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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第50話 意識の無い間に……?

 玲子たち6人が上陸する直前、知美とまどかは虻輝の異常を発見するとパニックになりかけていた。


 声をかけても全く反応しないのだ……。


(知美視点)


「う、嘘……“お菓子禁断症状“とか下らないことやってるんじゃないよね!?」


 ビクン! ビクン! と痙攣しながら時折泡を吹いているような感じでとても演技のようには見えません……。


「ど、どうしましょう……。こんな状態になってしまうだなんて……」


 まどかちゃんが虻輝さんの体に触れて何か色々と反応を確かめていますが、さらに顔が青くなっていきます……。


「やっぱり演技じゃないんだぁ! お兄ちゃんしっかりしてぇ!」


「私は、毒蛇にかまれたときや溺れた時の措置は知っていますけど……。

 頭に何か異常が出てしまっている時の措置は分かりません……。

 この様子だと何かの栄養が足りていないんだと思うんですけど」


 恐らくは一昨日のゲームの世界大会で倒れた時の影響が出てしまっているのでしょう。


 でも私の知識では何ともならないんですよね……。


「え……それじゃ、お兄ちゃんはどうなっちゃうの?」


「分からないですけど……とりあえずは日差しも強いので日陰で安静に体を休めておくことが大事だと思います。もしかしたら熱中症に近い状態かもしれませんから」


 今日は昨日と比べて天気が良過ぎるぐらいで気温も30℃に近いのではないかと思ってしまいます。


「と、知美ちゃんは冷静だね……」


「私も1人ならパニックになっていると思います。

 でも、私がパニックになったらいよいよ終わりですから……」


 まどかちゃんは妹のような存在ですからみっともないところを見せられないというのもありますよね……。

 

「そ、そうだよね。騒いでも状況は好転しないよね……」


 まどかちゃんが呼吸を整えてから、とりあえず、日陰に運ぶことにしました。

 とはいうものの、日陰に運んでから何か状況が好転したわけではなく。

 痙攣は一向に止まる様子はありません……。


 私は何か改善する方法が無いか記憶を掘り起こそうと必死になって頭を抱えました。


「これは民間療法なので必ずしも大丈夫なのか分からないのですが、

 塩水を飲むと毒抜きになるという話を聞いたことがあります」


「うん! ダメもとでも何でもやってみよう! お兄ちゃんが戻ってこないとあたしの存在意義無いから……」


 私たちは大きな葉っぱに海の水を汲んでから、運んで飲ませると言った方法で地道に塩水を虻輝さんに飲ませていきました。

 

 かなり地道な作業ではあるのですが、これぐらいしか私たちにしかできなさそうなので、とにかく必死にやりました。


 ちょっとでも良くなってくれれば……。


「駄目ですね……とりあえず様子を見るしか……」


 悪くはなってもいませんが、良くもなっていないんですよね……。


 私ってこんなに役に立たないんでしょうか……。


 こんなに無力で、どうすることもできないだなんて……。


 玲子さんならこんな時どうするんでしょうか?


 ――でも考えてみても、そもそも玲子さんと私とでは発想のベースにある考え方が違い過ぎてよく分からないんですよね。


 汗をぬぐいながらそんなことを呆然と考えていました。


「そ、そんな……せめてお兄ちゃんにあたしの気持ちを伝えてから――」


 そこでまどかちゃんは言葉を詰まらせ顔を覆いました。


 私も全く同じことを考えていました。

 折角好きな人が出来たと思ったのにこんな“逃げ”の状態だなんてあんまりですよ……。


 しかし、私はこの状況下でもプラスに思えることを思いついてしまいました。


「でも……普段は何だかのらりくらりと虻輝さんは交わしていませんか?

そうなると、これは子供を作る意味ではチャンスではありませんか?」


「え?」


 まどかちゃんは口をパクパクと動かしながら、私を見つめます。頬には涙の跡がまだ残っています……。


「そ、それって……寝ている間に“しちゃう”ってこと? それは流石に……問題があるんじゃ……」


「無人島でルールが無いって――まどかちゃんも思いませんか?」


 まどかちゃんは何かを逡巡しているようで珍しく眉間にしわを寄せています……。


「……でも愛が無いままってのもどうかと思うよ。

 あたししかいない状況でお兄ちゃんに迫った人が言う事じゃないのかもしれないけどさ、

 愛が無いまま産まれた子供って幸せだと思えないんだよ」


「まどかちゃんも“愛”が無いと思ったとしても関係を迫ったんじゃないんですか?」


「あ、あたしは仮初でもいいから関係を持って、そこから発展させようと思ったんだよ。

 意識の無いままじゃ発展させることもできないよ……。

 折角だから幸せな家庭を作らないと……」


 愛とか好きとかどんなことなのか未だに分からないので兎に角何とも言えないんですけどね……。


「やっぱり、幸せな関係の両親から産まれた子供は幸せなんでしょうか?」


「わ、分かんない。あたしは両親共にどんな人かすら知らないから……」


 そ、そういえばまどかちゃんは乳飲み子の時に玲子さんと一緒に生家を追放されてしまったんでしたっけ……。


 まどかちゃんとは思えない目に光が無い表情になりました。


「す、すみません。配慮が全然足りなくて……」


「あたしについてはいいんだけど……。

でも、両親の状況って産まれてきた環境に大きく影響しそうだよね?」


「ええ」


 私は両親共に優しくて、弟も可愛くてとても恵まれた家族でしたね……。


「あたしは両親がどんな人か知らなくてもお姉ちゃんやお兄ちゃんが優しくしてくれたからどうにかなって幸せだったけど、仮にこの島に3人しかいなくて今の状態のお兄ちゃんとの間に生まれた子供って……」


「確かに幸せな感じはしましませんよね……」


「でしょ? だから残念だけど目を覚まさない状態で無理やり“しちゃう”のは絶対ダメなんだよ……」


 玲子さんとまどかちゃんはご両親には恵まれませんでしたが、虻輝さんが良かったからこそ幸せに暮らせてきたのでしょうね。

 それが、とんでもなく好きになっちゃっている要因の一つになっていると思うのですが……。


「私が早まり過ぎました。すみません。

 虻輝さんの体の状態が良くなるかもしれませんしね。

 まどかちゃんたちの気持ちを踏みにじるようなことをして本当に申し訳ありません」


 私はその場で地面に額が当たるほどの土下座をしました。


「わわわ! 土下座してって言う意味じゃないから!」


「いえ、私が間違っていたことは揺るがないので……」


「知美ちゃんは真面目だね……。ほ、ほら土下座はもう辞めてよね」


 私はようやく顔を上げて座り直しました。


「その……私は恋愛超初心者なので、まどかちゃんにいろいろと教えて貰わないといけない立場だと思っていますので……」


「両想いじゃないといけないっていうのはあたしのエゴかもしれないけど……。

 全く愛の無いまま産まれてきた子は可哀そうだと思うんだよね」


 まどかちゃんの心がこんなにも澄んでいるのに私はなんてズルくてどす黒いんでしょうか……。

 本当に自分が嫌になります……。


「でも、どれぐらいこの状態が続くのでしょうか……」


 未だ痙攣が止まらず、意識も戻りそうにないのです……。


「お兄ちゃんしぶといからさ。ケロリと復活するんじゃないかなぁ――と思いたいけどね。

 取り敢えず、抜け駆けは禁止だよ?」


「は、はい……」


 私は先ほどの発言で完全に信用を失ってしまったと言って良いでしょう……。

 手段を選ばないで男を手に入れるどす黒い奴だと……。


 いくら競争とはいえ、“禁じ手“に近い発想だったことは間違いないですから……。

 本当に私の浅ましい発想は自分でも嫌になってきますね……。

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