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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第51話 再会の抱擁

 私たちは相変わらず虻輝さんの体調が戻られることなく途方に暮れていました。


 このままずっとこの状態なのではないか?


 これから一体どうすればいいんだろうと……不安を抱えながら頭を抱えていました。


 ふと頭を上げると、何やら水平線の向こうから凄いスピードでこちらに向かってくるものがあります。


 船のようにも見えますがまさか――。


「あれはっ! もしかしてっお姉ちゃんたち!?」


 私の幻覚かと思いましたが、まどかちゃんが目を輝かせながら立ち上がるので嘘ではない


「で、でも何だかスピードがおかしくありませんか?

 とても止まりそうには見えないんですけど!?」


「わわわ! もしかしたら突撃してくるかも! お兄ちゃんを奥に避難させよっ!」


 私が足の方を、まどかちゃんが頭を持って森の奥に運びました。


 すると、やはり船に異常があったのか、海岸の岩を粉砕しながら大きくカーブを描いて砂浜に横転しながら停止しました。


 しばらくすると、遠目で見ても背筋がピンと伸びた美しい立ち姿が見えました。


「輝君! まどかちゃん! 知美ちゃん! いるかしらっ!」


「おねぇちゃーん!」


 まどかちゃんが玲子さんと思われる方に向かって走っていきます。


 私もまどかちゃんに続いて走り出しました。


 玲子さんも速足程度ですが私たちの方に向かってきました。


 夢にまで見た救世主とも言える玲子さんの姿がズンズンと大きくなっていきます。


「まどかちゃん! 知美ちゃん!」


 バシッと私たちの体を玲子さんは受け止めてくれました。


 玲子さんは暖かくて柔らかくてとても安心できます……。

 あぁ、本当に助けに来てくれたのだと……。


「そちらも色々と大変だったご様子ですね……」


「ええ。機器が壊れて最後はまともに運行が出来なかったの。

 でも、残る5人も無事よ。この島に3人とも流れ着いてくれてよかったわ。

 輝君は――無事ではないようだけども」


「う、うん。お兄ちゃん、さっきからあんな風に体をビクつかせてるんだ……。

 あたしたちが考えられる上で何をしてもダメな状態で……」


 玲子さんは、目つきを鋭くされると虻輝さんの方に向かいます。

 私たちも急いで続きます。


 玲子さんは虻輝さんの体を触りながら何かを確かめています。


「うーん。どうにも体のどこかに異常がある雰囲気では無いわね。

 ただ、一昨日の毒がまだ体のどこかに残っていたのかもしれないわね」


 何も使わずに分かるところが凄いですね……。

これが愛のなせる業という事なんでしょうか……。


「なるほど。では、私が作った特製の血栓剤を打っておきましょう」


 小早川さんが音もなく私たちの後ろに現れていました……。


「そうね。この間倒れた影響が残っている可能性が高いわね。

 私はあんまり薬とか注射を打つことに対してあんまり良いとは思わないけど、

 即効性があるのは間違いないからね……」


 玲子さんの承諾がここでは誰の発言よりも上回るようで、

 小早川さんが“それでは“と注射をスッと打っています。


「あの……お兄ちゃん起き上がってこないんだけど……。

 足りないか、効かないんじゃないの?」


「そんなにすぐ効果があるものでも無いです。

 この類の薬は効果があり過ぎればそれはそれで問題です。

 容量を守らなければ危険ですし、

 最低でも半日は期間を空けなれば別の疾患が起きる恐れがあります」


 確かに何も変わりはなく痙攣しているんですけど、薬がそんなに早く効果があるのは逆に副作用などが怖そうですよね……。


「そ、そうなんだ……ゴメン……」


 まどかちゃんはシュンとさらに小さくなってしまいました。


「荷物の積み下ろしからしましょう? 建山さんと伊勢君、北条君が頑張って下ろしているからね。あの船も強引に止めたからいつまで無事でいるか分からないからね」


「分かりました。手伝います」


 このまま虻輝さんが目の前で目を覚まさずにヤキモキしているのもどうにも心身に良く無さそうですからね……。


「ここは私が見ておきますので、他の皆さんにお願いしたいですな。

 詳しく検査もしておきますので」


 小早川さんがそう言いました。小早川さんは虻輝さんほどでは無いにしろ細くて荷物を運べ無さそうな感じがしますからね……。

 

「2人に渡していくから、皆が運んでいるところに移していってね。

私はもしもの時に備えてこの船の近くにいるから」


 クリーンエネルギーを使っているそうですが、突然エンジンが爆発する可能性があることに備えているようです。

 

 危険な立場を自ら買って出るのは本当に凄いですね……。


 私もこんな風に立派な女性になれたら……。


 とりあえずは無駄口をたたくことなく、客室などから荷物を続々と運び出しました。


 船は横転しているものの、そんなに深刻な被害は無いようでした。


 小一時間で荷物を運び出すと、虻輝さんが視界に入る場所で休憩に入りました。


「良かったわ。とりあえずは3人共命には別条は無さそうで」


「はい、運が良かったです」


「もぉ~。一時はどうなるかと思ったよ~。

 お姉ちゃんたちにも遭えないかと思って不安でいっぱいだったんだから~」


「私もこんなに早く再会できるだなんて思わなかったわね。

 とりあえず大きな怪我が無くて良かったわ。

 荒波に飲まれていたようだからかなり心配したんだから」


「玲子さんとは思えないような取り乱しようでしたよね……。

 小早川さんに掴みかかっていましたから……」


「あれは取り乱していたのではなく、小早川君を試していたのよ? いいわね?」

 

「は、はぁ……そうおっしゃるんでしたら、そうなんでしょうね」


 荷物を運ぶ作業をずっとやっていた建山さんと玲子さんがそんな話をしているとまどかちゃんが話に入りました。


「え、何があったの?」


「小早川さんが私たちの覚悟を試すために敢えて“日本に6人で帰る”とおっしゃったんです。玲子さんは思考が読めるにも関わらず、思わず小早川さんを殺しかねない勢いで掴みかかったんですよ」


 建山さんは振り返りながらも冷や汗を拭っています。よほどの気迫だったのでしょう……。


「お姉ちゃんなら何をしてでも助けにきそうだって知美ちゃんとも話題になってたよ……」


「当たり前でしょ? まどかちゃんは勿論のこと、輝君や知美ちゃんだって私の可愛い家族なんだから」


「そ、それは光栄ですね……。でも玲子さんが思考を読み間違えるだなんてかなり珍しいですね」


「小早川君はちょっと複雑な思考法をしているから、

 いったい何が本意か分かりにくい時があるのよね。

 私も冷静になっていればそんな見棄てるようなことが本心では無いとすぐに気づけたと思うんだけど……」

 

「えへへ~。お姉ちゃんが頭に血が上るぐらい心配してもらえて嬉しいなぁ~」


 まどかちゃんは顔を赤らめて嬉しそうにしていてとても可愛らしいですね。


 私も虻輝さんとまどかちゃんのの“おまけ”として、ついでに助けていただいたと感謝した方が良いんでしょうけどね……。


 今日は自分の最悪の部分を実感させられて絶望的な気分になっているところなんですけど……。


「皆勘違いしているけど、私は結構情動的なんだから。普段結構抑えてるのよ。

 輝君あまりにも空気が読めていないと思わず手が出ちゃうけどね」


 虻輝さんは確かにいつもサンドバッグのようになっているイメージはありますね……。


「ところで、輝君のことに関して色々とあったみたいだから、後で落ち着いたところでちょっと3人で詳しくお話ししましょう?」


 玲子さんは私とまどかちゃんにそう小さく耳打ちしました。


 私はギクリとして思わず持っていた荷物を落としかけてしまったのを何とか堪えました。

 

 もう既に思考を読まれてしまった可能性が高いですけど、それにしてもこの1日半の間私はかなり暴走し続けていましたからね……。


 玲子さんになんと弁明していけばいいのでしょうか……。





 しかし小一時間ほど作業をしていたにも関わらず、虻輝さんは目を覚ます気配がありません。


「顔色はさっきより良さそうに見えるからもうすぐ起きるとは思うんだけど……。

とりあえず、ずっと2人は一緒にいたんだし。2人が声をかけてみたらどうかしら?」


「おにぃちゃーん! お姉ちゃんたちと合流できたよー! 起きろー! いつまでも寝んなー!」


「皆さん無事ですよー! あとはあなただけなんですからー!」


 まどかちゃんと私が声をかけるも虚しく島に響き渡るだけでした……。


「2人とも優しく声をかけ過ぎよ。

体の状態としてはいよいよ問題なさそうなんだから、ここまでくれば精神的な問題よ」


「そ、そうなんですか……?」


 玲子さんは機械などを使わずとも虻輝さんの体の状態が分かるのでしょうか……。


 玲子さんの私の知らない能力なのか、虻輝さんとの絆の強さがなせる業なのか――いずれにしても羨ましい限りなのですが……。


「とはいえ、無理やり暴力に訴えて起こさないでいただきたいですな。

 基本的に声掛けのみにしていただかないと、また体調を崩されてしまう可能性があるので……」


「甘やかしたところで輝君にとってプラスにはならないと思うんだけど、仕方ないわねぇ~」


 そう言いながら玲子さんは思いっきり息を吸い込みました――。

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