっていたところだった。


「――君! 輝君! いつまで――の!」


 どこからか玲姉の怒鳴り声が僕に降り注いでいる気がする。


 玲姉なら、僕の状況を打開してくれるような――手を差し伸べてくれるような気がした。


「ちょっと輝君! 何寝てるのよ! 寝たままじゃゲームも二度と出来ないわよ! いいの!?」


 それは困る! と思って渾身の力を込めて飛び起きた! 今度は上手いこと体が動いてくれた。


 僕の周りには皆が驚きながらもホッとした様な雰囲気があった。


「よ、良かったぁ……でも、お兄ちゃんの起きる単語はやっぱりゲームなんだね……」


 まどかの頬には涙がまだ残ってる。お前最近泣き虫だなぁ……。


「輝君はそんなものよ。ゲームは恋人みたいなもんなんだから。

 その恋人とやらに起こしてもらえればいいのよ。2人共まだまだ輝君の扱い方が分かっていないという事ね」


 とんでもない皮肉を利かせた言い方で玲姉は厭味を言ってきた……。


 ただ、表情はとてもホッとしているような感じだ……。


 まどかはきっと必死になって声をかけてくれたに違いない。心の中でさっきの泣き虫と言う言葉を撤回してあげた。


「うぅ……起き抜けから皆、色々と酷いね――って玲姉!?

 僕は気が付かないうちにこの世を去っていたというのか……」


「私がいるところがあの世って言うのがまた酷いわね……。実在してるわよっ!」


 そう言って玲姉は僕の頬っぺたをつねってきた!


 すると、為継や輝成、景親、美甘と皆いることも分かった。


「イタタタ! ってよく見たら皆、元気そうじゃないか! 僕が倒れている間に合流に成功していたとは……」


「船は大破しちゃったから簡単には日本に戻れそうには無いけどねぇ~」


 砂浜に横転している船が視界に入った。修理は不可能なレベルで穴が開いている。


「あ……ホントだありゃ酷い……。でも、よくあれで全員無事でいたものだ……」


「柊玲子が岩を砕き建山朱美が自動運転を強引に破壊しました。

 やはりあの2人は並では無いですな」

 

 為継がそう言うと玲姉と建山さんが、やめてよ! と言った表情をする。


 確かに女の子がパワーで強引に解決しているって図式としてはあまりよろしくないかもしれないからな……。


 大丈夫だよ分かってるからと玲姉に目で語ると更に不機嫌そうな表情になる……。


「しかし、どうして体が突然おかしくなったんだろう……」


 話を逸らすために僕はそう切り出した。


「虻輝様はどうやら先日の毒がまだ体の中に残っていたようで、ストレスも相まって再び発症していたようです。

 今後も定期的に異常があれば私の持ってきた注射を打っていく必要がありそうですな」


「そうだったのか……。

 しかし、日頃何かしらと煩わしい玲姉や為継の声がこんなにも懐かしく感じる日が来ようとは……。

 でも、僕がそんな風になっていただなんてちょっと信じられないな……」


「私は心配していたのに“煩わしい”とか言えちゃう輝君の神経の方が信じられないわよ!」


 玲姉は腕を組んでプイッと僕に背を向けた。いよいよ臍を曲げてしまったようだ。


 対する為継はフッと薄く笑った。


「ハハハ……ごめんよホントに。僕はこういう奴なんだって」


 玲姉の前だと“どうせ思考読まれているから”とヤケクソみたいに本音で話しまくる癖がまた発動してしまっているようだった……。


「体の自然な反応ですから“反射的“に行われてしまうために体でどうにか制御できるものではありませんからな。

 いやはや、使えそうな医療品だけは全て持ってきておいた良かった」


「小早川さんはさぁ~。そんなに用意が良いだなんてお兄ちゃんがこんなことになることはある程度予測できていたわけなんでしょ? それならどうして中止にできなかったわけ?」


 まどかはプリプリとしている表情とは対照的に涙の跡が頬に残っている。


「科学技術局では大王局長の意向が全てですので、

 私の一存でどうにかできるものではありません。

 良い塩梅を見つけて、駆け引きでもって最善手を弾き出しているという事です」


 なんか玲姉のこういう僕を見放しつつも心配しているような感じや、為継のそう言う独特な言い回し。

 いつも見聞きしていたのが久しぶりな感じがしてとても懐かしく思えるな……。


「皆、本当に心配をかけた。もう本当に会えないかと思って、正直諦めかけた瞬間もあったんだ。

 でも、まどかと島村さんの足を引っ張ってばっかりで今もこうして皆の心の負担をかけたんだ。

 ゲームのできない僕なんて何の役にも立たないのに……」


 そう言ったと同時に虚無感に襲われた。

 ゲーム以外何の価値も無い僕がまた足を引っ張ってしまったということは心の負担が大き過ぎた。


「何をおしゃっているんですか。我々は虻輝様を中心に集まっているんです。

 多少の苦労は自ら買って出ます」


 為継をはじめとしてそう言った励ましの言葉は僕の頭の上を通過していた。

そもそも、どうしてこんなにも何も使えない僕を担ぎ上げようとしているのかよく分からないんだけど……。


「皆、聞いてくれ。次、僕に異常が起きたら“斬って”欲しいんだ」


「え……」


 涙が溢れているので視界がぼやけ切っているが、まどかが驚き、他の皆もギョッとしたような感じで一気に視線が僕に集まったのが分かった。


「僕はもはや無価値だ。ゲームでしか尊敬されないし、社会的地位も空虚だ。

 ゲームが出来ない以上、もはやただの無駄飯ぐらいでしかない。

 食料は貴重だから、足を引っ張るようなら斬って欲しい……。

 ただ、痛いのは嫌だから、せめて寝ている時に静かにあの世に送ってくれ……

 僕の居場所はきっと“あの世”が相応しいんだ……」


 話しながらドンドンと涙が溢れてきた。


「何言ってんのよ! 輝君は私の隣って居場所があるでしょ?」


 涙でぼやけた姿の玲姉が僕の手を握りながら無理やり顔を上げさせ、僕を抱きしめた。


 しばらくそうしていると、心の中も暖かいもので満たされていくような感じがした。


「で、でも。玲姉の隣なんて釣り合わないよ……」


「安心して。誰も私に釣り合う人なんていないから。

 私が1万だとして普通の人が1で輝君が0.0000001と言う評価と言う感じよ。どっちも9999以上の差があることは誤差ぐらいでしかないわ」


「そ、そうなの? それに僕、空気読めない発言連発してるし……」


「そんなの、とっくの昔に“こういう子“だって諦めているわよ」


「ハハッ……僕の評価ってそんななんだ……。

 でも、弟なのにそんな立ち位置をもらえて嬉しいよ」


 玲姉らしい新しいタイプの励まし方なので思わず笑いが出た。


 だが、玲姉の表情は冴えないものに変わった。


 空気読めよ……と誰か分からないが口にした気がした。


「あ、あれ? 何か僕マズいこと言った?」


 玲姉と釣り合う奴が確かに想像できないよな……。


「と、とにかく。私が輝君の存在を認めているのよ?

 あなたがいなくなったら寂しくて私もすぐに後を追うわ……」


「そ、それは世界の損失だ……」


 僕の命は吹けば飛ぶようなものだが、玲姉の存在は世界を救いかねないレベルだ。


 どうして僕に依存しているのかは分からないが、きっと両親に見放されてしまった以上、きっと僕を本当の弟として見ていてくれているのだろう。


 ただ単に同じ屋根の下で暮らし続けているだけに過ぎないので、

 僕にそんな価値があるとすら思えないのだが……。


「そう思うなら自分の命を粗末にしないことね」


「は、はい……」


「よしよし、今日は備蓄品から輝君の好きなのを食べましょう?

 9人無事で合流できた記念も兼ねてね♪」


 玲姉から頭を撫でてもらって色々と高ぶっていた気持ちが収まっていくのが分かった。


「よっしゃ! 今日は俺たちが料理しますぜ! 女性陣ばっかりに頑張らせたら男がすたるんでぇ! 休んでくだせぇ!」


「あら? 大丈夫かしら……でも、基本的には缶詰を空けて魚を捌いて、木の実を割るぐらいだからそんなに心配ないのかしら。

 まどかちゃん、知美ちゃん。お話しましょう?」


 玲姉とまどかと島村さんが笑いながら集まっていく。


 島村さん含めての“3姉妹”と言う感じがするよな本当に。

 僕の扱いが酷いけど……。


 景親と輝成は思ったよりもテキパキと料理を用意しているように見える。


 そんな皆を見ていると心の隙間が埋まっていくような気がした。


 僕に価値があるのか俄然不明なのだが、皆の優しさが居場所を与えてくれているのだろう。

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